【 嘘つきは泥棒の始まりらしいよ 】
◆VXDElOORQI




957 名前:嘘つきは泥棒の始まりらしいよ(1/2) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/01/28(日) 23:51:58.14 ID:vpfHQmVq0
「お兄ちゃんの嘘つき!」
 妹が部屋に怒鳴り込んで来るのはいつものことだが、今日はいつもと様子が違う。
「とりあえずそのバットから手を離そうか」
 凶器持参とは、いつもにましてご立腹のようだ。
「やだ!」
「なにをそんなに怒ってるんだい。愛しのマイシスター」
 歯をキラリと輝かせ、両手を広げて妹に近づく。うーん、俺ってば決まってる。
 妹は無言で、俺に向かって綺麗なバッティングフォームで、勢いのあるスイングを繰り
出してきた。
 ブンと俺の鼻先をバットがかすめる。鼻の皮が少し削れヒリヒリする。まさか本当に使
うとは思ってみなかった。
「当たっちゃった」
 当たっちゃった、じゃねーよ。
「洒落にならんからそのバットを置け。いやマジで」
「う、うん」
 思いがけず当たって驚いているのか、今度は素直にバットから手を離した。
 俺は素早くバットを妹の手の届く範囲から遠ざける。
「で、誰が嘘つきだって?」
「お兄ちゃんに決まってるでしょ!」
 俺が嘘を? 心当たりが多すぎてどれのことを言っているのかわからん。
「えーっと、どの嘘のことを言ってるわけ?」
「どの嘘って、そのピーマン食べると……」
「ピーマンを食べると?」
 俺の顔はきっとこれでもかというほどニヤついているだろう。自分でもよくわかる。
妹の顔はこれでもかというほど赤くなっている。それがまた俺のニヤけを増幅させる。
「お……いが大きくなるって」
「え? なんだって? 良く聞こえないなぁ」
 わざとらしく聞き返す。
「おっぱいが大きくなるって言ったじゃない!」
 妹は大きな声でそう叫び、さきほどより更に顔を真っ赤にして息を切らしている。

958 名前:嘘つきは泥棒の始まりらしいよ(2/2) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/01/28(日) 23:52:25.10 ID:vpfHQmVq0
「アレは嘘じゃないって。ピーマンは栄養満点。たくさん食べればお前のペッタンコの胸
も膨らむはずだ。そのうちね」
「そんなの別にピーマンじゃなくてもいいじゃない! 私がピーマン大嫌いなの知ってくるくせに!」
 確かにピーマンじゃなくていいな。
「ごめんな。お前が嫌いなピーマンを頑張って食べる姿が可愛くて可愛くて」
「嘘つき! お兄ちゃんは私のことからかって楽しんでるだけでしょ!」
「それはお前のことが好きだから」
「え……」
 妹は今度は怒りとは違う感情で、顔を赤く染める。
「好きな子のことをイジメてしまう。そういうことってあるだろ?」
「う、うん」
「わかったなら、今日はもう遅いからもうおやすみ。俺の可愛い妹」
「わかった。おやすみ。お兄ちゃん。今日は怒鳴っちゃってごめんね」
「気にするな。おやすみ」
 部屋から出て行く妹を見送って、俺はやっと一息つく。
 嘘が招いた怒りを収めるためにまた嘘をつく。これが嘘が嘘を呼ぶってやつか。
 とりあえず今日のところは俺も寝よう。

 次の日、妹の様子が予想通りおかしい。
 俺の顔を見ると顔を真っ赤にして避けるようにどこかへ行ってしまう。
 嘘つきは泥棒の始まりとはよくいったものだ。俺も盗んでしまったのかもしれない。
 妹の心を。
 




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