【 BNSKから来ました 】
◆cdhiMnE6fI




269 名前:BNSKから来ました(1/5) ◆cdhiMnE6fI 投稿日:2007/01/21(日) 23:10:18.83 ID:HNChAlk80
「どう見てもカルピスサワーです。本当にありがとうございました」
 そう言ってわーっと盛り上がる一同。それを肴に、私はウーロンハイを傾け
る。あまり美味しくなかった。
「俺……この酒を呑み終わったら……結婚するんだ」
「……結婚はまだ早いし、あんた下戸でしょ」
 隣でうな垂れている、私をこの場へ連れてきた馬鹿にピシャリと言う。呑め
ない酒を無理に一気飲みして、机に肘かけることすらままならないようだ。
 この情けない男こそ、私の彼氏であり、一般人の私をこのビッパーの飲み会
オフへ連れ込んだ張本人である。

 事の始まりは、今朝いきなり彼が遊びに行こうと言い出した。それはそれは
大変珍しいことで、UMAなんて敵じゃない確率である。休みの日となれば引
きこもってパソコンに向かっている男が、そんなことを言うことに私は感動す
ら覚え、快く了解した。
 しかしどうだ。途中、公園で友達を待つと言い出し、集まってきたのはメガ
ネ少年や、両手を広げて走ってくる男、ゴスロリ女――まぁ、この時既に嫌な
予感はひしひしとしていたのだ。
 その嫌な予感を明確な物にしたのは、集まってきた一人の発言だった。
『VIPからきますた』

270 名前:BNSKから来ました(2/5) ◆cdhiMnE6fI 投稿日:2007/01/21(日) 23:11:06.70 ID:HNChAlk80
 それを聞いて、彼が日柄一日パソコンに向かって見ている掲示板こそVIP
だったことを思い出す。話が違うと思い彼に文句を言って立ち去ろうと思った
が、彼の顔を見て思いとどまった。

「……あんな笑顔、私に見せないくせに」
 そう言って私は乱暴にウーロンハイを飲み干す。喉の奥がキュッと鳴る。隣
で倒れている彼氏は、不自然な笑みを浮かべていた。
「おっぱい! おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
「……おっ……ぱい……おっ……」
 宴会の中央で叫ぶ連中の声を聞いて、彼は掠れるような声で呟く。理解不能
だ。かの騒ぎの中央には、先ほど見たゴスロリ女がいた。皆に構われて嬉しい
のだろうか、あの手の女は。
 目を逸らし、視線を彷徨わせる。すると、場違いな少女を見つけた。周りの
騒がしい雰囲気に飲まれずに、孤独に、静かに、席の端に佇む。明らかに浮いていた。

272 名前:BNSKから来ました(3/5) ◆cdhiMnE6fI 投稿日:2007/01/21(日) 23:11:49.41 ID:HNChAlk80
 死体の介抱を放棄して、その少女の側へ歩み寄る。彼女は自分に近づいてく
る私の存在に気付き、小さく声をあげる。
「あ…………」
「隣、座ってもいい?」
 私がそう尋ねると、彼女は無言でこくりと頷く。なんだか幼いその動作に、
私は素直に彼女を可愛いと思った。改めて見れば、肌がまるで外を出歩いたこ
とがないように白い。あちらで腕を上下させている、ゴスロリ女の服をこの子
に着せるとさぞ似合うだろう、などと戯言のように思った。
「あなたの肌、綺麗ねー」
「え? え、えっと……」
 私の感想に戸惑う少女。お世辞にも言われたことがない、という風だった。
「引きこもりさん? 結構若いようだけど」
「えっと……この間十三歳になりました」
 とすると、中一か。こんな幼い少女もビッパーなのだろうか。世も末である。
十三歳の少女を居酒屋に入れても誰も止めないことは、まぁこの際気にしない
ことにする。店員は周りの雰囲気に気圧されて気付かなかったのだろうし、連
中はと言えば、騒げれば何でも良いのだろう。
 さりげなくスルーされたが、彼女は引きこもりで間違いない。彼女の肌の白
さがそれを物語っているし、そうでもないと彼女がここにいる理由がない。
 こんな少女がそれになる理由は、なんとなく予想が付いた。女子の関係は複
雑なのだ。特に、こんな可愛い子になると。

273 名前:BNSKから来ました(4/5) ◆cdhiMnE6fI 投稿日:2007/01/21(日) 23:12:29.06 ID:HNChAlk80
「……大変ねー。何か愚痴でもないの? お姉さんが一夜の相手をしてあげる」
 それを聞いて、彼女は顔を真っ赤に染める。女の私が見ても、惚れてしまい
そうになるほど可愛い。
「、愚痴なんてないですよ。私より、ここにいる人はみんな大変ですから」
 そう言って辺りを見る。しかし、皆に飽きられて一人惨めに酒を飲むゴスロ
リ女くらいしか目に付かなかった。
「でも、ビッパーってニートとか、オタクが多いんでしょ?」
 私は以前、彼から聞いた情報を口にする。彼女も自覚しているだろうし、失
礼には当たらないだろう。
「そうかもですね。でも、そんな方々にだって難しい人もいますよ。
 ……例えば、あのゴスロリの方。オタクだった彼氏を亡くして、ずっと彼と
の思い出――VIPと、コスプレを引きずってるらしいです」
 ゴスロリ女へ目を向ける。一人で酒を飲んでいた彼女に、一人の男が言い寄
っていた。だが二、三回口を交わし、ゴスロリ女が露骨に嫌な顔をする。する
とすぐに男は背を向けた。
 騒がしい宴会場なはずなのに、小さく呟いた男の声が克明に聞こえた。
――クオリティ低い女だな――
「っ」
 一瞬にして全身の血液が熱を持ち、その男を殴りたい以外の感情を忘れた。
立ち上がろうとしたとき、少女が私の手を繋いできた。
 その冷たく、柔らかい感触で私の頭は一瞬にして冷却された。
「VIPって、なんでもアリなんですよ。怒った方が負けです」
 そう言って微笑を浮かべる。
 私はこんな少女に諭されるほど、幼かった。
「……ごめん。ありがとう。トイレで頭冷やしてくる」
 立ち上がろうとしたままの体勢ではどうも締まりが悪いので、そう謝って繋
いだ手を離す。少し彼女が、残念そうな顔をした――気がする。

274 名前:BNSKから来ました(5/5) ◆cdhiMnE6fI 投稿日:2007/01/21(日) 23:13:23.08 ID:HNChAlk80
 トイレから戻ってくると、少女はいなくなっていた。
 もう少し話したかったのだが、店員に見付かったか、何かあったのだろう。
それ以上は深く考えようとしなかった。VIPに関わっていけば、また彼女に
会えるだろうし。
 そう思って私は、今更ながらこのオフ会に参加することにした――

「……でさ。あんたが寝てる間に、いろんな人と話したのよー」
 後日、彼にオフ会であったことを報告していた。結局彼は最初から最後まで
眠ったまま、私も途中で忘れて、閉店になるまで彼は放置されていた。
「ふうん……」
 彼は興味なさげだ。未だに放置されたことを怒っているらしかった。
「そんなに冷たくしないでよ。あ、ビッパーって幼女が好きなんでしょ? そ
の話するからさー」
「……………………………………………………………………くわしく」
 かなり不満げな長い沈黙の後、彼はそう言った。扱いやすい人種だ。
「えっとねー。オフ会で会ったんだけどね。中学生位の女の子。で、その子が
孤立してたから話してみたの。そしたら、VIPが何かって教えられて、その
後私がトイレ行ってる間に、どこか居なくなっちゃったの。
 ちょっと不思議で可憐な女の子だった。まるで」
 私は一度息継ぎし、少しメルヘンな例えをした。
「まるで、妖精みたい」

おしまい。



BACK−vipperなら小説書くよな?(156) ◆tGCLvTU/yA  |  INDEXへ  |  NEXT−祭りのあり方 ◆/7C0zzoEsE