【 ひとり 】
◆0UGFWGOo2c
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715 名前:ひとり ◆0UGFWGOo2c 投稿日:2006/12/25(月) 00:06:19.73 ID:4I0gGd/70
孤独だって?ふざけている。
僕はこの閉鎖された空間にいて、一度たりともそんな感情を感じたことはない。
友達がいないからって「孤独」?
休憩時間は一人本を読んでいるからって「孤独」?
全くもって憤慨だ。人を見た目で判断するなと、習ってきてはいないのか。
とはいい、少しも孤独感に苛まれることがないと言えば嘘になる。
四十人一クラス。色んな人間がいるとはいえ、科ごとに振り分けられたクラスだ。
同じ科目を勉強したいと思ったもの同士、その中で気の合う人は多かろう。
そんな一種特殊な空間で、全く話し相手がいず、一緒に休憩時間を過ごす相手がいないとなってはそりゃ寂しくもなる。
そりゃ僕だって高校時代を楽しくエンジョイしたかったさ、友達やら彼女やら作ってさ。
でも僕には無理なわけだ。見た目からして地味にしか見えないわけだしね。
だからといって失礼ではないのか?
こともあろうにさっきのロングホームルームの時間、クラス中の生徒の前で、教師が
「木谷くんはいつも一人で孤独だろうから仲間に入れてあげよう」
だなんてふざけている。
別に僕は先生にそんなことを言ってもらおうだなんて微塵も思っていなかった。
そんな教卓の前で言われては、まるで僕が「僕は友達がいなくて寂しいから仲間に入れて欲しい」って言ってもらうように先生に頼んだみたいじゃないか!ああ、恥ずかしい。
僕はロングホームルームが終わり、昼飯の時間、始終そのことばかりを考えていた。
母の作ってくれたお弁当をせっせ、せっせと口に運びながら若い担任教師への反発心をどんどんと募らせていったのだ。
この高校に入学して、早5ヶ月。
ふと休憩で騒がしいクラスを見渡して見れば、いたるところにグループのような塊が完成しているようだった。
特に、昼休憩時のお弁当タイムはそんな塊がよく目立つ。
男女とも、親しい友人と群れを成しているから、クラスからはみ出し状態で全くクラス内の交友関係など関係ない僕でもすぐに誰と誰が同じグループなのか、と把握できてしまう。
僕は、そんながやがやと騒がしい空間の中で、一人ぽつんとお弁当を広げているわけだ。
少し寂しい。


716 名前:ひとり ◆0UGFWGOo2c 投稿日:2006/12/25(月) 00:06:47.63 ID:4I0gGd/70
母は、僕が毎日一人でお弁当を食べていることを、知らないのだろう。
きっとクラスで友達と仲良く机を囲みながら楽しく食べているのだと思い毎日僕のお弁当を作ってくれているのではないだろうか。
赤青緑、色彩豊かなこのお弁当は、僕の友達が見ても恥ずかしくないようにと見栄っぱりな母の感情が入っているのではなかろうか。
そう思うと、喉の奥がツーンとした。
割り箸を持つ手が、少し震える。


717 名前:ひとり ◆0UGFWGOo2c 投稿日:2006/12/25(月) 00:07:32.17 ID:4I0gGd/70
僕だって、友達の一人や二人欲しいと思う。でも、さ…。
入学式のときに、少しでも周りの奴らに話しかければよかったのかなあ。
ああ、今さら後悔したって遅いのに。
僕は途端に襲ってくる孤独感に苛まれていた。
先生の言った言葉なんて、きっとクラスの誰一人として気に留めていないだろう。
やっぱり僕は孤独だ。さっきは、先生に指摘されたことが苛立ち、頭の中で全否定してみたけれど、思い返してみると、僕は孤独と呼ぶしかない状態なのだ。


718 名前:ひとり ◆0UGFWGOo2c 投稿日:2006/12/25(月) 00:08:22.40 ID:4I0gGd/70
やっぱり僕は孤独だ。さっきは、先生に指摘されたことが苛立ち、頭の中で全否定してみたけれど、
思い返してみると、僕は孤独と呼ぶしかない状態なのだ。

わはは、とどこかの塊から笑い声が起きる。
僕は声のする方を見てみた。状況を見るに、クラスの中心人物的な男が、なにかおもしろいことを言ったらしかった。
はあ。僕はため息をひとつつく。
僕とは正反対の彼が、あまりにも羨ましかった。
僕はあまり気にしないように食べ終えたお弁当をキレイにふろしきに包み、鞄の中に入れると読みかけの小説を机から取り出す。

あと休憩時間は15分ほどある。十分読書ができるだろう。
僕ははさんでおいたしおりを抜いた。


719 名前:ひとり ◆0UGFWGOo2c 投稿日:2006/12/25(月) 00:10:45.15 ID:4I0gGd/70
どんっ
軽い衝突音がして、その瞬間僕の机と身体が前のめりに揺れた。
僕は驚いて顔を上げる。

「あ、ごめん!痛かった?」
そこにいたのは、同じクラスの女子だった。名前は…覚えていない。
「あ、ううん。だいじょうぶ」
「よかったーごめんね、友達とふざけててぶつかっちゃった」
「そっか」

異性と話したことない僕は、なにを言えばいいのか分からずとまどってしまった。
「木谷くん、本スキ?」
「うん、すごく好きだよ」
僕はとまどいながらも言葉を紡ぐ。
「へえ、すごいね!活字ばっかであたしは読めないや〜」
へへへ、と彼女は笑う。
可愛い、と思ってしまった。
「おもしろい、よ。本。いい本あったら、教えるね」
僕はそう口にした後、しまった!と思った。
地味で暗い僕なんかにこんなこと言われたって気持ち悪いに決まっている。

「まじで?ありがと〜。今度、木谷くんのオススメの本も教えてね」
彼女はにこにこと屈託のない笑顔を僕に向ける。
やばい。

「理沙ぁ戻ってきてよ〜」
「あ、はーい!じゃあねー」
少し離れた場から、友達であろう人物に理沙と呼ばれた彼女は笑顔でひらひらと
手を振って去っていった。


720 名前:ひとり ◆0UGFWGOo2c 投稿日:2006/12/25(月) 00:12:03.74 ID:4I0gGd/70
理沙、さん。彼女の笑顔が、なぜだか頭から離れなかった。
読もうと思っていた本にも、集中できやしない。
ただただ頭の中をさっき交わした会話が字となってぐるぐると回っていた。

壁にかかった時計に目をやると、もう休憩が終わる時間だった。
今日も一人で過ごす休憩時間が過ぎる。
でも僕は、この休憩時間、ひとつ決心をしたんだ。

「ねえ、次の授業ってなにかわかる?」
僕は隣の席の男子に声をかける。名は、知らない。
「えっと、多分数学だよ」
「ありがとう」
僕は笑顔で礼を言った。彼は少しとまどい気味に、ああ。とだけ言った。

僕は、孤独という閉鎖された場から抜け出す。
理沙さんの、あんな優しい笑顔を見てしまったら、なんだか、そう、決心してしまったのだ。



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