【 歌丸 】
◆PUPPETp/a.




80 名前:No.21 歌丸 1/4 ◇PUPPETp/a.[] 投稿日:07/02/11(日) 23:10:58 ID:3Gmf20eX
「木久蔵の右耳取っちゃいなさい!」
「はーい」
 そういうと山田くんはにこやかな顔のまま、木久蔵の右耳に力の限りのチョップをかます。
 のた打ち回る木久蔵を尻目に楽太郎は締めの言葉を告げる。
「本日はこれにておひらき」

 圓楽の勇退後、司会を務めた歌丸だったが、急性腹膜炎により一年前に亡くなった。
 その地位を継いだのは、歌丸の永遠のライバル『三遊亭楽太郎』その人である。
 楽太郎は圓楽が死亡するまで至って普通の司会を行なっていた。
 しかし圓楽の死去、それは大きく覆った。三遊亭楽太郎による独裁政治である。
 つまらないネタに対して、過剰なまでの虐待が行なわれた。
 それに対し反抗的な態度を取るものには、いかにおもしろいネタを披露しようとも座布
団をやらないという卑劣な行いをしていたのである。

81 名前:No.21 歌丸 2/4 ◇PUPPETp/a.[] 投稿日:07/02/11(日) 23:11:35 ID:3Gmf20eX
 今日も日曜夕方という世間一般でも一番憂鬱な時間に、非道なまでの行状を見せ付けられる番組が始まった。
 大喜利が開始されると、それぞれ包帯を巻いたメンバーたちが自らの処刑台とも言える席に座る。
 その後、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」に乗って楽太郎が入場してくる。
 いつものように、自らがあつらえた椅子に座り、メンバーを舐るように見つめると手に持つ扇子を広げる。
 そこに書かれる文字は「唯我独尊」である。
 そして、楽太郎の恒例の挨拶から入ろうと口を開ける。
「生贄のメンバーのご挨拶か――」
「そうはいかんぞ!」
 照明が一気に消され、会場内が暗闇に閉ざされる。
 明るさに眼が慣れている楽太郎は動揺した。
「な……何者!」
「悪逆非道な振る舞いと自らの毒舌ネタのみを優遇するその行い。番組ディレクターが許
しても、地獄の底から蘇った骨ばかりの毛がない戦士……」
「も……もしや!」
「この『歌丸』が許さん!」
 客席にスポットライトが集まる。
 そのスポットライトの中心で扇子とお茶を持つのは、まさに歌丸その人である。
「え、えーい! 歌丸は死んだのだ! 私は骨も拾った。偽者だ!」
「そう……。わたしはあの時、一度死んだ。しかし、おまえが学院長を務めていた代々木
アニメーション学院の総力を結集して『メカ歌丸』として蘇ったのだ!」

82 名前:No.21 歌丸 3/4 ◇PUPPETp/a.[] 投稿日:07/02/11(日) 23:12:07 ID:3Gmf20eX
 怯む楽太郎だが、この地位を明け渡すつもりは毛頭なかった。
「や、山田くん! やってしまえ!」
「はーい」
 幕の袖から現れた山田くんは自らの手に持つ座布団を投げつけた。
 恐ろしい回転で飛来する座布団を飛んでかわすと客席に突き刺さる。
「やるではないか、山田くん。腕を上げたな」
「はーい」
 にこやかなその目の奥に凶暴な光が灯り、メカ歌丸に数枚立て続けで座布団を
投げつける。
「歌丸シールド!」
 そう叫ぶと片手に持った扇子を広げる。
 扇子の縁から緑色の扇状のビームが展開する。
 飛来する座布団をビームで移相をずらし、全て退けている。
「負けるわけにはいかないのだよ、山田くん!」
 そう叫ぶと踵からジェットを噴射し、一気に距離を狭める。
「歌丸サーベル!」
 湯呑茶碗からジェット水流が発生し、山田くんを両断する。
「ざ……座布団と……幸せを運ぶ……山田隆夫で……」
 静かに倒れ伏し、そう言い残して山田くんは息を引き取った。
 歌丸が山田くんを見下ろす目が悲しげに思えた。
「クソの役にも立たない奴め」
 楽太郎は死んだ山田くんに対し、侮蔑の表情で見下ろしている。
 歌丸は生前は柔和な表情だったその顔を、怒りの表情へと変貌させ、楽太郎を
睨みつける。

83 名前:No.21 歌丸 4/4 ◇PUPPETp/a.[] 投稿日:07/02/11(日) 23:12:39 ID:3Gmf20eX
 楽太郎は特注の椅子のスイッチを押すと、その椅子の様相を異様なものへと変形
させていく。
 顔まで覆うそれはまるで圓楽のように馬の顔に着物を羽織ったような姿だった。
「楽太郎!」
「来い! 死にぞこない!」
 手に持つ扇子を閉じると、その先から紫色のビームが放射される。
 同様に歌丸も自らの扇子を閉じ、緑色のビームを放射する。
 踵のジェットを全開に突撃する歌丸と、機動装甲兵器『圓楽』を駆る楽太郎の勝負は
一瞬でついた。
 折り重なるように立つシルエットの中、先に膝をついたのは楽太郎だった。
 腹部の中枢回路を貫かれ、緊急救命システムにより射出された楽太郎はそれでも自らの
体を地に預けるのをよしとせず、立ったまま血を吐いた。
「楽太郎……、なぜこんな真似をしたんだ」
 そう問う歌丸に楽太郎は答えようとせず、口元に笑みを浮かべる。
「圓楽……師匠……、ただい……ま、そちらに……参り――」
 楽太郎はそのまま、絶命していた。
「楽太郎……」
 歌丸は、目を伏せ楽太郎に対し黙祷を捧げる。
 閉じた目からは涙がこぼれることはなかった。

〜終幕〜




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