316 名前:VIPPERたる者(1/5) ◇bvsM5fWeV 投稿日:2007/01/21(日) 23:40:17.27 ID:n+sXkas90
女が住んでいるとは思えない、殺風景な部屋だ。無印良品のテーブルに簡素なソファーベッド。脱ぎっぱなしの寝巻きが妙に生々しい。
就職活動に備えて東京の姉のアパートに転がりこんだものの、意外とする事が無い。就活のピークは三月から六月で、今はまだ一月の中旬。
俺がこうして日向ぼっこをして伸びている所以である。
突然、まったりした空気を打ち破るようにインターホンが鳴る。こんな時間に誰だろう。姉の帰宅は普段は七時過ぎだ。何より、自分の家に入るのにインターホンは鳴らさない。
「お届けものでーっす」
人の良さそうなおじさんの上ずった声がドア越しに聞こえた。インターホンの意味が無いじゃないか。
「こちらにサインをお願いしまーっす」
俺が玄関に出てサインをするなり、おじさんは素早く頭を下げ、丁寧にドアを閉めた。姉宛ての商品だった。と言っても居候に届く荷物は無いので当然ではあるが。
宛先:三橋陽子様 商品名:ピオチンZn
商品名を読んで、サプリか何かだろう位に考えた俺はためらいなくワイルドに封を開けた。幾重にも重なった緩衝材からぼんやりと、ピンク色の何かが見えてくる。
一枚はがすごとにピンク色の輪郭がはっきりとしてくる。気付いた時には手遅れだった。後悔先に立たず。それはサプリなどではない。大人のオモチャだった。
――VIPPERは当てにならなかった。二言目にはうp。三言めには安価。童貞死すべし。しかし俺も同じ穴のムジナだ。安価にしたがって姉の下着とバイブをうpしてしまった。
本当のことを言えば、この千載一遇のネタを前にVIPPERとしての血が騒いだのだ。下着うpを機にスレは一気に加速した。俺の不安も加速した。クオリティの追求と姉への気まずさ。自己矛盾だ。
午後七過ぎ。
ビッペモンのwktkと俺の動揺をよそに、いつもの時刻に姉は帰ってきた。
気まずい。ネット上でいくらクオリティがどうのと言ってみても、やはり姉の生々しい部分に触れてしまった事実に変わりはない。
どう切り出したものかと思案しているうちに先手を取られた。
「ただいまー。これどうしたー?」
姉は何も知りませんよ、といった素振りで箱を持ち上げ、左右にカタカタと振って見せる。なんという能天気。自分で買ったエログッズも忘れているとは。この姉は間違いなく天然。
そんなことを考えていると、ワイルドに開封されたダンボールからバイブがまろび出た。あれだけ振れば中身も出るだろうに・・・。
317 名前:VIPPERたる者(2/5) ◇bvsM5fWeV 投稿日:2007/01/21(日) 23:40:56.61 ID:n+sXkas90
「何これ? あんた買ったの?」
どうやら姉は自分で買ったものを覚えていないようだ。
こうなった以上は腹をくくるしかない。俺はかしこまって言った。
「いや、あのー、非常に申し上げにくいのですが、まず、それは大人のおもちゃ即ちバイブでして、宛先もお姉さま宛てです。
お姉さまが購入されたものを無断で開封してしまって申し訳ない所存で・・・」
「いやいやいや、こんなの私買った覚えないよ!!」
「おそらく抑圧された性欲が無意識にお姉さまを操ったのではないかと思われま」
言い切らないうちにビンタが飛んだ。
昔から姉の攻撃は本気モードだ。余りの痛みにしばらくうずくまっていると、何かを思い出したように姉は言った。
「あ、分かった。これ隣のマンションの人のだ」
「え?」
どうも姉との会話は要領を得ない。
要領を得ないながらも会話を三、四往復するうちに事態は飲み込めた。要約すると、隣のマンションに姉と同姓同名の女性がいて、なんと部屋番号もうちのアパートと一緒である。
以前にも何度か誤送があって面識はあるが、面倒くさいので封を開けたお前が届けに行け、という事だ。
俺はすかさずスレにさっきの話をそのまま報告し、明日の行動安価に未来を託した。
600 名前: 愛のVIP戦士 投稿日:2007/01/13(土) 20:20:14.60 qMikuRuJ0
ブーンしながらドアをノックし、内藤ホライゾンと名乗り、VIP語で会話。
誤って開封したお詫びにローションをプレゼント。
決めゼリフは「それがVIPクオリティ」
ブーンをしながら帰宅。
/(^o^)\ナンテコッタイ
やはりVIPにはロクなもんがいない。だが普通なら逃げるか適当に捏造するのだが、このネタのような現実に舞い上がっていた俺は、軽率にも安価を実行することにした。
それがVIPクオリティ。魔法の言葉だ。
318 名前:VIPPERたる者(3/5) ◇bvsM5fWeV 投稿日:2007/01/21(日) 23:41:23.43 ID:n+sXkas90
――翌日。
首尾よくローションを入手し、三橋さんのお宅へ突撃した。まあ俺も三橋なのだが。
呼び鈴を鳴らすとすぐにインターホンから声が聞こえた。
「すいません、こちら三橋陽子さんのお宅でよろしいかお?」
「はい、そうですが」
「実は、手違いでお宅のお届けモノがうちに届いたみたいなんだお」
意味不明なVIP語に困惑しているようだ。やや間があって後、
「少々お待ち下さい」
と言って受話器が切られた。マンションのグレードやバイブを購入した点から年増で独身のオバサンを想像していた。だが予想は見事に外れた。姉と同じかそれよりやや年上。
二十五、六歳くらいの小奇麗な女性が玄関に出た。一瞬心を奪われたがここが一番のクオリティの見せ所だ。ぼーとしているいる場合ではない。
「三橋陽子さんですかお? な、内藤ホライゾンだお!!」
やはりあっけに取られている。
「間違ってバイブがウチに届いたみたいだお。うっかり開けちゃってすみませんだお」
女性の頬が徐々に朱色に染まる。
「姉と同姓同名で部屋番号も一緒だったんだお。それでウチに配達されたんだお。お詫びにローションを差し上げますお!!」
バイブとローションを受け取った女性の顔が見る間に朱に染まる。場が持ちそうに無かったので、取ってつけたように安価の決め台詞を吐いた。
「なんて言うか・・・それがVIPクオリティだお!!」
女性は困ったような、恥ずかしいような、侮蔑するような表情を見せる。
いよいよ場が持たなくなったので、顔を真っ赤にさせた三橋さんを横目にブーンをして帰った。
その後のスレはグダグダだった。報告を投下してしばらくは伸びたが、他にネタが無かったのでそのまま流れてしまった。
だが一瞬とはいえVIPの奴らの注目を集めたのは快感だったし、俺は十分に満足だった。
319 名前:VIPPERたる者(4/5) ◇bvsM5fWeV 投稿日:2007/01/21(日) 23:41:54.74 ID:n+sXkas90
――姉のところに転がりこんで早三ヶ月が過ぎた。就活もいよいよ本番を迎え、新調した手帳は説明会やら面接やらの予定でいっぱいだった。
この日は第一志望の四次面接。これを通過すれば内定はほぼ確定だ。
面接は午後からだが、早めに起きて身支度を整えた。ネクタイを締めると気分も引き締まる。スーツ姿もすっかり板についてきた。自分で言うのもなんだが、かなりイケてる。
イケてる俺は肩で風を切るように面接会場へ向かった。
面接は個別面接で、待合室には緊張の糸が張りつめていた。
「次の方、どうぞ」
何度も受けて慣れているはずの面接だが、この瞬間だけは常に初めての感覚だ。
緊張の糸が最大限に張りつめる。部屋に入ると、面接官は四人いた。男三人に女一人だ。向かって左端の面接官から順に質問を受ける。
だがどの質問もこれまで受けてきた質問の焼き直しだった。これはいける。
320 名前:VIPPERたる者(5/5) ◇bvsM5fWeV. 投稿日:2007/01/21(日) 23:42:20.48 ID:n+sXkas90
面接が始まって二十分ほどが経っただろうか。女性の質問する順番が回って来た。
「内藤さんにとってVIPクオリティとは何ですか?」
発された言葉を理解するのに時間を要した。言葉が言葉として認識されない。
他の面接官も呆気に取られている。
「内藤ホライゾンさんで間違いないですよね?」
「三橋君、何を言っている・・・」
上司と思しき面接官の言葉を遮るように女性は続ける。
「もしかして忘れたかお? お姉さんと同じ名前の三橋陽子だお。こないだはローションどうもだお」
姉と同じ名前、と聞いて全てを思い出した。そして数ヶ月前の痴態が脳裏をぐるんぐるん回る。紛れもなく、あの時の女性だ。さらに三橋さんは悪戯っぽく続ける。
「内藤君にとってVIPとはなんですか? またVIPで得た経験は当社にどのような形でフィードバックされると思いますか? 翠星石はあなたの嫁ですか?」
立て続けに質問されてもこんな状態ではとてもじゃないが答えられない。そして、この面接に相応しい回答を俺は持ち合わせていない。
彼女はVIPPERだった。
「随分驚いているようですね。答えられないようでしたら、仕方がない。ブーンをしてください」
振り絞るように俺は答えた。
「ブーン・・・ですか?」
「そうです、ブーンです。VIPPERの証、ブーンです」
まさかこんなところで、こんなシチュエーションでブーンをするはめになろうとは。だが俺は意を決してブーンをした。
「⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン 」
「ああ、素晴らしいブーンです。ではそのまま五周ほど旋回してください」
俺は面接官のテーブルを囲うようにブーンをした。シュールってレベルじゃねーな、これは。
「内藤君にはブーンしたまま部屋を出てもらいますが、最後に質問等はありますか?」
もう、やけくそだった。
こんな状態で発せられる言葉なんて一つしかない。
「それが、VIPクオリティ!!」
俺はバイブを開封した時と同じく派手にドアを開け、ブーンで会場を飛び出した。
了(;^ω^)