【 けものは語る 】
◆yZ2tL0qbuI




968 名前: ◆yZ2tL0qbuI 投稿日:2007/01/29(月) 00:07:16.37 ID:e1JdJKhZ0
いや本当に世の中の奴らってのはどいつもこいつもとんでもない嘘吐きですよ、先生。
そりゃ僕だって時には嘘を吐くこともありますよ、もちろん先生の前では嘘なんて吐きませんけども、
嘘を吐くことが誰かのためになることだってあるじゃないですか。
そういうときには僕も嘘を吐くことはあります。でも自分のために嘘を吐くことなんて僕は絶対にしませんよ。
ましてや僕を嵌めた奴らみたいに他人を陥れるような嘘を吐くなんて。あいつら気が狂ってるとしか思えませんよ。
僕がナオコを殺しただなんて! そんなことあるわけないじゃないですか! 
先生、僕はね、ナオコのことを本当に心から愛してたんですよ。それも世の中のくだらない連中の言うような
愛だの恋だの何かじゃなくて、そんなものよりずっと高位な、精神的な世界において、魂において。
ああ、僕とナオコは常に一心同体でした。僕らはずっと一緒にいたんですよ。本当にずぅーっとね。
僕はいつだって彼女の側にいたし、いつだって彼女の愛を感じることが出来たんです。
畜生、彼女を殺した奴を僕は殺してやりたい。先生、僕には分かってるんですよ、誰が彼女を殺したか。
僕を犯人呼ばわりしたあのケンジとかいう男ですよ。先生もご存知ですよね? 
あいつは一月ほど前からナオコに付きまといだしたんです。ナオコが嫌がってるのにも気付かずに
自分がナオコの恋人だと勘違いしだし、その上僕のことをナオコのストーカーだなんて言い出したんですよ。
まったく冗談じゃない! ストーカーはあいつのほうですよ、先生。あの男は世の中の嘘吐きたちの中でも
最も汚い最低の大嘘吐き野郎だ。あいつはきっとナオコを殺した後にさも自分が第一発見者かのように
警察に通報したんですよ、絶対そうです。警察もとんだ馬鹿ですよ。あいつの話を鵜呑みにしちゃって
僕を逮捕したんですからね。まったく、あいつが嘘を吐いてることはよく考えれば分かることじゃないですか、
そうでしょ先生? それなのに警察の奴らときたら最初から僕が犯人だと決め付けて、
僕の話なんて聞こうとしないんです。しかもまたこいつらもとんでもない嘘吐きなんですよ。
自分たちの間違いを認められないからといって、事実を曲げてまでで僕を犯人に仕立て上げようと
するんですからね。信じられませんよ。先生、こんなことは許されちゃいけないことだと思いませんか? 
あいつらがいうには遅くとも遺体の見つかる15時間前、あの日の午前6時ごろには既にナオコは死んでいたはずだって。
何をどう調べればそんな馬鹿なことをいえるんですかねぇ。だって僕はその日の朝8時にナオコの部屋を出るまで、
ナオコとずっと一緒にいたんですから。ああそう、先生にはそのことを話さないといけなかったんですね。

970 名前: ◆yZ2tL0qbuI 投稿日:2007/01/29(月) 00:11:18.42 ID:e1JdJKhZ0
えー、ではその前の日のことから話しましょう。その日もいつものように夕方バイトを終えたナオコがバイト先からアパートまで帰るのを見届けると、
そのまましばらくナオコの部屋の様子を見守り続けました。そして、夜中の1時ごろだったと思いますが彼女がベランダに出てきました。
どうやら干しっ放しにしていた洗濯物を取り入れているようでした。そしてまた部屋の中に戻って窓を閉めましたが、
僕はそのときの彼女のシルエットの一連の動作を見て、どうやら彼女が窓の鍵を閉め忘れたことに気付きました。
でももちろんその段階ではそう見えただけで彼女が本当に閉め忘れているのかどうかは分かりませんでした。
僕はそのときどうしてもそのことが気になったんです。鍵は閉まっているのか、開いているのか。
なぜそれがそんなに気になったのかは今でも分かりません。気付くと僕は塀を登り、そこから渡って彼女の部屋のベランダに侵入していました。
窓に手をかけるとやはり鍵は開いていて、僕の腕の動きを追うように窓ガラスが動きました。
僕はただ窓の鍵がかかっているかどうかを確かめたかっただけで、開いていたからといってそれからどうしようかということは
一切考えていませんでした。とりあえずぼくは部屋の様子を伺ってみました。
真っ暗でしたが、大体の家具の位置程度はぼんやりと捉えることが出来ました。
クローゼット、本棚、机、ベッド、そしてベッドに寝ているナオコ……。僕はそのナオコの姿を見たとき
ナオコの寝顔をじっくりと見てみたいという欲求を抑えられず、部屋の中に侵入してしまいました。
そして足を一歩踏み入れたところでナオコは目覚めてしまったんです。反射的に彼女は体を起こし僕のほうを見ました。
けれど暗かったのでナオコは僕だって気付かなかったんでしょうね。僕をドロボウか何かだと勘違いした彼女は
甲高い叫び声をあげて僕から逃げようとしました。僕はナオコに自分だと気付いてもらおうとして彼女の手を掴み、話しかけようとしましたが、
彼女は完全に怯えきっていて必死に抵抗しようと暴れました。しばらく揉みあいましたが、やがて彼女は静かになりました。
僕だと気付いて落ち着いたんでしょうね。怖い思いをして泣きじゃくった反動なのかその後の彼女はやけにおとなしく素直でした。
彼女は何もいいませんでしたが抵抗することなく僕のすべてを受け入れてくれました。ええ、その日初めて僕らは結ばれたんです。
僕は彼女を一晩中愛し続けました。本当に素敵な夜でしたよ。朝になると僕は彼女の体を洗ってあげ、服を着せてあげて、ベッドに寝かせました。
僕が出て行こうとすると彼女は寂しそうでしたが、僕はまた夜戻ってくると約束し、彼女の部屋を出ました。
ええ、でもそれが僕が彼女に会った最後でした。その日彼女はあのケンジって奴に殺されたんです。
ですから先生、あいつや警察の言うことなんて全部嘘っぱちなんですよ。

先生ならわかりますよね、僕が嘘を吐いてないってこと、何が本当なのかも



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