【 最後の三分 】
◆K0pP32gnP6




134 名前:【品評】最後の三分(1/3) ◆K0pP32gnP6 :2007/01/06(土) 11:35:29.20 ID:jDZMqkln0
 今日は期末テスト。
 次は世界史だ。今日最後の教科よ。頑張れ、わたし。

 歴史は得意教科。恐らくこの休み時間に必死にならなくても良い点が取れるはずよ。
 でも、一箇所だけ、覚えられない単語がある。
『アンティゴノス』
 アレクサンドロス大王が死んだ後、マケドニアを三つ分けた三人の一人。
 ここまで理解しているのになぜか覚えられない。何故なのだろう。わたしにもわからないわ。
 まあ、打開策は用意してあるからいいけどね。

 テストが始まった。
 いや、始まったというか、問題用紙と回答用紙が配られただけか。
「チャイム鳴ってからスタートだからな。名前くらいなら書いてもいいけどな」
 試験監督は国語教師だ。あんまり熱心に試験を監督するタイプではない。
 そして、わたしの席は後ろから二番目。っていっても、カンニング狙いってわけではない。
 覚えられない単語は『アンティゴノス』だけなのだから。
 
 時計を見ると、あと三分ほどで開始のチャイムが鳴る。
 それまでに名前を書いておこう。微妙に本名じゃないけど、どうせ後で消す。
 ドクターグリップを三回くらい振り、HBの芯を少し出し、回答に走らせる。
『吉田アンティゴノス結衣』
 これでもう忘れない、ていうか、忘れるほうがどうかしている。
 軽いカンニングだ。これが見つかったらどうなるのか考えてる間に、三分経過。

――キーンコーンカーンコーン
 テストが始まった。


135 名前:【品評】最後の三分(2/3) ◆K0pP32gnP6 :2007/01/06(土) 11:35:52.34 ID:jDZMqkln0
 前半はスラスラ解けた。間違った気が全くしない。後半も間違うつもりはないけどね
 顔を上げて時計を見るとテストの制限時間は残り半分ほど。
 手もとの回答用紙を見ると問題も残り半分くらい。結構いいペース。
 ゆっくり慎重に解く分、見直しは必要無い、というのがわたしのやり方だから。
 さて、次の問題は?
『マケドニア軍の主力だったファランクスについてまとめなさい』
 盾、槍、密集。その三つの言葉を使え、という縛り。いいわ、ファランクスは得意分野よ。

 まずい、ファランクスに熱中しすぎたわ。
 あと三分しかない。回答はほぼ半分が白いまま。
 なんてこと! すぐに書けそうな問題を解くしかない。
 選択問題より単語を答える問題の方がわたしくらい勉強していると早く答えられる。
 でも、回答用紙の欄を見る限り、そういう問題は一問しかない。
『アレクサンドロス大王の死後、マケドニア王国を三つに分けたした人物を一人を書け』
 セレウコス、プトレマイオス、そしてアンティゴノス。
 そのうち一人を書け、という問題ね。
 迷う。やはり前から覚えていたセレウコスかプトレマイオスを書くべきかな。
 人物的にはプトレマイオスの方が好きだわ。
 でも――

――キーンコーンカーンコーン 
 始まりと同じチャイムの音。ざわざわしだす教室。
「じゃあ、一番後ろの席の人、答案集めてきて」
 後ろの席の吉仲が回答用紙を集めて行く。
 結局、わたしの答案は、約三分の一が白いまま。でも後悔はしていない。
 あの問題をアンティゴノスと書けたからね。

 最後に、国語教師に集めた一列分の答案を渡す吉仲を見て、わたしは思った。
 

136 名前:【品評】最後の三分(3/3) ◆K0pP32gnP6 :2007/01/06(土) 11:36:16.59 ID:jDZMqkln0


 あ、この答案が返って来たらあだ名が『吉田アンティゴノス結衣』になるかも知れない、と。


  ≪缶≫



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