21 名前：【品評会】生贄 1/3 ◆PUPPETp/a. ：2007/01/06(土) 00:56:38.18 ID:PuDas+lL0
足元に気をつけて。おなかの子供に障るといけないから。
ごめんね。妊娠してるのに、こんな山まで付き合ってもらって。
ちょっと行きたい場所があるの。
……歩いてる間の暇つぶしに、ちょっと怖い話しをしよっか。
昔、私のお爺ちゃんから聞いた話なんだけどね。
昔の農村って水が大事だったでしょ。
水があるかないか、それだけで生きるか死ぬかの瀬戸際だったから。
ある川があった。その川にはあまり水が流れていなかったけれど、それでも村一つ
なら何とか暮らせるくらいは流れていた。
それがパタリと水が流れなくなってしまった。
そうなると、もちろん村は死活問題だ。
その時、村は、人はどうすると思う？
『生贄』だよ。
いわゆる、人身御供というやつね。
嘘だって？
それは今だから言えることだよ。昔はそれが当たり前だったんだって。
22 名前：【品評会】生贄 2/3 ◆PUPPETp/a. ：2007/01/06(土) 00:56:55.47 ID:PuDas+lL0
白羽の矢が立てられた家は、山神に子供を生贄として差し出さなきゃいけない。
昔から繰り返されてきた風習ってやつね。
生贄として差し出された子供は、山にある湖へと連れて行かれる。
そして、舟に乗せられてそのまま放置される。
それだけじゃ帰ってくるかもしれないでしょ？
でもね、帰ってこないんだってさ。いや、帰ってこれないんだったかな。
なぜなら、子供はそのまま山神になるから。
食べられると思った？
そうじゃないの。子供は山神になるんだよ。そうじゃないと村が助けられないからね。
子供が山神になり、村に水を分けてくれ―― あ、ついたよ。見て、湖だよ。
……んー、ここがその湖かはわからないけどね。
続きだけど、山神になるというのがどういうことかわかる？
死ぬことじゃないんだよ。
山と一体になること。つまり、山に取り込まれるということなんだって。
昔、私もお爺ちゃんに聞いたことがあるんだ。山に取り込まれるってどういうことかって。
急に山の景色に違和感を覚えるんだって。どこがどう変わったのかわからないけれど、
自分が見ていたはずの景色が、全く別のモノに見えるんだってさ。でも、よく見渡しても
記憶にある景色と変わらない。それでも、別のモノに見える。それが山に取り込まれてい
るということだって言っていたよ。
そうなると、もうすでに山に取り込まれているということ。そして、子供は山神になり、
山から帰ってこないんだって。
23 名前：【品評会】生贄 3/3 ◆PUPPETp/a. ：2007/01/06(土) 00:57:12.46 ID:PuDas+lL0
「怖いね。……でも何でそんな話を？ あと、ここに何かあるの？」
その説明をする前に、もう少し話が続くの。
『三』という数字には色々と「いわれ」があってね。
例えば、言霊って知ってる？同じ発音の言葉には、それ以外のことにも影響があるということ
なんだけど。
『三』は数字の三。『山』はもちろん山神の山。そして『産』は生まれること。
え？ 妊娠のお祝いの為に『山』に連れてきたのかって？
あはは。
話を戻して、さっきの話には約束事があってね。
ひとつは、この話は水辺で聞いてはいけない。
そして、水辺で聞いたなら三分間は声を出してはいけない。
何でなのかわかる？
そうじゃないと、水辺にいる山神に人がいることを気づかれてしまうからなんだって。
ほら、湖の方を見てごらん。何か違和感がない？
……え？何を言ってるか聞こえないよ。何で口をパクパクしてるの？
あなたが悪いのよ。私の彼を取って、子供まで産もうだなんて。
あー、ひとつ言い忘れてたわね。
『三』には『山』神が『産』まれるという意味も――