【 よく気付く兄 】
◆VXDElOORQI




907 名前:よく気付く兄(1/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/12/30(土) 23:30:05.02 ID:41d2JWOT0
「ねえ、お兄ちゃん」
 俺がテレビを見ていると妹が声をかけてきた。
「なに?」
「どう?」
 そう言うと妹はヒラリとその場で一回転して見せた。
 意味がわからん。
「なにが?」
「わからない? なにか変わったことあるでしょ?」
 変わったところ? 
 見たところ昨日と特に変わってるところは見当たらない。
 っていうか、なんでこいつ出かけもしないのに着飾ってるんだ。
 ついに頭おかしくなったのか。
「さっぱりわからん」
「えー。本当にわからないの? ほらほら」
 妹は「ほら」にあわせてクルクルと二回回る。
 回るたびにスカートがフワッとなってパンツ丸見えだ。
「あ、わかった」
「ほんと!」
 期待に満ちた目をキラキラさせて俺を顔を見る妹。
「昨日は純白だったけど、今日は水色と白の縞々だな」
 期待はずれだったのか、妹は意味がわからないと言った様子で首を傾げている。
 五秒ほどそんな状態だったが、なんのことを言っているのか気付いたらしく、顔を真っ
赤にして怒り出した。
「もう! お兄ちゃんのバカ! エッチ! 変態!」
 妹は俺を罵倒すると、すごい勢いで部屋から出て行ってしまった。


 それからしばらく経ったある日。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なに?」

909 名前:よく気付く兄(2/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/12/30(土) 23:30:43.47 ID:41d2JWOT0
「どう?」
 髪を無意味に触りながらそんなことを聞いてきた。
 またか。
「なにが?」
「もう! またわからないの!」
 そんなこと言われてもわからないものはしょうがない。
「ほらほら。変わったところあるでしょ」
 変わったところか。
 この前もそんなこと聞かれたが、その時から特に変わったところは見当たらない。
 いや、ひょっとして……?
「もしかしてあそこのことか?」
「気付いた? 気付いた?」
「いや、やっぱ違うかも」
「いいから言ってみてよー」
 この前と同じように妹は期待に満ちた目で俺を見る。
「……胸、大きくなった?」
 妹は驚くでもなく怒るでもなくポカーンとしている。
 そのポカーンとしている妹をもう一度観察してみる。
「いや、ごめん。やっぱり全然大きくなってないわ。小さいままだった」
 妹の表情がどんどん怒りの表情へと変わっていく。
「お兄ちゃんのバカ! 大っ嫌い!」
 妹はまたしても俺を罵倒して部屋から出て行ってしまった。
 変わったところがあるかと聞かれたから答えたのに、なぜ怒るんだ。
 まったく意味がわからない。あいつはなにがしたいんだ。


 次の日、妹の様子がおかしいことに気付いた。
「おい」
「なに」
 どうやら昨日のことを怒っているらしい。

910 名前:よく気付く兄(3/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/12/30(土) 23:31:12.04 ID:41d2JWOT0
 だが、そんなことを気にしてる場合ではない。
「お前、大丈夫か? 体の調子が悪かったりしないか?」
「もう、うるさいなー。お兄ちゃんに私のことなんかわかるわけないでしょ! この前だ
って、昨日だって気付いてくれなかったくせに!」
 そう言うと妹はふらっとバランスを崩して倒れそうになる。
 俺は倒れそうになる妹をなんとか支える。
「やっぱり」
 急いで妹のおでこに手を当てると予想通り熱があった。
 俺は妹を抱きかかえると妹の部屋に連れて行くことにした。


「ねえ、お兄ちゃん」
 ベッドの中の妹が声をかけてくる。
「なに?」
「なんで気付いたの? 私に熱があるって」
「そんなの決まってるだろ。俺がお前の兄貴だからだ」
 妹はその言葉を聞くと「アハハ」っと笑い声を漏らした。
「そんなこと言ってお兄ちゃん。この前見せた新しい服も、昨日切った髪にも気付かなか
ったじゃない」
 あー。あれってそういうことだったのか。全然気付かなかった。
「すまん。気付かなくて」
「もういいよ。お兄ちゃん、私の熱に気付いてくれたもん」
「ああ、わかったから、お前はもう寝ろ」
 そう言って妹の頭をそっと撫でる。
「うん。おやすみお兄ちゃん」
「ああ、おやすみ」
 俺は妹の頭をもう一度そっと撫でた。





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