【 0.333333… 】
◆h1wgBXmOlQ




335 名前:『0.333333…(2-1)』(品評会作品) ◆h1wgBXmOlQ 投稿日:2007/01/07(日) 21:47:01.84 ID:n7+qYzTtO
ある時、ある病院で、ある男が死んだ。
男は金持ちのくせにろくに家庭に金を入れず、
ひたすらに金を貯める事に執着した。
だがそのせいか家庭は荒んでいて、
家族仲は恐ろしく悪かった。
男の妻は既に他界していたが、
彼には一郎、二郎、三郎という三つ子の息子がいた。
もとより父との仲は険悪だった彼らの興味は遺産だけだった。
そして父の死から数日後、彼らは遺産の分配の為に集まった。
弁護士が遺言を読み上げる。
「えー、『私の遺産は全て子供達に公平に分配する』との事です」
予想通りの遺言に、三人はにんまりした。
ずる賢い一郎が弁護士に問いかける。
「で……遺産はどれくらいです?」
「はい、現金でちょうど、百億円です」
感情的な二郎が驚いて声をあげる。
「現金!? 土地や、株なんかは?」
「それらは死の直前に全て現金に変えられています」
思慮深い三郎が眉をひそめる。
「参ったな……百億じゃ三等分できないぞ」
「ちなみに意見がまとまらない場合、
相続放棄とみなし財産は国が没収いたしますので」

337 名前:『0.333333…(3-2)』(品評会作品) ◆h1wgBXmOlQ 投稿日:2007/01/07(日) 21:56:08.33 ID:n7+qYzTtO
「残った一割は長男の俺が相続するのが筋だろ?」
「ふざけるな! 俺は一円たりとも譲らないぞ!」
「僕だって兄さん達より少ないなんていやだ!」
議論は紛糾した。
三つ子なだけに誰かが自分より得をするのは許せないのだ。
お互いの胸ぐらを掴んで殴りあいを始めそうになった時、
弁護士が慌てて仲裁に入った。
「まあまあ、皆さん落ち着いて。割合についてはとりあえずまた明日にしましょう」
「そうだな……」「そうするか」
そして議論は次の日に持ち越される事になった。

その夜、三郎が泊まるホテルに二郎がやってきた。


338 名前:『0.333333…(3-3)』(品評会作品) ◆h1wgBXmOlQ 投稿日:2007/01/07(日) 22:01:59.15 ID:n7+qYzTtO
「どうしたんですか、二郎兄さん」
二郎は真剣な顔でささやく。
「……俺とお前で、一郎の奴を殺そうぜ」
「え!」
「あいつがいなければ遺産は二等分だ、既に銃も手に入れてある」
「……わかった。じゃあ俺が一郎兄さんの注意をひく、合図をしたら撃ってくれ」
密談がまとまると、三郎達は一郎をホテルの部屋に呼び出した。
三人はテーブルを囲んで酒を飲む。
和やかなムードで酔いも回ってきた頃、三郎は席を立ち、台所に向かった。
冷蔵庫から氷を取り出し、グラスに入れる。
と、その拍子に手からグラスが滑り落ちる。
音をたてて砕けるグラス。それが合図だった。
直後に二発の銃声。
三郎がテーブルに戻ると、そこには拳銃を握りしめた二つの死体があった。


「大変でしたね、三郎さん」
弁護士が話しかける。
「いえ……でもこうなったら僕が遺産を相続するしかありませんね」
「その事なんですが……
実はお父さんに隠し子が見つかったんです」
「……えっ?」
「しかも双子だそうです」
「…………」
三郎は頭を抱えた。



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