952 名前:うそつき少年 1 ◆kCS9SYmUOU 投稿日:2007/01/28(日) 23:48:16.41 ID:hYRSRD7d0
とある村に少年がいました。その少年はいつもほらを吹き嘘をつき、
村人を騙して遊んでいました。具体的に言うと……
「おおーい! 魔物が襲ってくるぞぉー!」
「な、なんだってー!!??」
「ああ……嘘だぜ……」
「なんだ嘘かよー。びっくりさせんなって。はは」
とまぁこんな具合です。
しかしなぜか村人は彼の嘘を笑って許すのです。
なぜだろうか。なぜだろうか。
少年は思いました。みんな僕の嘘に慣れているんだと。
しかし疑問は残ります。みんなけっこう慌てて出てくるのです。ちゃんと武器を持って。
住人たちも避難します。これはけっこうしんどいことです。
それでも少年が咎められることはありませんでした。
なぜだろうか。なぜだろうか。
おもしろくない。とっても、おもしろくない。
そう思うのも無理ないことです。そして少年は、嘘をつくのをやめました。
それからしばらく、少年は何も話さず暮らしました。
無口で羊の世話をして、無口でご飯を食べて。
そんな生活を続けていると、村人から不審がられました。
「おい少年。今日も嘘、つかないのか?」
「ねぇ少年。ひょっとして、具合、悪いんじゃないの?」
953 名前:うそつき少年 2 ◆kCS9SYmUOU 投稿日:2007/01/28(日) 23:48:48.55 ID:hYRSRD7d0
少年は言いました。
「そんな、気分じゃないし」
村人のおじさんが、言いました。
「どうしてだい? キミがおとなしいと、我々も困ってしまう」
少年は、さっきよりも語気を荒げて言いました。
「だってさ! 嘘ついたって、誰もしからないじゃないか!
なんでだよ! おじさんたちだって、ホントは迷惑してたんだろ!?」
少年は、自分の思いをぶちまけました。少年は身寄りがありませんでした。
なので、基本的に構ってちゃんなのです。
おじさんは、困ったような顔をして、言いました。
「少年。キミは嘘をつくとき、何かを感じてたんじゃないかい?」
「え?」
少年は、きょとんとして首を傾げました。
確かに。なぜかむらむらと、無性に嘘がつきたくなる衝動に駆られるのです。
おじさんは言いました。
「実はね、キミが嘘をつくと、数時間以内に必ず魔物が現れるんだ。
キミは天然の、魔物探知レーダーなんだよ」
なんたること。少年は、嘘で村を救っていたのです。
「でもさ! おじさんたちは、すぐに引き上げてったじゃないか!」
「それはね、キミが真実を知ったら、ひょっとしたらその能力が失われるんじゃ
ないかと思ってね。今までずっと、騙されたフリをしていたんだ。
もちろんその後は、みんなで魔物狩りさ」
954 名前:うそつき少年 3(完) ◆kCS9SYmUOU 投稿日:2007/01/28(日) 23:49:19.21 ID:hYRSRD7d0
おじさんは微笑って言いました。
そんなばかな。
少年は、騙していたと思ったら、逆に騙されていたのです。
「じゃあ、もう、嘘ついてもいいの?」
「ああ。君の嘘がないと、村が辛気臭くなっちまうからな。
その様子じゃ、問題なさそうだしな」
少年は泣きました。おじさんの胸の中で。
「うう、ああ、うわああああああああ……!!」
そして少年は、嘘つき魔物探知レーダーとして、
そしておじさんの養子として、
村で一生、幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
END