【 祭りのあり方 】
◆/7C0zzoEsE




278 名前:祭りのあり方(1/5) ◆/7C0zzoEsE 投稿日:2007/01/21(日) 23:15:08.10 ID:QFaXHffQ0

【都内某所○×中学校を生徒丸ごと焼却する】
 2ちゃんねるの掃き溜め、ニュース速報VIP板で建てられた。
そのスレッドのタイトルは、一般人が見ると嫌悪感を促すものだった。
これ沿って本文は、
「チョコがもらえなくてやけになったから、
二月二十日正午に焼却する。俺は本気だ」
 と趣味の悪い冗談混じりの犯罪予告だった。
 しかし慣れというのは恐ろしいもので、
住人達、いわゆるVIPPERの反応は薄かった。
「これは、完全アウト」
「通報しますた」
 と、お決まり通りの返事は返す。しかし何番煎じだと、
マンネリ化していると、覇気が感じられ無かった。
 警察にいくつかの通報が送られる。
しかし、この時期あいにく大規模な犯罪が多発していることで、
警察も忙しくまともに相手をする暇が無かった。
 ろくな祭りにもならない、と。
VIPPER達は、そのスレに徐々に興味を失っていった。
 
 この様子を見ている、一人の男がいた。
名前は誰に知られることもなく、仮に内籐とされる。
 彼は人付き合いが苦手で、著しく内向的な性格。
ただし正義感が人一倍強かった。そして、発想力も豊かだった。
 そんな彼がこのスレッドに書き込む所から始まった。
「こいつの思惑通りには行かないぜ! 俺が子供達を救ってやる」
 VIPPERの大好きな、祭りが。

280 名前:祭りのあり方(2/5) ◆/7C0zzoEsE 投稿日:2007/01/21(日) 23:15:32.42 ID:QFaXHffQ0
容疑者が書き込みした内容から、
多少検索するだけで中学の場所等が特定できた。
 内籐も同じく都内に住んでいることから、
その場所に行くことは難しく無かった。
 また彼はつい最近に会社を解雇されたばかりで、
時間の余裕も、十分にあったのである。
別にやるべき事も無かった。
 彼はすぐに小型のテントを物置から取り出し、
簡単な食事を大量に買い込むと、その学校に向かった。
例のスレッドに、
「警察は頼りないから、今日から俺が見張りこむ。俺は本気だ」
 とだけ書き残して。

 学校に着いたときは、すでに辺りはすっかり更けこんでいた。
彼はテントを校門近くに設置し、そこで夜を明かす。
 風が隙間から入り込み、毛布を被っていても体が震える。
こんなことをしても、意味が無いかもしれなかった。
ただ彼は、自分の中の意義を貫き通そうとしたのである。
(十中八九かまって欲しいだけだと思うが、
スレッドが伸びないことに失望した犯人が、暴挙に走る可能性もある)
 これが真の男気であり、人は『VIPクオリティ』と語る。
 朝日が昇り、生徒や教師達が登校し始めた。
彼らはテントを不審な目で見て、通り過ぎていく。
警備の男が内藤に声をかけたが、内藤は寝たふりをする。
 それほど仕事熱心でも無い彼らは、立ち退くようにだけ声をかけると、
学校内に戻っていった。
 粋がった生徒達は、テントを蹴り飛ばしていく。
内藤は目を瞑りながら、それを堪えていた。
誰の為にか、何の為にかは彼にも分からない。ただ、衝動に突き動かされていた。

281 名前:祭りのあり方(3/5) ◆/7C0zzoEsE 投稿日:2007/01/21(日) 23:15:55.21 ID:QFaXHffQ0
 二時間もすると、登校してくる人もいなくなった。
彼はテントから出て見張りを始める。
 しかし結局犯人が下調べに来ることもなく、無駄に時間は過ぎていく。
何も起こらない。携帯も無いから2ちゃんねるも見れない。
あのスレはもう落ちただろうかと呟き、テントの中に篭り、寝た。
 
 夕方になって、一人、また一人と生徒達は下校する。
それでも撤去されないテントと内藤の様子を見ていて、
苛立ちを募った教頭が文句を言う。
「あなた、こんなところで何をしているんですか!」
「いや……あの……」
「警察呼びますよ!」
「ですから、その警察が来ないんですって」
 内籐と教頭はしばらく小競り合い、どちらも譲らなかった。
内藤が、あと一日だけここにいたい。と言えば、冗談じゃないと。
遂には警備の人がやって来て、連れ出されそうになる。
 子供のように泣き喚く内籐と、皺を寄せる警備。
 ちょうどその時だった。全く垢抜けない男が一人。
ふてぶてしく校門の前まで歩くと、でん! と座り込んだ。
教頭が一体何なんだと、男に問う。
男は全く表情を変えずに、堂々と言った。
「VIPからきますた」
 内籐の顔はみるみるうちに明るくなって、
「来たこれ!」
 と叫ぶ。
 不思議にも時間が経つにつれて、学校に人が集まってくる。老若男女問わない。
教頭は内籐も帰せないまま、ゴキブリのように湧いてくるVIPPER達に、
頭痛と目眩を覚えていた。

282 名前:祭りのあり方(4/5) ◆/7C0zzoEsE 投稿日:2007/01/21(日) 23:16:12.31 ID:QFaXHffQ0
これは何かと内籐も不思議に思い、
誰かから携帯でニュース速報VIP板の様子を見せてもらった。
すると、以外や以外。犯人が建てたスレッドはすでに何度も建て替えられていて、
話題の中心はすっかり内籐になっていた。
「○×中学校の前にテントがある!」
「馬鹿がいる。馬鹿が」
「こちらスネーク。今、馬鹿の素顔を見ている」
 彼らは、内藤の心気に胸を打たれて集まってきたようで、
○×中学校を守りに行こう、という宣伝がニュース速報VIP板に、
いや2ちゃんねる全域に広がっていた。
 内籐は知らぬ間に涙を流していた。

 後に校長が現れ、彼らの姿に驚愕した。
しかし事の次第を聞くと、酷く感銘を受け、
生徒達に迷惑をかけないのなら、ご協力感謝する。と言って去っていった。
 彼らは歓喜し、笑い、踊った。
お気に入りのアニメソングを口ずさみながら。

 そして翌日、正午五分前。
学校をぐるりと囲んで、VIPPER達が立っていた。
気がつけば、すでにその人数は二、三十人も及ぶ。
 そして、正午。緊張の一瞬はあっけなく過ぎていった。
一時間もすると、彼らは自分達の勝利を確信し、
右手を頭上高く掲げ上げた。
中には、両手いっぱいに広げながら走っている人も見られた。
 その後、正式に学校側に謝罪しに行った彼らは、反対に校長から表彰された。
普段誰からも認められない彼らが、自分の生き様に誇りを持った瞬間である。

283 名前:祭りのあり方(5/5) ◆/7C0zzoEsE 投稿日:2007/01/21(日) 23:16:56.95 ID:QFaXHffQ0
この感動の話はマスコミの目に触れて、メディアで晒された。
第二の電車男よろしく、世間には素直に受けいられ、
VIPという言葉は茶の間で人気になった。
 表彰された彼らの何人かは特定された。
しかし、彼らは自分達に奢ることなく、
名も明かさず、インタビューにも答えない。
ただ一人誰かが
「それがVIPクオリティ」
 と言った一言しかマスコミは得られなかった。
 
 中学校焼却の犯罪予告した容疑者は、
なんと自分から自首したという。
 彼は何故か清々しい顔をしたままで、テレビに映され、
「今は反省している。しかし、VIPも捨てたものじゃない」
 と意味深な言葉を残して去っていった。

 今、世間ではニュース速報VIP板の話題でもちきりである。
VIPPER達の間では、
「中学生が増加して困る」
 と、内籐やマスコミに否定的な意見が多数である。
それでも、内藤はまた名無しとして、
何事も無かったかのようにVIPの中に溶け込んでいく。
 ちなみに、これについて今度特集の番組をつくるらしいが、
【○×中学校を勇敢に守るスレ】
 でのレスポンスの一つ。
「ロリコン属性のある僕にとっては、たまらない任務ですぅ」
 などといった、勇者達の本音について晒される予定は、
おそらく、無い。            (了)



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