【 義理>本命 】
◆nzzYI8KT2w




28 :No.7 義理>本命 (1/3) ◇nzzYI8KT2w:07/02/04 00:31:05 ID:U4UVSXof
 私は町で小さなチョコレート専門のお菓子屋をやっている。量よりも質を考えており、
1つ1つの値段がとても高い。よって来るお客さんはお金持ちの人が多い。
そんな私の店に毎年、バレンタインになると一人の高校生がやってくる。
彼女はいつも、登校中にお店の前を通るだけなのだが、バレンタイン三日前くらいにな
るとお店に入り二つのチョコレート、大きくて豪華な物と小くて何の飾り付けも無い物を
見ながら悩んでいる。その日は結局、買わずにそのまま帰っていく。次の日も、その次の
日も同じ事を繰り返す。そして、バレンタイン当日になると開店前からやってきて、そこでも迷いつつ、
「あの、こっちのチョコレート下さい」
と、小さい方を買っていく。
ここで1つ断っていく。小さい方と大きい方では小さい方が高いのだ。
小さい方が材料に拘っており、それゆえに変な飾りつけなどしたくなかった。邪魔になるだけだ。
彼女が最初に来たのは、三年前で迷ってはいるが、その顔は嬉しそうだった。しかし、次の年からはその顔に喜びは無かった。
それ以来、彼女は毎年小さい方のチョコレートを買って行く。
今年も彼女は結局、小さい方を選んだ。
「レシートは?」
「いりません」
これも毎年の恒例の会話。いつもなら、ここで終りなのだが、今年は彼女に話しかけたくなった。

29 :No.7 義理>本命 (2/3) ◇nzzYI8KT2w:07/02/04 00:31:21 ID:U4UVSXof
「毎年、このチョコレートを買っていきますね?」
「え?」
彼女は少々驚いている。
「ああ、すいません。毎年バレンタインになると来て同じチョコレートを買って行くので、顔を覚えてしまったんです」
「そうですか」
彼女はあまり話したくは無いようだ。まあ、私もチョコレートをラッピングしながら話しているのだが。
「誰かにプレゼントですか?」
「ええ」
「そうですか。自分で言うのも何ですが、このチョコレートは高価ですからね、その人は本命でしょう」
「違います」
その言葉に急に感情がこもったのに気付き、私はラッピングの手を止めて彼女を見た。
「義理チョコなんです」
「それは高い義理チョコですね」
「そうですね。……本当はここで初めて買った時に、告白するつもりでした。でも、出来
なくて、義理チョコって言っちゃったんです。このチョコレート、見た目は普通だから、
彼も義理チョコって事に疑問を持っていませんでした。あ、すいません、チョコレートをそんな使い方してしまって」
「いえいえ、気になさらずに。それよりもあなたは告白しなくていいですか?」
 内心、チョコレートの事にショックを受けたが、気にしていないふりをして話しかけた。
「……したいです、でも、勇気が無くて。情けないですけど、誰かが背中を押してくれるとうれしいですけど」
「そうですね」
私はそう言うとラッピングを再開した。私は彼女の背中を押して欲しいという言葉を聞いて、あるイタズラを思いついてしまった。

30 :No.7 義理>本命 (3/3) ◇nzzYI8KT2w:07/02/04 00:31:39 ID:U4UVSXof
 ラッピングを終えると、イタズラ入りのチョコレートを彼女に渡した。
「告白、できるといいですね」
「はい、ありがとうございます」
彼女はチョコレートを受け取ると、お店を出て行った。
「あ、しまった」
 誰も居なくなった店に私の声が響く。
「間違えてレシートを入れてしまった。しかもラッピングの中に入れてしまったから、彼女が気付く事は無いだろうな〜。彼氏君もよっぽど鈍く無ければレシートに書いてる値段を見たら、気付いてしまうだろうな〜」
 わざとらしく言うと顔がにやけてしまうのが、自分でもよく解った。

 それから数日。あれから、少し変わった事がある。まず、あの小さいチョコレートが飾り付けられるようになった。これだと、義理チョコなんて言われる事は無いだろう。
 そして、お店の前を高校生のカップルが登校するようになった。
終。



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