【 命の価値は 】
◆FKELZ/cpYk




394 名前:命の価値は ◆FKELZ/cpYk 投稿日:2007/01/07(日) 23:43:46.65 ID:l6DvYBUS0
 今までずっと考えてきたことがあった。果たして命の価値は、どれほどの重みをもっているのだろうか。
 無機質ばかりの研究室。モニタからの青白い光が、わたしの顔と、白衣の男性の輪郭を浮かび上がらせていた。
「殺す気か、僕を。誰の差し金だ? やはり、笹山……?」
 険しく表情を歪める男。名前は知らない。わたしはただ、殺せと言われただけだからだった。知る必要はなかった。別段、知りたいとも思わなかった。
 笹山。それが今回の雇い主の名前なのだろうか。そのことも、どうでもよかった。自身の名前にすら、興味をもっていない。
 目の前の男は、右肩に手をやって荒い息をしている。その足許には、ナイフ。わたしが刺した。でも、男は直前で気配に感づき、体を捻って避けた。
 ナイフを拾う。男の抵抗はない。本気でやり合えば、彼は自分がわたしにかなうわけがないことを知っている。しかし目には、諦観の色は見受けられなかった。
 時計を見れば、12時を少しだけ回っている。制限時間は短い。180秒以上この空間に闖入者がいると、警報機が作動する仕掛けになっていると聞いた。
「僕を殺せば、僕の研究で助かるはずの命も失われるんだ。これは命乞いじゃない。ただ、もう少しだけ待ってくれ! あと少しで、ワクチンもかんせ……」
 ナイフを左の胸につきたてる。この瞬間に、男の命は失われた。断末魔はない。床に力なく落ちた男の顔には、悔恨が浮かんでいた。
 殺すと決めてから、約3分。その時間が長いのか短いのかは、わたしにはわからない。多分、短いのだと思う。この任務は、比較的難しいものだったから。
 ただ、彼の積み上げてきたもの、過ごしてきた時間はやはり、3分に比べれば途方もなく長いものだったのだろうと思う。それを、わたしの3分が根こそぎ奪ってしまった。
 警報機がけたたましい音を鳴らし始めた。普段なら考えられないミスだったが、それでもわたしは地に伏した研究員から目を離すことが出来なかった。
 彼が何を考えていたのか、なにをしていたのか、わたしは知らない。たった3分で消えた命。その価値。
 いつも考える。その命を消す私の命の、価値は? 奪った分だけ、価値は上がるのだろうか。わたしはわからない。
 彼の研究。知らない。彼だ助けるはずだった命たちも、わたしが奪った? 間接的に、殺した?
 そしていつも、同じところに結論は帰着する。命の価値、重み。そんなものは、ない。そう、わたしは思う。
 研究員に一瞥をやって、踵を返してその場を離れる。キリングタイムは、またどこかで行われる。



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