【 syn Da Rome 】
◆TAMORImVts




404 名前:syn Da Rome(1) ◆TAMORImVts 投稿日:2006/12/29(金) 11:58:15.39 ID:L8fHpUqg0
太陽がギラギラと光る街。
砂埃が舞い、檜で作られた小さなBarの入り口が
軋んでいた。
風で砂塵が口に入らない様、手で覆いながら店に入ると
真っ黒な帽子にトレンチコートを身に纏った男性が
既に座っていた。
(珍しいな・・・俺以外の客が入ってるなんて)
俺はそう思いながらも席に着く。
と・・マスターが席に座るタイミングを見計らって
グラスを置き、琥珀色のウィスキーの中にヘタを取ったサクランボを入れ
サイダーを流し込む。
仕上げにグラスの端からオレンジリキュールを垂らしたその飲み物は
まさにこの街から太陽が昇る様をイメージしているかの様だ。

Rising Sun
メニューに載っていないそれを俺はそう呼んでいた。

405 名前:syn Da Rome(2) ◆TAMORImVts 投稿日:2006/12/29(金) 11:58:50.66 ID:L8fHpUqg0
舐める様に一口すするとマスターが顎で合図をしながら
先客について話し始めた。
「この街じゃ見かけない面だな。」
「ああ・・・」
男性は俺とは正反対の色をしたシャンパングラスに入った飲み物を
何も語らずに静かに飲んでいた。

帽子のせいで顔が見えない。
もう少しよく見ようと目を凝らした時、帽子に隠れた黒い瞳が俺をとらえた。
目を逸らそうとしたがそれより先に相手の視線に引き込まれ
そのまま約5秒程無言で見ていると相手の方から口を開いた。

「・・・なにか?」
暗く、そしてしゃがれた声だった。
慌てて
「いや・・」
言いながらカクテルをあおる。

406 名前:syn Da Rome(3) ◆TAMORImVts 投稿日:2006/12/29(金) 11:59:31.16 ID:L8fHpUqg0
その男は不気味に笑いながら左手にグラスを掲げ俺の隣に座った。
遠くで見るよりも一層皺が深く掘り込まれその中で暗く光る瞳が
俺の動揺を誘う。
「見慣れないお酒を飲んでいるものだからつい・・・」
苦しい言い訳だったが男には通用したみたいだった。

「ああ、これですか」
Nightmare Bigan、悪夢は始まったという意味のワインらしい。
聞いた事の無い名のワインだ。マスターに聞くと
どうやらこの男の持ち物らしい。
「何だか気味の悪いワインですね」
笑い話にしようと作り笑いをしながら言ったが男は黙って俺を見ていた。
そしてまた無言がおとずれた。

この手の男は苦手だ。
また彼が口を開くのをただ待つだけの合間、静寂。
間が持たず俺はマスターにおかわりを頼んだ
彼もまたワインを煽り静かに口を開く。
「もともとはこれは太陽の昇らない街で作られた物です。
 sytheriaと呼ばれる暗闇でしか栽培出来ない葡萄から採取された果汁を煮詰め
 発酵されました」
「なるほど・・・」

407 名前:syn Da Rome(4) ◆TAMORImVts 投稿日:2006/12/29(金) 12:00:06.81 ID:L8fHpUqg0
男の住むその街には太陽が昇らないと言う。
光の無いその街で相手の存在すら気づかないまま
住民はただ黙って・・そして眠る。
静寂しか無いその街で住民はただひたすら夢を見るのだそうだ。
いつかこの街に太陽が昇り、そして生まれて初めて見る顔に
喚起する・・そんな夢ばかりを毎日毎日・・・






美味しそうですね

シュワッと音をたてて弾けるカクテルにまたもや
視線を集中させ男はそう言った。そしてカクテルの名前を聞いてきた。
Rising Sun・・と俺が言うと
まるで私の住む街で言う所の希望そのものだと
男は寂しげに言った。
好奇心に駆られ俺は男にこいつを薦める事にした。

「ちょっと飲んでみますか?」
「よろしいんですか?」
「ええ・・お近づきの印に」
「ありがとうございます。それでは私のも」
そう言って残りのワインを新しいグラスに入れてくれた。

408 名前:syn Da Rome(5) ◆TAMORImVts 投稿日:2006/12/29(金) 12:00:37.57 ID:L8fHpUqg0
「それではお互いに・・新しい酒と仲間に」
俺は努めて明るく振舞う。
「新しい一日に」
男は不気味に笑う。
「乾杯」
男はぐいっと煽る
「乾杯」
俺もぐいっと煽る

その瞬間、この街から太陽が消えた。
Barには暗闇が訪れる。
相手の姿さえ見えないこのBarの中で相手の存在すらも掴めないまま
俺は何処かで始まった新しい一日の事を思い大粒の涙を零した。             −了ー



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