【 旅という漢字は 】
◆ohRoMAnyXY




895 名前:旅という漢字は ◆ohRoMAnyXY :2006/04/16(日) 22:46:54.04 ID:O/YKVuzD0
人生という旅路、なんて表現は最早使い古されてしまった。
それでも尚、人は生涯を旅路に例え、それに思いを馳せる。
私も一つ、自分の旅路について考えてみようと思う。
在り来たりな話になるかもしれないが。一つ聞いて欲しい。

今の私は50歳後半。この年で一人身の無趣味な仕事男だ。
家庭を持つでもなく、我が道を行くでもなく、
ひたすら仕事に生きてきた。

それを自ら望んだわけではない。
若い時は、それなりに女性とお付き合いもした。
見合い話も多々あった。何より恋人がいた。
それでも今は一人身だ。婚期を逃した、ということなのだろう。
若い時は、中々にスポーツマンだった。
テニスでインターハイ一歩手前まで行った事もあった。
マジックの腕前もちょっとしたもので地元のテレビ局に取材されたこともあった。
今は特に何もしていない。する気も起こらない。

望んだわけではない。が、現実はこんな所だ。
それに対して特に不満は無かった。
仕事が生き甲斐、と言わないまでもそれなりに楽しんでやっていた。
新商品の開発、売り込み、クレーム処理や接待。
弱小企業の社員ゆえできることは何でもやった。
会社がそれを求めたし、それに答えるだけのものが当時の私にはあった。
しかし、中間管理職に収まった今の私に楽しさは無い。
正直言ってつまらない。
かといって昔と同じことが出来るかと言えば無理な話。
寄る年波には勝てませんなぁ、若い者はいいですなぁと重役と談笑する日々だ。
その横を走り抜けていく若い社員。彼の顔には精気が溢れていた。

896 名前:旅という漢字は ◆ohRoMAnyXY :2006/04/16(日) 22:47:45.13 ID:O/YKVuzD0
現場を退いた私には時間が有り余っている。
することと言えば、部下が持ってくる書類や企画書にダメだしをするぐらいのことか。
暇だ。家庭も趣味も仕事も無い男にはこれが限りなく苦痛だ。
現場を退いた私には時間が有り余っている。
することと言えば、部下が持ってくる書類や企画書にダメだしをするぐらいのことか。
暇だ。家庭も趣味も仕事も無い男にはこれが限りなく苦痛だ。
色々やったがしっくり来ない。
故に自分の人生を考える気になった。他にすることがなかったからだ。

ふと辞書を引く。
旅という漢字は
「旗+人二人」で、人々が旗の下に隊列を組むことを示しているそうだ。
つまり、漢字形成の根本から旅は複数人でするものということではなかろうか。
ならば私の旅はなんなのだろう。
一人で歩んでいる私の人生は何なのだ。

人生という悠久の旅路を歩んでいるつもりだった。
一人でもそれなりに生きていると思っていた。
それが、旅の意味、根本を知り変わってしまった。
それをキッカケにか、今まで隠してきた「一人である」ということへの
疑問が、後ろめたさが、不満が、哀しさが、寂しさが、
一挙に心に去来した。
今までの人生を振り返って、虚しさだけが残った。
仕事という生き甲斐も無くした今自分に何があるというのか。
何も無い。
仕事すらも嫌いに成りつつあった。

897 名前:旅という漢字は ◆ohRoMAnyXY :2006/04/16(日) 22:48:09.21 ID:O/YKVuzD0
早期退職という形で会社を辞めた。
少々割り増しで退職金が手に入った。
額にして一千万。
弱小企業とは言え、私への最後の手向けがこんなものかと思うと、虚しかった。
虚しさ。それが今の私の心を覆っている。
こんな状態では生きていけない。
故に一つ決断をした。
ここからおさらばしようと思う。
人生の半数以上を捧げた仕事に一つのけじめはつけたのだから。





今私は旅路を進んでいる。最も黄泉の旅路ではない。
南極大陸への海路を進んでいるのだ。
昔、南極のペンギンをこの目で見たいと思っていたのを思い出したからだ。
唐突で、今までの私と何も関係が無いことだった。だがそれが良い。
私は今旅を始めた。
それとともに人生も再び始まったように思う。
残りがどれくらいかは知らないが、少しは楽しもうと思う。

旅という漢字は
「旗+人二人」で、人々が旗の下に隊列を組むことを示しているそうだ。
私の旅には、好奇心という相棒がいる。
我らが掲げる旗は、未だ何も書かれていない。
この旅の果てに何が刻み込まれるのだろう。楽しみだ。

終焉



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