【 虎子=カップヌードル 】
◆VXDElOORQI




390 名前:虎子=カップヌードル(1/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/01/07(日) 23:40:27.30 ID:JLIXqQUA0
「腹減ったな」
 夜中に起きていると不意に空腹を感じることはよくあることだ。
 その空腹を満たすためになにか食べたくなるものまた必然。
「カップヌードル、食いたいな」
 台所の戸棚に買い置きがあったようななかったような。
 俺の記憶が正しければあったはず。でもなかったときの軽い絶望感を考えるとこのまま
空腹に耐えるという手も。
 そんなことを考えていると『ぐう』と腹が鳴る。
 虎穴に入らずんば虎子を得ずって言葉もあるし、とりあえず台所行ってみるか。

「お、あった」
 我、虎子を得たり。
 台所の戸棚の中には俺の記憶どおりカップヌードルがあった。
 次は湯を沸かさないと。
 カップヌードルをとりあえず食卓を上に置いてヤカンに水を入れる。
 ヤカンに水を入れていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「お兄ちゃん、なにしてるの?」
「うおっ」
 妹だ。不覚にも驚いてしまった。 
「そんなに驚かなくても。で、なにしてるの?」
 妹は俺の手元を覗き込んでくる。
「見ればわかるだろ。湯を沸かすんだよ」
「どうして?」
「カップヌードル作るから」
 俺は食卓の上に置いたカップヌードルを指差す。
「こんな時間に?」
 今度は妹が壁掛け時計を指差す。
 指につられて時計を見ると時間は夜中の一時を少し回ったところ。
「別にいいだろ。腹減ったんだから。お前こそなんでまだ起きてるんだよ」
「私はお水飲みにきたんですー」

391 名前:虎子=カップヌードル(2/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/01/07(日) 23:40:59.93 ID:JLIXqQUA0
「あっそ」
 俺は妹に適当な返事を返すとヤカンをコンロに置き火をつける。
 妹と話していたせいで、必要以上に水が入って少し捨てるハメになってしまった。
「ところでさー」
 妹は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲みながらまた声をかけてきた。
「今度はなんだ」
「こんな時間にカップヌードルなんて食べると太るよ?」
「余計なお世話だ」
「なによその言い方はー。大体、わざわざこんな時間に食べなくても……あっ」
 妹の言葉は何かを思い出したような感じで途切れる。
「どうかしたのか?」
 気になって妹の顔を見るとなぜか真っ赤だ。
「……そっか。あの話、本当だったんだ……」
 俺の言葉を無視して、妹はわけのわからないことをブツブツ呟いている。
 ミネラルウォーターの入ったペットボトルを片手に何かを呟き続ける妹を尻目に、俺は
ヤカンの湯が沸騰していることを確認して、カップヌードルに熱湯を注ぎ込む。
 あとは三分待つだけだ。
「えっと……あ、穴は開けないの?」
 今まで独り言を言っていた妹がいきなりそんなことを聞いてきた。
「穴って?」
 質問の意図がまったくわからん。穴ってなんだ穴って。
「その、あ、あれ……を入れるときに必要なんじゃないの?」
 こいつはなに顔を真っ赤にしてなにわけのわからないことを言っているんだ。
 入れるってカップヌードルになにを入れるっていうんだ。
「言ってる意味がまったくわからないのだが」
 妹は顔をさらに赤くして、なにか言おうとしているのか口をパクパクさせている。
「だ、だって、そ、そ……それ……」
「なんだ。言いたいことがあるならはっきり言え」
 妹はその言葉で言うことを覚悟したのか、大きな声ではっきりと、言った。
「それ、オナニーに使うんでしょ!」

392 名前:虎子=カップヌードル(3/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2007/01/07(日) 23:41:44.42 ID:JLIXqQUA0

「はぁ……」
 放置しすぎてドロドロになったカップヌードルを食べながら俺はため息を吐く。 
 妹は俺の「カップヌードルを自慰には使わない」という言葉を中々信じてくれなかった。
 妹曰く「こんな時間にカップヌードル食べるなんておかしいもん! 絶対そうだもん!」
ということらしい。
 そのおかげで三分という時間はあっという間に過ぎ、妹が納得して部屋に戻ったころに
は、カップヌードルは見るも無残な姿になってしまっていた。だからといって捨てるのは
勿体無い。
 そんなこんなで俺はドロドロになったカップヌードルを啜る俺。
 結局は欲に負けて虎子を得ようとしたのが失敗だったのか。
 君子は危うきに近寄らず。
 これからはこれを座右の銘にしよう。

おしまい



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