【 繋がり 】
◆3f0Xs6b.AU




293 名前:繋がり(1/4) ◆3f0Xs6b.AU 投稿日:2007/01/21(日) 23:26:09.74 ID:ZdV7dtld0
 両親が俺に嘘をついていた。十五年と九ヶ月、俺はだまされ続けた。
 親子喧嘩の末、親父は言った。お前は拾ってきた子だと。
 俺は自分の部屋に逃げた。現実から逃げるために。
 真っ暗な部屋で、首にある差込口を触る。これは生後直ぐに受ける手術で埋め込まれたものだ。きっと今の両
親から貰わなかった唯一のものだろう。
 俺はそれに電極を差し込む。
 感覚が抜け、暗転し、直ぐに元通りになる。現実でなくなり、俺でなくなった。
 目の前にはのっぺりとした建物と半透明の人々がいる。衝撃的なことがあっても、ここは何も変わっていない。
 衝突しない群集をすり抜け、酒場まで歩く。
 背が一際低い建物に到着し、扉を開き、中に入る。何の模様も無い、丸い机と四角い椅子が設置してある。
 ぐるりと見渡すと、まばらな人の中で手を振っている奴がいる。
 とり合えず、手を上げてみるが、誰だかわからない。
「おう」「一日ぶりだな」「あー、私は久しぶりだ!」「あれ、お前ってこいつに会ったことあったっけ?」
「あったよ! たぶん!」「まあ、いいや。そんな事よりって、おい!」「なに、ぼんやりしてるの?」
 こいつが誰か思い出した。いつも適当な付き合いをしている奴らだ。
 今日も上っ面の会話をしようと思うのだが、言葉が出ない。こいつらの間に、薄い壁があるような気がした。
「悪い。顔洗ってくるわ」便所へ歩く。
 ここでは排泄をする必要は無い。だから、便所では鏡を見るか、顔を洗うかぐらいしかやる事が無い。だが、
ご丁寧にも、必要の無い便器と個室がちゃんとある。
 その全く無駄な個室に入り、鍵を閉める。ただ、考えたかった。偽りの繋がりについて。
 便所の床を見る。だが、答えはそんなところに落ちてはいなかった。
 扉を見る。そこには文字があった。下品な言葉。下手糞な絵。下劣な罵倒。
 だが、本心の繋がりだと思えた。だから、俺の本心もぶつけてやろうと思った。
 万年筆を取り出し、偽りの繋がりについて、率直な気持ちを書く。


294 名前:繋がり(2/4) ◆3f0Xs6b.AU 投稿日:2007/01/21(日) 23:26:34.71 ID:ZdV7dtld0
 仮想世界の自己修復機構。
 一日一回の巡回。破損状況を確認。
 確認中…………異常発見。
 場所を捜索。
 場所=全ての便所の個室の扉。
 原因を調査。
 原因1=異常な情報の集中。
 原因2=空間の連結――便所の扉への書き込みが全ての便所の扉へ影響。 
 詳細を調査。
 1000回の落書き。
 対策法無し。
 対策を情報貯蔵庫から検索。
 発見。『2ch』に状況が酷似。
 対策1=扉を封鎖。
 対策2=扉の見える位置に文字。文字=『このスレッドは1000を超えました』

296 名前:繋がり(3/4) ◆3f0Xs6b.AU 投稿日:2007/01/21(日) 23:27:03.23 ID:ZdV7dtld0
 親父が俺の機嫌を取ってきた。昨日のことを後悔しているらしい。
 偽者なのにご苦労なこった、と言うと、引き下がっていった。
 真っ暗な部屋で、俺は首の差込口に電極を差し込む。現実でなくなり、俺でなくなった。
 酒場の便所を目指し、足を進める。俺の本心について、何か反応があるかもしれない。
 他も事には目もくれず、目的地へたどり着いた。
 昨日と同じ個室の前に立つ。扉を開けようとする。
 だが、開かなかった。閉まっていた。
 扉を見てみると何か書いてある。『このスレッドは1000を超えました』
 意味不明だが、なんとなく、もうこの扉が開く事は無いと感じた。
 なにか、信じていたものに裏切られた気分になった。
 便所から出る。昨日のあいつらが呼んでいた。
「おい! 知ってるか? 便所に落書きがされてるらしいぜ」「ここはされて無いみたいだけど、他では酷いん
だって!」「下らない事から、青臭い事まで」「そうそう!」「『しね』だとか熊の絵だとか」「『自己修復機
構の判断は狂ってる』とか」「『なにがおきてるんですか』だとか」
「青臭いって、例えばどんなんだ?」上っ面の何も考えていない言葉が口から滑り出た。
「んー、『ぼくたちは繋がっている』から続く長文だとか」「『落書きはいけない事だと思います!』とか」
「『偽のつながりなんて無いのと一緒じゃん』だとか、書いたの俺だけどな」
 やっと気付いた。偽りの繋がりだとか考えていたが、それは間違いだと。本当の繋がりが誰にもあるんだと。
「なんか、筆記用具もって無いか?」
「何すんの?」
「落書き」親父の背中が頭をよぎる。「してから、親父に謝る」
 久しぶりに本心を言ったと思った。

297 名前:繋がり(4/4) ◆3f0Xs6b.AU 投稿日:2007/01/21(日) 23:27:25.11 ID:ZdV7dtld0
 仮想世界の自己修復機構。
 一日一回の巡回。破損状況を確認。
 確認中……異常発見。
 場所を捜索。
 場所=全て。
 原因を調査。
 原因=異常な情報の爆発。
 詳細を調査。
 1000回/秒の落書き。
 対策法無し。
 対策を情報貯蔵庫から検索。
 発見。『2ch・ニュー速VIPにおける閉鎖時』に状況が酷似。
 対策=不明。失策。
 失策。
 失策。

<了>



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