【 サンタ、ラクダに乗る 】
◆BFHmFwSlrs




682 名前:サンタ、ラクダに乗る(1/3) ◆BFHmFwSlrs 投稿日:2006/12/24(日) 23:35:42.76 ID:w+kv4odp0
その日、サンタ界に激震が走った。
イスラエル担当のサンタが乗ったソリが、ガザ地区でイスラム教原理主義者たちによって襲撃されたのだ。
トナカイ両名はそこで死亡、命からがら生き延びたサンタは拘束され、人質となった。
事件から数時間後、インターネット上に犯人グループの犯行声明が配信された。
犯人たちの要求は、2006年度の全世界におけるクリスマスの中止。
キリスト教圏以外の国にもその範囲を広めつつある、クリスマスという行事に対するイスラム教徒たちの危機感が如実に現れた結果であった。

翌日、サンタ界と国際クリスマス協会との緊急会議がヨーロッパで発足。
三日に渡る激論の末、議会はクリスマス断行を決意。
子供たちに一年たりとも淋しい思いをさせないためという名目で、人質になったサンタを半ば見捨てる形での結論となった。
この会議が開催されている時期、遠く東の島国日本では、クリスマス中止を叫ぶデモがネット世論に後押しされて大規模的に開かれた。
そのうち一部のマスクを被ったデモ参加者が、手当たり次第にカップルを襲う事件までが発生。
事件を起こした犯人たちは全員逮捕されたものの、日本は国際世論から非難の声を浴びせられた。

十二月二十五日、クリスマスプレゼントは無事に子供たちの下に届けられた。
ただ一カ国、イスラエルの子供たちを除いて。


683 名前:2/3 投稿日:2006/12/24(日) 23:36:23.48 ID:w+kv4odp0
未だ人質のサンタではあったが、犯行グループからまだ利用の仕様があると思われたのか、
すぐに殺されるということはなく、クリスマス翌日になっても拘束されたままだった。
ただし、妙な動きをしたら命はない、という条件つきで。
そのサンタが監禁されたのは、砂漠のど真ん中にあるずいぶん簡素な小屋であった。
砂漠と言っても近くに町があるのか、時折ラクダの往来があることが、サンタの監禁されている部屋の小さな窓からも見て取れた。
小屋の周辺には幾人もの見張りの兵士がおり、ここからの脱出は容易ではなさそうだった。
実際、サンタは諦めていた。このイスラエルの地で、孤独に人生を終えることを覚悟していた。
そう、見張りの兵士たちの交わす会話を聞いてしまうまでは。

深刻な水不足。
そのせいで周辺の町では、毎日何人もの命が失われていると言う。
ただでさえ少ない水は土地の富豪たちに買い占められ、貧困層は乾きにより次々と倒れているらしい。

サンタは、自分の命を捨てる覚悟で立ち上がることを決めた。
窓から小さな声で、ラクダを呼ぶと、トナカイの代わりに空を飛んでくれないかと相談した。
「僕もお世話になっているこの辺りの町のみんなを助けたい。でも僕は、トナカイさんみたいに空を飛ぶことは出来ない」
そう言うラクダに、サンタは不思議な力を使って羽を生やさせた。
ラクダは大喜びで、小窓から腹をつっかえさせつつもやっとの思いで這い出てきたサンタを乗せ、一気にサンタ界へ駆け上っていった。

サンタが逃亡したと知った犯人たちは大慌てで、サンタの捜索にかかった。
見つけ次第射殺せよ。犯行グループ各位にはそう命令が伝わった。


684 名前:3/3 投稿日:2006/12/24(日) 23:37:05.78 ID:w+kv4odp0
しばらくして、サンタは空からラクダの引くソリに乗って現れた。
犯人たちは命令に従い、サンタを地上から射殺。
銃弾が当たり、ソリに積まれていたパンパンに膨れ上がった白い袋が破れた。
その袋から、雲がモクモクと膨れ上がり、次第にそれは空一面を覆いつくし、やがてイスラエル中に雪をもたらした。

サンタはイスエラルの地で孤独に死んだ。
だが、彼のもたらしたクリスマスプレゼントにより、幾人もの命が救われた。
彼はイスラム教徒たちに手厚く埋葬され、しばらくしてイスラエルでは、毎年十二月の二十四、二十五日は国民の祝日になったという。



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