【 最強の男 】
◆aDTWOZfD3M




309 名前:最強の男1/5 ◆aDTWOZfD3M 投稿日:2007/01/21(日) 23:34:06.56 ID:HO7eXcrg0
 阿部英雄(十七歳・学生)がその事件に巻き込まれたのは、澄みきった冬の空
に流星群があらわれた、まさにその翌日の事だった。
 彼はその日もいつも通りに学校に行き、いつも通りに授業を聞き流し、いつ
も通りに帰宅してパソコンの電源を入れ、いつも通りにニュー速VIPを開い
た。
「さ〜て、もう復帰したかな?」
 昨夜は一晩中『流れ星キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!! 』ス
レが乱立してサーバーが落ちかけ、そのせいで彼の立てた新ジャンルスレは僅
か5レスでdat落ちした(と、彼は勝手に解釈した)。
 しかし今日は時間がまだ早いせいか、昨日とはうってかわって静かである。
「う〜ん、盛り上がりがたりんなぁ〜。 ここは一つ俺が出るべきか……」
彼は早速、もはや日課となったスレ立てをしようとマウスをクリックした。
 その瞬間、突然右手に感電したかのようなとてつもない衝撃が走り、彼の脳
髄を貫いた。
「は、はんぎゃ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 視野が一瞬ホワイトアウトしたかと思うと今度は真っ暗になり、彼の意識は
まるで井戸の中に落ちていくかのような感覚につつまれた。さらに脳がまるで
洗濯機にでもぶち込まれたように彼の意識は激しくシェイクされる。
その時、
『おい、聞こえるか!』
彼の頭の中に、若い男の声が響いた。
 普通ならば驚くべき現象だが、あいにくと今の英雄にはそんな余裕は無かっ
た。 彼はその声にすがって、なんとか意識を失うまいと自らを叱咤した。
「き、聞こへるっ! 聞こえるよほぉ〜〜」
ろれつは相当怪しいながらも、なんとかそう答えた。
『おっ、繋がったか! それは良かった!』
 頭の中の声は妙に嬉しそうな声で言った。
「しょ、しょんなこどより、何とかしてへぇ〜〜」
『ん? おお、すまない。多少出力が強すぎたようだな……。 ほれ!』
 その声とともに、すうっと潮が引くように彼の意識は解放された。

310 名前:最強の男2/5 ◆aDTWOZfD3M 投稿日:2007/01/21(日) 23:35:00.38 ID:HO7eXcrg0
『驚かしてすまない。実は君に折り入って大事な話があるのだ』
 そこでやっと彼は己の置かれた状況の異常さに気がついた。
「ちょ、ちょっと待てっ! その前に、お前は一体何なんだ? 俺の頭に何をし
たっ!」
『ああ、そうか地球人は音波による物理的会話しかまだできないんだったな、
これは多層位相差空間をバイパスした直接思念送信だ』
 偏差値三十七の彼には(例え彼が偏差値七十でもそうかもしれないが)、理解
を超える言葉の羅列だった。
「わけがわからん……」
『君の意識内における概念で言うと、ワープとテレパシーを組み合わせたもの
というのが一番近い』
「把握した……と思うたぶん…… で、お前は?」
 VIP用語が微妙に混ざったのは彼が無意識に日常にすがりつこうとしたた
めだろうか。心理学者ならば何らかの意味づけができるだろう。
『うむ、詳しく言っても理解してもらえないだろうから、まあ端的に言うと宇
宙人だな』
「う、宇宙人!!」
『そう、君たちの星とは別の惑星起源の知性体だな』
「そ、その宇宙人が一体何でまた俺みたいな平凡な高校生にコンタクトしてく
るんだよ! 普通そういうのはアメリカの大統領とか、国連事務総長とかそう
いう所に来るんじゃないの!?」
 平凡な男子高校生の思いつく『普通』なんぞせいぜいその程度である。
『いや、君でなければ成らないんだ』
「だから何故!?」
『うむ……、まずはみてもらった方が早いだろう。 君の目の前にあるパソコ
ンは今ネットワーク上のサイト、「2ちゃんねる」の「ニュース速報VIP」
というものに繋がっているな?』
 突然の身近な単語の登場に、彼は驚かざるをえなかった。
「ええっ、VIPがなんの関係が……」
『良いから、とりあえず適当なスレッドを開いて見てみな』

311 名前:最強の男3/5 ◆aDTWOZfD3M 投稿日:2007/01/21(日) 23:36:02.49 ID:HO7eXcrg0
 英雄はとりあえず声の言うままにスレを開いてみた。
「えっ?」
 そこにあったのは驚くべき光景だった。

新ジャンル「ツンだら」

1 :閉鎖まであと 4日と 18時間 :2007/01/19(金) 02:39:48.55 ID:AZwagywA0

鱈「か、勘違いしないでよね べつにあんたのために練り物になったわけじゃ
ないんだからねっ!」

「な、なんという糞スレ……」
 思わず彼はそうつぶやいてしまった。
「これは酷い、だが、この糞スレがどうかしたのか?」
『他のも見てみな』
 そこで別のスレタイをクリックする。すると、


うわあああああああああああ

1 :閉鎖まであと 4日と 18時間 :2007/01/19(金) 02:39:49.59 ID:ndikywA0

オレのチンコ臭すぎワロタ

「……これはないだろう常識で考えて…………」
『どうだ、二連続で糞スレを見た気分は。 他のも見てみるか? 全部こんなん
だけど……』
 その言葉に英雄はとっさに噛みついた。
「なっ! そんなわけないだろ。 だって、過疎な時間帯とはいえ、こんなにス
レがあるんだぜ? それが一つ残らず糞スレなわけがあるかっ!!」

312 名前:最強の男4/5 ◆aDTWOZfD3M 投稿日:2007/01/21(日) 23:37:19.01 ID:HO7eXcrg0
 そういって手当たり次第にスレを開く。しかし、開けても開けても、それら
は全て似たり寄ったりの糞スレ揃いだった。
「そ、そんな馬鹿な……。 今までVIPを盛り上げてきた鬼才たちは? 神た
ちは? あのVIPクオリティはどこにいっちまったんだ?」
「一体……、一体何が原因なんだ? お前は知ってるんだろ?」
 そう、この声の主ならそれを知っているに違いない。そうでないなら、わざ
わざ彼にコンタクトしてくるはずがない。
『それは、ある宇宙生物が原因なんだ』
「うちゅうせいぶつぅ?」
『そう、まだ正式な名前は無いが、我々は仮に「ノウクイイナゴ」と呼んでい
る。 この生物は知性体の精神エネルギーを食べ、宇宙を群れで飛び回って生
活している。 これが昨日の流星に乗って地球に飛んできたんだ』
「それが何でVIPに影響を?」
『彼らは知性体が精神エネルギーを何らかの形で発散するときに、それをかす
めとって食べる。特に君たちが「創作力」だとか「発想力」などと呼んでいる
エネルギーが好物なんだ。つまり彼らは人間の「才能」を食べてしまうのさ』
 そこでやっと英雄も気がついた
「!! じゃあVIPがこんな糞スレだらけなのはみんな才能をそいつらに喰
われてしまったからか!」
『その通り。 このVIPというところでは、たくさんの人間が大量の才能を
無駄遣いしていたからな。彼らにとってはごちそうの山だ。しかも彼らは電
子エネルギーの流れに乗って移動できる。パソコンからパソコンへと電話線を
介して感染していったわけだ。』
「なんとまあ……」
 信じがたい話だが、たしかにそれでこの状況の説明は付くように思えた。
『そこで君の出番だ』
「お、俺ぇ!」
 突然自分の出番だと言われて彼はうろたえた。
「だ、だって俺はただの高校生だぞ! それが宇宙生物に対して何ができるっ
て言うんだ!?」

313 名前:最強の男5/5 ◆aDTWOZfD3M 投稿日:2007/01/21(日) 23:38:45.07 ID:HO7eXcrg0
『いや、君でなければできないことなんだ』
 急に声がシリアスな響きを帯びた。
『いいか、ノウクイイナゴはパソコンを媒介に人の才能を食べる。それは才能
が正のエネルギーだからだ。だが、彼らは負のエネルギーは食べる事ができな
い。だから負のエネルギーがある所では生活できないわけだ』
『つまり彼らを駆除するためには、このVIPを通じて人々に対して負のエネ
ルギーを流し込めば良い』
『そこで我々はこのVIPの過去ログをあさり、もっとも大量の負のエネルギ
ーを流し込んでいるスレを立てた人物を捜し出した…………、それが、君だ』
 声は厳かにそう宣告した。
 英雄は思う。才能は正のエネルギー、それを喰われたVIPPERは良スレ
を立てられなくなった、ということは、負のエネルギーがスレを糞スレにする
ということか? つまり、つまり……
「……つまり俺が立てたスレが最強の糞スレだった、と言いたいわけか?」
『そう言うと身もふたもないが、まあそういうことだ。そんなわけで、君はこ
れから大量の糞スレを立ててくれ。これ以上彼らが増殖すると我々の星も危な
いんだ。助けると思って、ね? 君もVIPを救いたいのだろう?』
 媚びるような調子で声が彼の頭に響く。普段なら自尊心がくすぐられる所だ
が、この場合は……
「……本当に俺しかいないのか?」
『……そうだ。君しか我々を、VIPを救える人間はいないんだ』
「わかった、やってやろうじゃねえか!!」
『そうか! やってくれるか!』
「おうよ! この鬱憤を糞スレ立てまくりで晴らしてやるぜコンチキショー!」
 そう叫ぶやいなや、英雄はパソコンに向かい、キーボードから最初のスレタ
イを書き込んだ。
 
 ここより、VIPを救った英雄の伝説が始まる。     《終》



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