【 失笑・クリスマス 】
◆twn/e0lews




496 名前:失笑・クリスマス ◆twn/e0lews 投稿日:2006/12/24(日) 13:44:18.87 ID:oOEFxFqu0
 羨ましいねと最後はそれで、苦笑交じりに電話を切った。
相手は同学年の友人で、最初は他愛もない日常会話をしていたのだけれど、そこは十二月の末、自然と女の話になる。
彼には今、女が三人いるらしい。
 愛情とセックスは別物だ、なんて風に、僕は到底思えない。
どうしてこうも自分は童貞臭いのだろうかと考えたら、結局、本当に好きな女とセックスした事がないから、
僕はその実童貞なのだろうという結論に達した。
取っ替えひっかえ、或いは同時に、気軽に穴を変える事など、僕には出来そうもない。
 煙草を吸って、煙草を吸って、煙草を吸って、煙草を吸う。
煙に埋もれていたら、また携帯が鳴った。
アキコからの、メールではなく通話着信で、受話器の向こうから聞こえた彼女の第一声は「ヒマ」だった。
語尾を上げたか上げないか、今一断定出来ないのは、彼女が敢えてそういう言い方をしたからだろう。
 僕もまた、会話しているうちに、ヤる事ヤレるかも、なんて思い始めていたらしく、結局アキコと会う事になった。
都合良く、愛情とセックスは別物と考えていた。そんな自分に気が付かないふりをして、僕はシャワーを浴びる。


 夕刻手前、黒のニーソックスにミニスカート、白いダウンジャケットで髪は茶色、アキコは僕を見て手を振っている。
「可愛いじゃん」
 取り敢えず、僕は言った。
「褒められてもね、アンタじゃ」
 そう返すアキコは溜息を吐きそうだが、言われて嫌な気分にはなっていないらしい。
「悪いね、俺で」
 わざとらしく、冗談めかして。
「それはお互いでしょ」
 解ってる、とでも言いたげなアキコ。
「まあ、取り敢えず行くか」
 苦笑しながら僕は言って、アキコと並んで歩き出す。
心なしか距離はいつもより詰まって感じる、仄かに体温を感じる距離だ。
腕を組む事もなく、手を繋ぐ事もなく、それでも僕達は恋人に見えるのだろうか。

497 名前:失笑・クリスマス ◆twn/e0lews 投稿日:2006/12/24(日) 13:44:43.07 ID:oOEFxFqu0
そんな事を考えながら無意識に煙草を咥える。火を点けようとしたら、アキコが僕の口から煙草を取り上げた。
「歩き煙草とか、格好悪いから止めてよ」
 ああ、傍から見たら付き合ってる二人だろう。僕はすんません、なんて言いながら笑う。嬉しそうに怒るアキコは、きっと全部演技だ。


 カラオケはどこもクリスマス料金で、けれど割と空いていた。
お手軽なのに勿体ないとも思うが、近くにレジャーランドのある所だから、みんなそっちに行ったのかも知れない。
当日になって相手を決めた僕達にとっては幸いな事ではある。
「何歌う?」
 リモコンを弄りながらアキコが言う。
「god save the queen」
「何それ」
「ピストルズ。歌詞は良くわからんけど、傑作だよ」
「まあいいや……入れたよ」
 自分の曲を入力するアキコを尻目に、スピーカーからはやる気のないメロディが流れ始める。
僕はマイクを握って、笑いながらアキコに言う。
「しっかり見とけ、顔真似付きだ」
 リモコン操作を終え、こちらを向いたアキコに、ロットンの演じるキチガイのモノマネを見せてやる。
目は大きく見開いて焦点を合わせず、体は腰を曲げてクラゲの様に宙をさまよい、上目遣いに顎を突き出す。
ゴッセーザクィーン、妙に尻上がりに、大袈裟なまでに歌ってみせればアキコは笑う。
「頭おかしい」
 馬鹿野郎、それがピストルズだ。言ったアキコに、言葉にはせず、一瞬目を普通に戻して笑いかける。
アキコもノリノリで笑っていて、きっとそれはイブで、彼女が一人で居たくないからと作った笑顔なのかも知れない。
けれど僕は、僕が彼女を笑わせたのだと思わなければならない。それがルールだ。
 曲は進んで終盤、No futureの大合唱、マイクを向ければアキコも笑いながら叫んだ。
 歌い終え、もう大丈夫だろうと、最初よりも距離を詰めて座った。
後は適当にネタを交えつつ、雰囲気を作れば向こうも拒否はしない。
茶化しつつ、手を回し、延長無しの三時間、終わる頃にはキスも完了。

498 名前:失笑・クリスマス ◆twn/e0lews 投稿日:2006/12/24(日) 13:45:07.39 ID:oOEFxFqu0


 お洒落な店なんて行ける訳無いから馴染みの居酒屋、それでもまあ、個室のある所だからまだ良し。
シャンパン、ワインじゃなくて焼酎で乾杯、それもまた良し。ほんのり頬を染めた彼女と僕のマンションへ。
すっかり即席カップルで、腕を組んで体を預ける彼女の感触に高ぶる性欲、イブだからサカリも公認、キリストに感謝です。
 部屋に入った途端、ヤニ臭いと彼女が言って、それは悪いと返しながら僕はキスした。
僕の頭に手を回し、髪を掻き回す彼女は酒臭い。右手で彼女の髪を撫でながら、左手は背中からゆっくりとケツに下ろす。
徐々に硬度を増すペニスの指令に従って、一度顔を離し、だらしなく糸を引いた唾液を指ですくって舐める。
どうぞ奥へ、言って右手で促して、ベッドルームに入る。
 ハンガーを用意して、白いダウンジャケットを彼女から優しく剥ぎ取る。
現れた黒のタートルネックセーター、その下の体は酷く扇情的だ。
背後から抱きしめ、服の上から乳房に手をやり、首筋に頬を寄せてキスをする。
「これから、何する?」
 ジョークを飛ばすアキコに、僕は笑いながら返す。
「エッチ、セックス、ファック。どれがお好み?」
 アキコは拘束を解いて振り返り、僕の股間に手をやった。
「ファックで良いんじゃない?」
 だって、一番正確でしょ。セーターを脱がせずに、下から手を入れて背中を撫でる。
「手、冷たい」
 一瞬体を震わせて、アキコは言った。
「その分、心が温かいんだよ」
 有り得ないと笑うアキコに、僕は続ける。それに――。
「それに?」
「どうせ直ぐ熱くなる」
 ベッドにダイブ。服を剥ぐのを楽しみながら、僕のペニスは勃起する。
ショーツを脱がせてみれば、既にそこには垂れる汁。

499 名前:失笑・クリスマス ◆twn/e0lews 投稿日:2006/12/24(日) 13:45:29.20 ID:oOEFxFqu0
「もういっか」
「もういいね」
 コンドームを被せ、カウントダウンは始まる。
「ロマンチックの欠片も無い」
 ふと、アキコが言った。僕は笑って、返す。
「それなら、ファックじゃなくてメイク・ラブ?」
 問われて、アキコは僕の事を抱き寄せた。
「そう言う事にしておく」
 ほんの少し可愛くなった彼女に、僕は呟く。
「イブに感謝を。そして君とメイク・ラブ――」
 沈み込み、彼女の穴に棒を埋める。銜える彼女の肉で僕の棒の皮を擦って絞めて、ああ気持ち良い。
 愛と性欲って別? でもメイク・ラブ、ラブは愛。
ふと思いついた言葉遊び、――引く事の濁点……ああ、それで良し。
喘ぐ彼女も、腰振る僕も、そこにあるのは失笑のみ。
 ピエロが居るんだ、笑えよビッチ。言葉にはせず心に思う。
メイク・ラブ、引く事の濁点、イコール、失笑・クリスマス。





                                       了



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