664 名前:だれか(1/2) ◆dx10HbTEQg 投稿日:2006/12/24(日) 23:26:39.80 ID:MRE6AM160
たくさんの仲間がいた。なぜ、どうして? いきなり暗闇に閉じ込められ、僕は混乱した。
けれど、それ以上に僕は歓喜していた。狭い部屋で身動きは取れないし、状況もよく分からない。それでも今までの生活よりはマシだと思った。
「君はどうしてここに?」
「分からない。おまえは?」
「僕もわからない」
僕達は誰からも嫌われていた。僕達は誰からも避けられていた。
何が悪いのかは分かっている。僕達にはどうしようもないことなんだってことも。だって、生まれとか育ちとか、そういうものは変えようがないんだ。
仕方ないと思っていた。それでいいと思っていた。
変えられないのなら、受け入れるしかない。寂しさなんてもはや感じることは稀だった。一人でいるのが当たり前だったんだ。
「こういうのもいいもんだね」
「そうだね。ちょっと窮屈だけど」
仲間がいるというのは、何て幸せなことなのだろう。誰かと話せるというのは、何て楽しいことなのだろう。
孤独に慣れきった僕は、今までの生活が惨めでつまらないものだったのだと、気付かないでいたのだ。
でも、幸せであったのは少しの間だけだった。
ここにはたくさんの仲間がいる。たくさんの、仲間しかいない。
「お腹がすいたね」
「お腹がすいたよ」
ここにはたくさんの仲間がいる。たくさんの、仲間が。
なんとなく、部屋が広くなっている気がした。お腹がすいたね。お腹がすいたよ。
「お腹がすいたね」
返事がない。
不安になって、辺りを見渡すと、ちょっと前まで親しく話していた子が、消えていた。足の先っぽがぽつんと残されている。
辺りに響き渡るのは、むしゃむしゃと何かを咀嚼する、音、音、音。
「え?」
しゅん、と手が僕に振り下ろされた。――僕も食べられてしまうの?
死にたくない。その思いだけで、僕は反撃した。あっけなく相手は死に、血に汚れた体が僕に差し出される。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
僕は死にたくないんだ。死にたくなんてないんだ。君たちを、食べてでも。
665 名前:だれか(1/2) ◆dx10HbTEQg 投稿日:2006/12/24(日) 23:26:52.39 ID:MRE6AM160
気が付くと、部屋がとても広くなっていた。おおい、おおうい。誰かいないの? 誰か話をしようよ。
呼びかけても呼びかけても、誰も答えない。僕は一人きりになっていた。お腹がすいたよ。
一人きりには慣れていた。でも、僕は友達のいる喜びを知ってしまっていた。
寂しいよ。ねえ、誰かお話をしよう? ねえ、お腹がすいたんだよ。ねえ、誰でもいいから。
「よし」
突然、まぶしい光が僕の目を焼いた。ああ、久しぶりの光だ。
楽しげな声に拾い上げられ、僕は喜びに打ち震えた。ああ、久しぶりの。
お話してくれる? 食べさせてくれる?
「ふふ、こいつを送りつけさえすれば、アイツはオシマイだ……。この呪いはよく効くらしいからな」
よく分からないけれど、僕を見つめる目はとても嬉しそうだったから、やっぱり僕も嬉しかった。
僕は必要とされている。惨めでもつまらなくもない、幸せな一生が送れるんだ。だって僕は一人じゃない。
だから、お話をしよう。食べさせてよ。ねえ、はやく、はやく……。
「蠱毒の完成だ」
僕は、とても飢えていた。
むかしこっぷりどじょうの目