【 新しい傘 】
◆kCS9SYmUOU




885 名前:新しい傘 1/3  ◆kCS9SYmUOU 投稿日:2006/12/30(土) 23:05:13.16 ID:Hyxcg8wI0
 今日、新しい傘を買った。晴れた空のような青色の、素敵な傘を。
 なにやら貴重品らしく、妙に値が張ったが、そんなことは気にならなかった。この傘にはそんな魔力があった。
 私は、この素晴らしく素敵な傘を早く使いたかった。ああ、楽しみだ。


 あれから一週間。いくら待ってもこの傘を使う時は来なかった。
 いつでも使えるように、いつも肌身離さず持ち歩いていたのに。
 残念だ。とても――残念だ。


 そして、更に一週間が経った。その間も一向に使う時は訪れなかった。
 ああ、早く使いたい。この素晴らしい傘を、一刻も早く皆に見せびらかせたい。
 その日私は、部屋で一人この傘を使う練習をした。


 ついに、買ってから一ヶ月経った。ふと外を見ると、なにやら雲行きがあやしい。
 今日こそ、今日こそ使えるかもしれない。
 私は高鳴る気持ちを抑え、その素晴らしい傘を手に、外へ繰り出した。

 外はもうすでに師走ということもあり、いつ雪が降ってもおかしくない天候だった。
道行く人は皆厚着をし、手をポケットに突っ込んで足早に歩いている。
 私はつい外に出てしまったが、実を言うと何も用事はなかった。せいぜいやることといえば、
コンビニで立ち読みをするくらいであった。足は自然と、コンビニへ向かっていく。
 コンビニに着いた私は、雑誌コーナーを物色する。すると、目当ての漫画雑誌を見つけた。
 先週と同じ表紙。なんだ、今週は合併号だったか。早々にやることがなくなってしまった。
 とりあえずそこでホカホカアンマンを購入し、気の向くまま、公園へ向かうことにした。

886 名前:新しい傘 2/3  ◆kCS9SYmUOU 投稿日:2006/12/30(土) 23:06:55.49 ID:Hyxcg8wI0
 程なくして、私は公園にたどり着いた。天候は更に悪化し、空は雪雲でどす黒く変色していた。
 さすがにこの時期になると、公園で遊ぶ子供はいなかった。私は誰もいない公園のベンチに腰かけ、
先ほど購入したホカホカアンマンにかぶりついた。うん。ほどよく冷めていておいしい。
 アンマンを食べ終えると、私は自販機に向かった。そこで暖かいココアを買おうと、財布に手を伸ばす。
すると――
「おい兄ちゃん。ちょっといいかい?」
 数人連れの、ガラの思いっきり悪い男たちが私に声をかけてきた。
「ちょっと、俺ら財布落としちゃってね。ちょいと、金貸してくれない?」
 これは、いわゆる……カツアゲ?
「なーに、ちょっとでいいんだって。ほんの、一万円くらい?」
 リーダー格の男が、私にニヤついた表情で言った。後ろの取り巻きが、げらげらと下品に笑う。
 私が、そんなお金はないです。と言うと、さっきまで笑っていた男たちは、ぴたりと笑うのをやめた。
 殺気。私はそれを、ひしひしと感じた。
「じゃー仕方ないねぇ……」
 リーダー格の男と、その取り巻きの顔が冷酷な犯罪者のそれに変わった。ある者は指をポキポキと鳴らし、
ある者は手にメリケンサックを装着し、私ににじり寄ってくる。
「意識がなくなったところで! 全部貰っていくわ!!」
 そう叫ぶと、男たちは私に殺到した。そこで私は、
 手にした傘を――

 ぶっ放した。


887 名前:新しい傘 3/3  ◆kCS9SYmUOU 投稿日:2006/12/30(土) 23:07:52.29 ID:Hyxcg8wI0
どずん!

 真っ先に飛び込んできたリーダー格の男のどてっ腹に、ゴム弾が炸裂した。倒れこむ男に、更にゴム弾を叩き込む。
どずん! どずん! どずん!
 するとリーダー格の男は、泡を吹いてピクリとも動かなくなった。取り巻き達は、あまりのことに呆然としている。
私は、ようやく使えた傘に満足しながら言った。
「これは、正当防衛です。なのであなたたちも、やられていただきますね」
「ひっ!?」
 私の一言に、取り巻きの一人が、逃げようと後ろを向いた。その隙に、カーボンファイバー製の傘で殴りかかる。
脳天に一撃。そのまま崩れ落ちる。仲間をやられ、激昂した別の男達が、私に向かって突進してきた。
それを軽くかわして、胴打ちを決める。そのまま流れを殺さずに、別の男にもう一撃。これで四人。
「ちっくしょおぉぉぉぉぉぉ!!」「てめぇ!!」「ぶっ殺す!!」
 残り六人のうち三人が、同時に殺到してきた。まず一人をゴム弾で吹き飛ばす。そしてもう一人をなぎ払い、
遠心力を乗せた回し蹴りでもう一人を粉砕した。これで七人。あと一人。
「ひいい!!」
 最後の一人は、もうすでに公園の出口近くまで逃げていた。それを私は、猛スピードで追いかける。
あっという間に距離を詰め、跳躍。そして背後から、渾身の力で男の脳天に振り下ろした。
ごきっと嫌な音がして、男は崩れ落ちた。よし。ミッションコンプリート。
 そして私は、手にした硝煙が立ち上る傘を見つめ、しみじみと言った。
「……やはり、素晴らしい傘だ。ようやく使うことができた。感無量だなぁ……」

 すると、ぽつぽつと雪が降ってきた。雪というより、みぞれか。
「うわぁ……降ってきたなぁ……急いで帰ろうっと」
 そうして私は、傘としてはまったく使えない傘を手に、びしょぬれになりながら帰路についた。

END



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