【 衝撃 】
◆gvv9Qu6Mx




108 :No.26 衝撃 (1/4) ◇gvv9Qu6Mx:07/02/04 23:50:21 ID:YvSIN2jt
 義理の妹がアンドロイドだった。
 なにを言っているかわからないと思うが、これは事実だ。勿論俺の頭がおかしくなったわけでもない。
 くそっ。一体どうなっているんだ。


 ことの始まりは一昨日の夜だった。いきなり親父が「今日から我が家の一員になる小雪だ。可愛がってやるんだぞ」
とか言いながら、小さな女の子を連れてきた。
 俺には兄弟がいなかったから、二つ返事で了解した。しかもこの子、めちゃくちゃ可愛いし。
 ショートカットに切り揃えられた、栗色のさらさらの髪の毛に、くるくるとした丸い目。パーツの整った顔立ちで、
体は抱き締めれば折れてしまいそうなほど華奢だった。
その時は未開の地へ連れてこられた不安からか、表情が沈んでいたが、俺がにこりとしながら
握手を求めると、ぱあっと顔を輝かせて、俺の手を握ってきた。
 ……可愛い。パーフェクト。親父グッジョブ。
 俺はとりあえず自己紹介した。
「俺の名前は冬夜。歳は十七で、高校二年生だ。キミは?」
 俺の問いかけに、彼女は頬を紅潮させながら自己紹介を始めた。
「わたしの名前は、W-07型汎用アンドロイド《雨天弐式》小雪と申します。長いので小雪と呼んでください。
歳は製造六十七日ですが、設定上は十一歳です。現在は稼動テスト中の身ですが、これからよろしくお願いします」
 と、長い紹介文を噛むこともなく言い終え、深々とお辞儀した。
 ……はい?
 とりあえず小雪ちゃんを座らせた。そのあと親父をぎろりと睨みながら
「どういうことですかな? 親父殿」
「……そのままの意味だが? 小雪。上出来だったぞ〜」
 と言いながら親父は、笑顔で小雪の頭をわしわしと撫でた。
 小雪ちゃんは「えへへ〜」とか言いながら嬉しそうに頭を撫でられている。

109 :No.26 衝撃 (2/4) ◇gvv9Qu6Mx:07/02/04 23:50:45 ID:YvSIN2jt
 話がよくわからない。
「ということはなにか? ここにいる小雪ちゃんは、ロボってことかい?」
 その問いかけに、小雪ちゃんが答える。
「それは少し違います。正確にはアンドロイドですね」

 頭が痛くなってきた。
 俺はまじまじと小雪ちゃんを見る。パッと見人間と変わらない。
「小雪ちゃん。ちょっとこっち来なさい」
 そう言って、膝の上を指差す。小雪ちゃんは最初戸惑ったが、恐る恐る俺の膝の上にすとんと座った。
 軽いな。三十キロないんじゃなかろうか。いくらなんでもロボの重さじゃない。
 俺が難しい顔をしていると、小雪ちゃんが俺の顔を下から覗きこんできた。
「あのぅ……どうかしましたか?」
 至近距離に可愛らしい顔が現れてどきっとする。吐息が顔にかかり、呼吸していることを確認した。

 結論。俺は担がれている。小雪ちゃんは人間で、親父は困惑する俺を見ながら一杯やるつもりだ。
「オーケーわかった。親父。俺をはめようったってそうはいかねぇぞ」
「どういうことだ? はめるとは?」
 その態度に俺の堪忍袋の緒が切れた。親父はまだスッとぼける気だ。おもしれぇ。家庭内暴力してやる。
「うるせぇ! いつも家を空けてると思えば、急に帰ってくるなり人をおちょくりやがって!」
 俺は勢いよく立ち上がった。その拍子に小雪ちゃんが膝から転がり落ちる。
「ひゃっ! な、なにするんですか冬夜さん!」

110 :No.26 衝撃 (3/4) ◇gvv9Qu6Mx:07/02/04 23:54:14 ID:YvSIN2jt
 その声を無視して、俺は親父に殴りかかろうとした。その時、親父は小雪ちゃんに、
「小雪。戦闘機動。武器以外のリミッターを全解放。あらゆる手段を用いて、敵を沈黙させろ。殺しは不許可だ」
 そう言った瞬間、小雪ちゃんの目の色が変わった。優しい黒い瞳から、冷徹な蒼い瞳へ。そして、呟く。
〔yes master. mission start〕
 あの可愛らしい声はどこへやら。えらく機械的な合成音が、小雪ちゃんの口から発せられた。
 瞬間。疾風のような動きで、俺の前に現れた小雪ちゃんは、親父に殴りかかろうとした俺の手をばしっと受け止めた。
ぎりぎり
「っあ……!」
 凄まじい握力で、俺の右手を握り潰そうとする。俺は渾身の力でなんとか右手を戻した。右手には、くっきりと手形がついていた。
「くっ!」
 とりあえず距離をとろうとバックステップを踏む。しかしそんなことは無意味だった。
ひゅばっと小雪ちゃんが一飛びで俺の前に飛び出し、側頭部に蹴りを仕掛ける。俺は腕でなんとかガードする。
しかし次の瞬間、
がごっ
 頭頂部に鈍痛。蹴った方とは違う足で、かかと落としを放ったのだ。俺は思わず両手で頭を押さえた。
それがまずかった。小雪ちゃんは、がら空きになった腹に、渾身の掌底を食らわせてきた。
どごんっ!
 吹き飛ぶ俺。そして襖を二枚突き破って壁に激突した。朦朧とした意識の中、
〔missioncomplete master〕
「よくやったぞ小雪。待機モードに移行しろ」
「わかりましたー」
そんなやり取りを聴いて、俺は意識を失った。

111 :No.26 衝撃 (4/4) ◇gvv9Qu6Mx:07/02/04 23:56:19 ID:YvSIN2jt
「はっ!」
 目が覚めると、そこは俺の部屋のベッドの上だった。
「なんだ夢か……」
 心の底から安堵する。そうだよな、あんなことあるわけないもんな。
 自分で自分に問いかけ、納得する。すると、
ぐうぅ
 いかんいかん。安心したら腹が減ってきた。朝飯はっと……
 朝食を摂るために一階の茶の間へ行く。すると味噌汁の芳しい香りが漂ってきた。
「おー? 親父ー。今日は和食かー?」
「そうですね。あ、あとマスターは出かけられましたよ」
「ふぅん……ってちょい待ち」
「どうかしました?」
 うっかり流しそうになったが、何故にこいつがいる? 夢じゃなかったのか?
「あ、マスターからの言伝てです。『しばらく留守にするから、小雪をよろしく』だそうで」
 そこで、全てを思い出した。
 親父め。なにがよろしくだこんちくしょう。俺はあの一件以降、こいつが死ぬほど苦手になったのだ。
「これからよろしくお願いしますね。おにいちゃん」
 満面の笑顔で言ってのける。この笑顔でさえも、俺には恐怖の対象なのだ。
 そしてこれから色々とあるわけだが……

 あとは、推して知るべし。

終い



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