【 魔法学校 】
◆PUPPETp/a.




749 名前:【品評会】魔法学校 1/3 ◆PUPPETp/a. :2007/01/14(日) 18:02:50.45 ID:qaenPZgC0
「今日は実践魔法について、勉強していきましょう」
はーい!
 子供たちの返事がこだまするのは学校の校庭である。子供たちの服装は一般的な
体育着に見える。
 しかし、その生徒たちの前に立つ教師の姿は、中世ヨーロッパが似合う魔法使いの
それである。
「先生がお手本を見せるので、皆さん順番にやってください。いきますよー」
 そう言うと、魔法使いは自分の手の中にある杖を見ながら何やら念じ始めた。
 魔法使いが目を閉じたのは一瞬だった。杖の先からチラリと炎の舌が伸びたと
思ったら、それは鞭になり、そして柱になった。
 大きな感嘆と少しの恐怖が混ざった子供たちの声が、口からこぼれる。
「はい、それじゃ一人ずつ前に出て、この丸の中に入ってください」
 出席番号順に前の円形の陣に入り、自分の杖に向かって念じる。
――踊れ、炎の獣達。
 最初の子供が念じ、杖から出てきたのは……鳩。
 平和の象徴である白い翼を大空に羽ばたかせ、悠々と舞っている。
「最初は仕方ないですよ。次の人いきましょうか」
 落ち込む子供に話しかけ、順に同じことをやらせていく。
 蝶、包丁、猫、犬、馬、ガチョウ、象、鈴木土下座衛門――。
 イメージ通りに炎を出すことができた子供はいなかった。

750 名前:【品評会】魔法学校 2/3 ◆PUPPETp/a. :2007/01/14(日) 18:03:06.25 ID:qaenPZgC0
 そして、一人の子供が前に出てきた。流れるような濡れ羽色の髪の少女だ。
 それまでの子供たちと同じ杖を持ち、同様に目を瞑り、そして念じる。
 杖の先から一片の桜の花びらが舞い落ちる。花びらが地に落ちるとそこから巨大な
火柱が立ち昇り、それは次第に大きな人影を形作った。
 巨大な人影は少女を睨みおろし、威厳高い深みのある声音で語りかける。
『我を召喚せしは主か? 小さき者よ』
 そこには炎で象った巨大なイフリートの姿があった。
『小さき者よ。召喚されし我に願いを伝えよ』
 その声音と同様に誇り高き顔つきのイフリートが少女に語りかけた。
「我が願いは一つ」
 少女の、そのまだ幼い声でイフリートに話しかけた。
「――帰れ」
 少女の一言に、校庭一帯の空気が凍りつく。
 魔法使いは、少女を助けるためにその背に隠そうとしている。子供たちは腰を抜かして
動くことができない。動ける子供は、もうすでに校舎内に退避している。
 しかし、当の少女は表情の薄い顔で、ただひたすらにイフリートの顔を見つめ続けている。
 この沈黙を破ったのは、炎の精霊だった。
『……おもしろいぞ、小さき者よ。願いを持たずして我を召喚したと申すか』
「我が願いは伝えたぞ、怒れし者よ」
『……相承知した。しかし、何事もなさずして帰るは我が矜持に関わる』
 イフリートは一睨みすると、少女は軽い苦悶の声を上げる。少女の抑えるその手には、
炎の紋章が刻まれていた。
『それは我を召喚せし証。これより、そなたが思うがままに我を召喚することを許可しよう』
 そう言うと、ひどく楽しそうな表情でイフリートは元の桜の花びらへと戻り、
そして静かに空へと消えていった。
 少女の美しい髪の一房が赤く染まっていた。

752 名前:【品評会】魔法学校 3/3 ◆PUPPETp/a. :2007/01/14(日) 18:03:20.11 ID:qaenPZgC0
 それから数年の歳月が過ぎた。
 少女は大人になり、淑女と呼ばれるような年齢へと変わった。そして、美しさと共に
その力は大陸全土にまで聞かれることとなっていた。しかし、その噂は決して良いものでは
ない。
 その女性は、目の前に写し出されている一階下の様子をジッと見入っている。
 そこには、鈴木土下座衛門を従えた魔法使いが数人の人たちに倒されている、
ちょうどその場面だった。
「来たか……」
 妖艶といって差し支えないその声を口から洩らす。
 目の前の階段を急いで駆け登る足音が聞こえてきた。
 その足音が途切れると、女性の前に数人の男女が立ちふさがる。
 その中に、あの時の召喚で鳩を出した男の姿もあった。
 手に持つ剣を両手に掲げ、先頭の男が叫ぶ。
「遂に追い詰めたぞ、魔王!」
「……おもしろい。ここまで登りつめたことは褒めよう。しかし、その勢いも
 これまでと知れ」
 そう言うと、彼女は自らの手に刻まれた紋章を見つめ、静かに目を閉じた。
 その手から一片の桜の花びらが舞い落ちる。
 彼女の髪は燃える様に紅く染め上がっていた。



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