【 1兆6546億7371万8600 】
◆gQ7S45WYZA




371 名前:「1兆6546億7371万8600」1/3 ◆gQ7S45WYZA 投稿日:2007/01/07(日) 23:24:54.99 ID:QHluToa70
 空虚だった。
 この眩しさにも、もう慣れてしまった。朝から晩まで容赦なく照りつけられる光。止まぬ時はなく、感覚を麻痺させる。
いっそ麻痺してくれた方がいいという考えはとうの昔に消えてしまっている。
今はただ、あるがままを享受している――。

びくんっ!

 体が大きく跳ねた。何回目だろう。数えてはいない。「天文学的数字」という表現はこのためにあるのだから。
 それは光のせいだった。なぜかはわからない。しかしあの光を浴び続けることと、私が周期的と言っていいぐらいの頻度で
体を震わせていることに因果関係がないとは思えなかった。
 そして私にもわかる確かなことは、彼らはこの体が爆ぜるのを記録しているということ。
私は彼らにとってのモルモットなのだ。
無論、それから先のこと――誰が、何のために、どのような意図をもってこのようなことをしているのか、はわからない。
だが既に考えることさえままならない自分にはどうでもいいようなことに思えた。知って怒りが沸くようなことは、もうない。
その地点から私の思考は大きくはずれてしまっている。
 私が覚えている限り最後に憎んでいた対象は、光だった。

……この光線が恨めしい! この粒子が私の体も心も逆撫でしッ、この波が私を陵辱してきたのだ!
忌々しい奴。所詮は人工《つくりもの》の紛い物のくせにッ!
お前はその身を外で曝せるか!? できないだろう! お前の光と太陽の光とでは比べることもおこがましいっ!
この恨み、はらさでおくべきか! この恨み、はらさでおくべきか! この恨み、この――


372 名前:「1兆6546億7371万8600」2/3 ◆gQ7S45WYZA 投稿日:2007/01/07(日) 23:26:14.22 ID:QHluToa70



 空虚だった。
 私自身がどのように考えたのかは鮮明に覚えている。だがそれは私自身の記録であり、記憶ではない。
自身と記録の乖離は埋めがたいものだった。だからきっと、もう過去を追随することも必要ないのだ。

 どのぐらいの時間が経ったのか。だがそれも取るに足らないことだと私は感じ始めていた。
時間などという概念は私には無縁のものなのだろう。そう、思い始めていた。

 びくんっ!

…………そう、思い始めていた――

377 名前:「1兆6546億7371万8600」3/3 ◆gQ7S45WYZA 投稿日:2007/01/07(日) 23:28:11.63 ID:QHluToa70
「もう食べていいよね?」
「まだ1分も経ってねえよ」
「ええ〜? お姉ちゃん的にはもう食べられるもん! おなかの鳩さんが『ウルトラマンも帰りましたよ』って言ってるもん!」
「姉ちゃんの腹時計なんて信用できるか。きっとセブンとレオの区別もできてないと予測される鳩はもっと信用できん!
素直に俺の腕時計を信用しろ」
「ふふーんだ。そんな安物時計ごときに時を理解できてたまりますかい!」
「いや、これ電波時計なんスけど……。スゲエ高かったんスよ?」
「それって電波を受信して自動的に時刻を合わせてくれるっていうアレ?
 なるほど。だけど盲点ね、マイブラザー! 大本の送信局の時計があってるとは限らないわ!
これぞ頭隠して尻隠さず、時刻受信して時計合わさずぅぅぅ〜〜」
「あーはいはい、いい感じに電波受信しちゃってるお姉さん、大丈夫ですか、この指、何本に見えますか。六本?
 ……あのねマイシスター。そういうとこはふつう、原子時計っていうスゲエ精度のいい時計が置いてあるの。
 セシウム原子時計っていってね。セシウム原子にレーザー光線を当てて、その振動回数をチェックするんだ」
「レーザー光線なんてかっくいいね! で、振動回数ってどゆこと!?」
「一定の条件下では振動回数は常に同じ回数振動するんだ。
 今のところセシウム原子が91億9263万1770回震えると1秒ってことになってるから
セシウム原子が91億9263万1770回震えるのを確認すれば1秒経ったってことがわかる」
「91億9263万1770回も!? セシウム原子さんも大変だねえ。そんな回数、たまったもんじゃあねえ、ゼ」
「さぁ。逆に91億でもたった1秒なんだし、『ゾウの時間・ネズミの時間』って話もあるしね。
セシウム原子がどちらの心臓を持ってるのか、もしくは全然別モンなのか、それはわからないよ」
「はえー、なるほどなぁ。ウルトラマンのカラータイマーにはそんな秘密があったんだ」
「待て、姉やん。微妙かつ巧妙に話変えてんじゃねえ」
「となると、ウルトラマンは『×3分(180秒)』で1兆6546億7371万8600回の振動を確認して鳴らしてるわけなんだ。ふぅーん」
「……相変わらず単純計算のスピードは驚異的ッスね。
 ついでに設定を考えればカラータイマーは3分より前に鳴ってるはずで。
 ……も一つついでに言っておくと、三分経った」
「えっ、ホント!? いただきまーす! ぶふっ! 固っ!」
「あ、ごめん。赤いきつねって五分だったわ」



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