【 今日も変わらず日は昇る 】
◆NA574TSAGA
340 名前:今日も変わらず日は昇る(1/1) ◆NA574TSAGA 投稿日:2006/12/29(金) 01:17:34.33 ID:EVvkiNfp0
東の空がだんだんと色を帯びてくる。
この田舎町に今日も、いつもと変わらぬ朝が訪れようとしていた。
「おはようございます、ベッカーさん。今日も早いですね」
「ああ、ミュラーさん。おはよう。今朝も散歩かね?」
畑に向かう道で散歩中のミュラー夫人と会い、軽く世間話をする。いつもの日課だ。
「冬になって太陽が昇るのも遅くなりましたねぇ。こんな暗い中、畑仕事を始めるんですか?」
「いやあ、手元が狂うから夜が明けてからさ。仕事は日の出から日の入りまで。この習慣はくずさんよ」
そんなことを話しながら畑に到着する頃には、空はだいぶ明るくなっていた。
「あら、あの人だかりは何でしょうか? こんな朝早くから」
夫人の視線の先を見ると、まだほのかに闇の残る港に多くの人が集まっていた。
「ああ、もうそんな時期か。冬になると決まって一度、ああして街から人がやってくるんじゃよ」
そう答えてやると、夫人は案の定不思議そうな顔をした。
東の空が明るくなるにつれて、港の人々はにわかにざわめき出した。
やがて水平線の向こうから、真っ赤に燃えた美しい太陽が顔を出す。
途端にざわめきが一気に歓声へと変わった。
人々が口々に「おめでとう!」などと騒ぎ立てている。
「何やら喜んでいるようですが……、そんなに都会じゃ日の出が珍しいんでしょうかねぇ」
「さあね。少なくともわしにはいつも通りの朝日にしか見えんよ」
そう言っていつものように、日の出を合図に農具を手に取る。
新しい一日の始まりだ。
今日も良い日になることを祈りつつ、陽光に照らされる畑を耕しはじめた。
〜了〜