【 3分の世界 】
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54 名前:3分の世界 :2007/01/06(土) 01:38:45.71 ID:mt9emkjN0
突然目の前の友人がフォークを落とした。
フォークにからまっていたミートスパゲティーは彼のTシャツを赤く染めながら転がる。
「そんなTシャツ着たやつと一緒に歩くのはいやだからな」
俺がそう言ってコーヒーを飲むと彼は笑い出した。
とんでもない大声できちがいじみた笑いだった。
新しいフォークを持ってきたウェイターは不信な目で俺たちを睨み何も言わず去っていった。
「ヒヒヒヒヒ、おまっお前、どうしたんだよいったい?」
彼は笑いながら俺に聞く。
「どうしただって?俺のセリフだぞ?いいかげんその気が狂ったような笑いはやめろ」
「そんなお前、こんな面白いことは何年ぶりだよ、ワハハハヒヒヒ」
「やめろって!」
俺は友人の頭を思いっきり殴った。
「何万回も経験したけどこんなこと言ったのは初めてだぜ」
やっと笑い終わったが顔はまた笑いそうにプルプルしていた。
「どうしたんだよ?何言ってるんだ」
「いや、こっちの話さ」
「なんだよいったい?」
彼は話をそらしたいようだがこっちは気になってしかたがない。
「じゃあ言うよ。行っても信じないだろうけど」
そういって恥ずかしそうに頭をかいた。
「実は俺3分を繰り返してるんだよ俺」
「は?」
俺は当然ながら彼が何を言っているのかまったく理解できなかった。

55 名前:3分の世界 :2007/01/06(土) 01:39:55.20 ID:mt9emkjN0
「なんだって?」
「だから、俺は3分を繰り返してるんだよ。
ずっとずっと、延々と繰り返しているんだよ。
俺は3時33分にここにいてスペゲティーを落とす。
それから3分間は俺に与えられた自由な時間さ。
しかし3時36分になった瞬間どこでなにをしていようと3時33分のこの椅子に座っている。
そしてスパゲティーを落とすのさ。ジョークだろ?
プ、プヒ、ククク、ヒヒヒヒヒ」
また彼は大声で笑い出した。
俺はいつも真面目な彼がそんな冗談をするとは思えなかった。
そんな話が本当じゃないと表面ではわかっていても心の奥では本当かもしれないという感情があった。
「それで何回も3分間を繰り返してるわけなんだよ。
何千回も何万回もさ。スパデティも何千何万回落とした。
でもお前はいつも笑ったり驚いたりするだけでなんのコメントもくれなかったじゃないか。
今みたいに嫌味を言ったのは今回が初めてだよ」
ニコニコしながら言った。
「おいおい、なに言ってるんだ?俺がそんな話を本気にすると思うのかい?」
「思わないさ、君には何百回と告白したが信じてくれなかったからね」
俺はわざと大げさにため息をついた。
「お前の言うとおりならお前は一人だけ3分を繰り返しているんだよな?」
「ああそうさ」
「何回?」
「ああ、よしてくれ。
なぜ年をとらないかっていいたいんだろ?」
「ああ、そうだ」

56 名前:3分の世界 :2007/01/06(土) 01:40:45.22 ID:mt9emkjN0
「肉体は変化ないんだ。
意識だけが残る。
ずっと永遠に」
「しかし記憶というのは」
「わかってる。
俺が相談するたびにお前が言うことは一緒だ。
意識、記憶というのは脳に書き込まれるデータのようなものだ。
肉体に変化がないなら当然脳も変化がないはずだ。
脳に変化というのは3時33分の状態に脳が戻るということだ。
記憶、つまりデータが書かれる前の状態に戻るわけだから記憶が残るわけが無い。
そう言いたいんだろ?前に聞いた。」
彼は一息ついた。
「しかしな、そんな事言われても現に俺は繰り返しの渦の中にいる。
病院のCTスキャンで俺の脳を輪切りにしようと思っても俺に与えられた時間は3分だ。
ここから車でかっ飛ばしても3分でいける病院なんてどこにもない。
わかるか?俺には3分しかないんだ。テレビも映画も見れない。本も読めない。
なんども試した。猛ダッシュで本屋に行き本をとる。
でも本を開いた瞬間また俺はスパゲティーを落としている。
セックスもオナニーも出来ない。俺は遅漏だからな。
腹も常にいっぱいだ。上手いもんなんか食ってもうれしくない。
空腹や尿意や便意も忘れた。射精の喜びも酔う楽しみも忘れた。
寒さも暑さも忘れた。人間の優しささえ情報としてしか覚えていない。
この苦痛がわかるか?
殺人もしたし自殺もした。でも次の瞬間には俺はここでスパゲティーを落としているんだ!!」
彼は机を思いっきり叩いた。
周りの客が何事かとこちらを向く。

57 名前:3分の世界 :2007/01/06(土) 01:41:00.68 ID:mt9emkjN0
「俺は後何年何億年何兆年そして無限の歳月が流れても決して3時36分1秒を味わうことが出来ない。
お前は後30秒足らずで何の苦労もせず味わえるのにだ」
俺はゾっとした。もし逆だったら。
「俺はな、ホントは今日図書館に行く予定だった。本を返すが遅れていたんだ。
図書館はいい。まわりは本だらけだ。無限の時間を過ごすに値する場所だ。
ところが君から電話が来た。久しぶりに会わないかと。
そして俺はこのクソつまらないレストランで永遠を暮らさなければならない。
誰のせいかな?」
彼はフォークを握り締めた。
「俺はある時から決めたんだ。俺の人生はお前を殺すためにあるんだと。
その時以来、俺はお前を殺し続けている。ずっとだ。
俺には未来がない。お前もだ」
フォークを振り上げた。
「お前の世界はおしまいだ」
彼は俺の右目にフォークを突き刺した。
あまりの激痛に俺は大声を叫び床に倒れこんだ。
彼はさらに力を入れフォークを目のさらに奥に突き進めていった。
俺が死ぬ直前、最後の絶叫を上げ左目を大きく開けた。
馬乗りになった彼が消える瞬間だった。
かれは飛ばされたのだ。
3分の世界へ。



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