【 ようこそ未知の世界へ 】
◆jrB.T2zrrI
201 名前:ようこそ未知の世界へ (1/5) ◆jrB.T2zrrI 投稿日:2007/01/21(日) 19:23:49.17 ID:kmpKlALq0
重苦しく閉ざされた扉。直感的に危険を感じた。しかし、心のどこかで期待しているのも事実だ。
そんなほんのちょっとの誘惑に負けて僕は扉を開いた。
中へ入ると、そこはとても薄暗かった。
カウンター越しでシェイカーを振っているのは男性なのだろうか? 何度見ても判断できない。
「さあ、こちらへどうぞ」
シェイカーを振り終えると、その店員は席をすすめてくれた。
こういうお店では、ルールというものがある。空いている席に勝手に座ればいいというものではない。
どのお店にも常連というものがいて、その常連がいつ来て、どの席に座るかというのは決まっていたりする。
その席を俺のような一見が取ってしまうのは、店にも常連にも嫌がられるものだ。
「また、ですか?」
席につくなり、俺は店員にそう尋ねた。
「そのようですね。いつものサービスのテキーラです」
少し悲しそうな顔で、店員はテキーラを差し出してくれた。
それにしてもなぜテキーラなのだろう? 毎度そう思うのだが、その疑問を投げかけたことはない。
そう言わせない雰囲気があるのだ。これもやはりルールなのだろうか?
「ところで、ここはどこですか?」
俺はそう尋ねた。
店員は瞬時にその意味を理解したらしい。
「ここはVIPですよ。ゆっくりしていって下さい。どこか心休まる場所が見つけられるはずです」
ああ、ここが噂のVIPか。まさかこんなところに、来る事があるとは思わなかった。
テキーラを一気に飲み干すと
「ありがとう。またくるよ」
と言い、俺は店を出た。
神出鬼没で、未知の世界へも案内してくれるお店。それが『バーボンハウス』。
時には完全に世界と切り離されてしまう時もあるが、俺は嫌いじゃない。
【 第42回品評会お題「VIP」/ ようこそ未知の世界へ】
202 名前:ようこそ未知の世界へ (2/5) ◆jrB.T2zrrI 投稿日:2007/01/21(日) 19:24:27.31 ID:kmpKlALq0
店の扉を開けると、俺はどこへ行くでもなく、ウロウロしているだけだった。
心休まるところなど、こんなところにあるのだろうか?
噂には聞いていたが、人の多さに驚いた。
あるものは「うpうp」と叫び続け、あるものは「あるある」と「ねーよ」を繰り返している。
また、あるものは「VIP終わったな」などと言っている。
何が終わったのかは、俺にはわからないが、この空間が異常であることだけはわかった。
しかしひとつだけ意外なことがあった。
噂では、草で覆い尽くされていると聞いていたので、
てっきり無造作に草が生い茂っているところを想像していたのだが、
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
きっちりと刈り揃えられている。
この無法地帯で、草だけが異様な輝きを放っているように見える。
これは誰かが管理しているのだろうか?
そんな事を考えていると、ふっと誰かに見られているような気がした。
辺りを見渡してみると、こちらをじっと見ている変な生き物を発見した。
その生き物は、俺の視線に気づくとこちらに近づいてくる。
俺に何か用でもあるのだろうか? 正直気持ち悪い。いったい何者なのだろうか?
203 名前:ようこそ未知の世界へ (3/5) ◆jrB.T2zrrI 投稿日:2007/01/21(日) 19:25:01.99 ID:kmpKlALq0
〜 〜
(Φ Φ ) 幼女です
\く /
|д|
\\
「いや待て。どこが幼女なんだ? そしてそんな事は聞いていない」
〜 〜
(Φ Φ ) あなたの心を読みました
\く /
|д|
\\
「気持ち悪いことするな」
〜 〜
(Φ Φ ) はい……
\く /
|д|
\\
「素直だな……。色々と疑問はあるが、何か俺に用か?」
〜 〜
(Φ Φ ) FOX★です
\く /
|д|
\\
204 名前:ようこそ未知の世界へ (4/5) ◆jrB.T2zrrI 投稿日:2007/01/21(日) 19:25:36.75 ID:kmpKlALq0
意味がわからない。こいつは何を言っているんだ?
「おーけー。とりあえず、いちいちその顔を出してくれるな。気が滅入る」
「はい……」
「相変わらず素直だな。で、何がFOX★なんだ?」
ようやく本題に入れそうだ。
「草の管理をしている人です」
「そうか。それでそのFOX★と俺に何か関係あるのか?」
「ありません……」
無いのかよ。いったい何しに出てきたんだ、この生き物。
「幼女です」
「だから心を勝手に読むな」
「はい……」
素直ではあるけど、頭は悪いらしいな。
「あなたは、心休まるところを探しているのではないですか?」
「確かにそうだが、何か心当たりでもあるのか?」
「ついてきて下さい」
こんな奴に、ついていくのは危険な気はしたが、
この無法地帯ではどこにいても同じなような気がして、ついていくことにした。
205 名前:ようこそ未知の世界へ (5/5) ◆jrB.T2zrrI 投稿日:2007/01/21(日) 19:26:14.98 ID:kmpKlALq0
その生き物……幼女は何も語らず、ただ黙々と歩いていた。
先ほどまであんなに人が溢れていたのに、段々とその数はまばらになっていく。
いったい、どこに連れていかれるのだろうか。人の数が減るのに反比例して、
俺の不安感は増していった。
ほどなくして、幼女はとある建物の前で止まった。辺りは、人がまったくいない。
「ここです」
幼女はそう言うと、建物の扉を開けようとした。
「ちょっと待ってくれ。ここはいったい何なんだ?」
俺は、今までの不安を一気にぶつけるように、幼女にそう問いただした。
「あなたは、このような世界に来るような方ではありません」
「このような世界って言うのは、このVIPのことか?」
「そうです。なのであなたを隔離します」
こいつは警察のようなもだったと言うことか? VIP警察……確かに聞いたことはある。
そうか、俺はこの幼女に騙されたと言う事か。この得体の知れない生き物が、幼女であり、
警察である。この異常な世界では、納得できるような気もする。
「そうか。何か助かる方法は……」
ジロリと幼女が俺を睨んだ。正直怖い。
「無いよな。わかった、観念するよ」
幼女は、俺の言葉聞いてか聞かずか、扉をゆっくりと開いた。
中にも何人かいるのだろうか。何か声が聞こえてくる。
幼女に腕を捕まれ、恐る恐る中へと入っていった。
『ようこそBNSKへ』
中にいた人たちから、一斉に声をかけられた。
そうか、ここはBNSKと言うらしい。
よくとはわからないが、歓迎はされているようだ。
そう悪いところでもないのかもしれない。