【 煙草 】
◆twn/e0lews




192 名前:煙草 ◆twn/e0lews :2007/01/06(土) 21:05:02.99 ID:/wlONNRG0
 今日中に連絡無ければ諦める、月並みな台詞を書いた自分に苦笑。
日付が変わる三分前、携帯電話に張り付いて、待っているのは貴女の電波。
教室で貴女を知った二年前、ふと目があった瞬間に、その瞳に吸い込まれ。
嗚呼正に、誰が言ったか、『君ノ瞳ニ恋シテル』なんて良い言葉。
 いつだって、貴女の事を見つめてた。
それじゃあまるでストーカー、笑えないけど許してよ、だって僕はその瞳、失ったならどうにかなってしまうんだ。
そうだ、僕は中毒患者、君がいないと廃人だ。
 依存症、気持ちが悪い、挙げ句果てにはストーカー。
自嘲したって電話は鳴らない、知った所で自嘲は止まない。
 デジタル表示のカレンダー、カチリと回って16に。
溜息を吐く気力も無し、宙を彷徨う視線に入った父の煙草にやたらと惹かれ、気付けば昇る濁った煙。
 一本吸うのに三分程度。だからあと、三分間だけ待ってみよう――





193 名前:煙草 ◆twn/e0lews :2007/01/06(土) 21:05:21.90 ID:/wlONNRG0
 空は灰色の雲に覆われていて、その波模様は太った男のセルロイドに似ている気がする。
僕はベンチに腰を掛け、セルロイドの線を一つ一つなぞる様に眺めながら、煙草を咥えた。
駅前は、しかし閑散としている、昼間だからだろう。この駅を使うのは大抵、この辺りに会社のあるサラリーマンだ。
 十分程前から、こうして煙草を吸っている、既にこれが三本目だ。
特別吸いたい訳でもないのに気が付けば口に咥えているのは、僕がチェーンスモーカーというヤツだからなのだろう。
 視線を下ろし、足元を見ると、空と同じ色をした鳩が歩き回っていた。
鳥なんだから飛べよ、そんな風に呟いてみたら、鳩は腹立たしい視線をこちらに向けて、一つ喉を鳴らした。
腹の立つ鳴き声だったので、咥えていた煙草を、唾の様に、鳩に向けて吐き捨てた。
赤く燃える先端が当たれば、鳩は慌てて飛び立つだろう。
 鳩は飛んだ、けれど煙草は当たっていない。
横十センチに突如放られた煙草に驚いて、鳩は飛んだ。
立ち上がり、未だ赤い煙草を踏み消して、しかし吸い殻を拾う事はない。腰を屈めるのが面倒だから。
 ふと携帯が震えて、メールが届いた。
要約すると遅れてごめんなさい、だそうだ。別に構わないと返信して、煙草を咥える。

 ホームに電車が滑り込むのが見えた。
きっとこの電車だろうと思ったから、ベンチから立ち上がり、辺りに転がっている煙草の吸い殻を蹴って散らす……煙草のポイ捨てなんて、今の時代は格好悪い。
 やがてポツポツと、改札を抜けてきた人が見え始めて、僕はボンヤリとその方向を眺めながら、待ち人の姿を探す。
 遠目にもハッキリと、白いコートは映って、向こうもこちらに気が付いたらしく、小さく手を挙げた。
僕はゆっくりと、その方向に歩き始める。


194 名前:煙草 ◆twn/e0lews :2007/01/06(土) 21:05:36.15 ID:/wlONNRG0




 ――待たせてごめんと謝る君に、僕は笑ってこう返す。いつぞやの、三分遅れに比べれば。
 言われた君は口をとがらせ、ああでも無いやらこうでも無いと言い訳を。ジョークのつもりで言ったのに、そんな君が大好きだ。
 寒いから、続きは家で聞かせてよ。言って右手を差し出して、握り替えした君の手が、何にも増して愛おしい。
 二人の時は咥えない、貴女がいれば必要無い。






                           了



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