【 クリスマスイブを見せてやる 】
◆zl6TwdxAzs




473 名前:クリスマスイブを見せてやる(1/3)  ◆zl6TwdxAzs 投稿日:2006/12/24(日) 12:11:53.43 ID:bqLY2UIg0
 さて、今年も二十三日がやってきた。今年で三十二回目だ。
 天才科学者と呼ばれるこの私でもこの日はどうすることも出来ない。そう思っていた。
 しかし、私は見つけてしまった。二十四日に一人で過ごす事の孤独さを解決する方法を。
 私が一人で過ごさざるを得ない世界になれば良いのだ。病気するとか。
 だが、それでは甘いの。いいわけ臭いし、そもそも私が天才科学者である意味が無い。
 私のクリスマスイブを見せてやる。


 二十四日、午後五時。雪のちらつく駅前の商店街。
 喫茶店で、俺は人を待っていた。彼女である。名前は佐々木ヒロコ。
 今年のクリスマスイブは一人ではない。というか、今までも一人のクリスマスは無かった。実家在住だからな。
 しかし今年の一人では無いクリスマスは特別。
 そんな事をぼんやりと考えていると、それは起こった。
 
 午後五時十三分、地震発生。
 停電。暗くて何も見えない。
 コーヒーカップが割れる音。窓ガラスが割れる音。窓際の席でなくて良かった。
 とっさに逃げようとするが立てない。それどころか、転ぶ。
 テーブルに肩をぶつけ、テーブルの下に倒れ込む。
 俺が座っていた椅子に照明かなんかが落ちてきた。週末占いランキング、三位の実力か。
 
 数分後たっただろうか。揺れは収まった。暗くて何も見えないが。
 携帯で時間を確認。五時十六分。三分くらいしか経ってない。
 MP3プレーヤーに付いてるラジオ機能をつける。まだ普通にJPOPなんかが流れている。
 まわりで人がうめいてる声や、女の人の泣く声が聞こえる。
 そうだ、ヒロコを探さないと。
 俺は携帯電話の明かりを頼りに喫茶店をでた。お代はいいだろ?


474 名前:クリスマスイブを見せてやる(2/3)  ◆zl6TwdxAzs 投稿日:2006/12/24(日) 12:12:23.06 ID:bqLY2UIg0
 外も真っ暗、かと思ったらそうでもなかった。携帯も光がちらほら。人の声も聞こえる。
 雪が降っている空は月は見えない。
 ヒロコとは五時半にあの喫茶店で待ち合わせしていた。
 だから近くに……いないか。三十分も早く来た俺がどうかしていたんだな。
 突然、携帯が鳴った。メールだ。
『大丈夫? 北口にいるんだけど』
 ヒロコは普段、絵文字を乱用するがこれにはそれが無い。
 北口はどっちだ? まわりが暗くてわからない、のではない。俺が方向音痴というわけでも。
 同じ建物に見えないのだ。崩れていて。
 
 安易に歩き出すのもどうだろうか。とりあえず少し考えてみよう。
 自分の冷静さに少し驚いた。
 数分間考えて導き出した答えは、メールを返す、という事だった。
 あ、この答えに数分かかるって事は冷静じゃないかも。
『駅前の喫茶店 今からそっち行くからそこにいて』
 送信を押す。送信できません。
 北だと思われる方向に歩き出すことにした。

 かれこれ一時間くらい歩いている。迷った。
「おい、君。大丈夫かい?」
 警察官だ。
「向こうの中学校が避難所になっている。今日はもう夜だから一晩そこで泊まるといい」
 無視して北口に向かおうとした。けど、引っ張って行かれた。

 中学校の体育館には沢山の人がいた。しかし知り合いなんかもいない。
 今更だけど、家族はどうしているだろうか。地方に住んでるから地震には巻き込まれて無いだろうけど。
 それにしても凄い人の数だ。咳をしている人も結構いる。
 こんなところにいたらいつ風邪をひいてもおかしくない。俺は校舎の方へ移動した。


475 名前:クリスマスイブを見せてやる(3/3)  ◆zl6TwdxAzs 投稿日:2006/12/24(日) 12:12:38.84 ID:bqLY2UIg0
 校舎の中は、机がメチャクチャに散乱しているが、それ以外は何事も無かったかのように綺麗で静かだ。
 こういう建物はかなり頑丈に出来ているらしい。
 そもそも何でこんなところにいるのか。
 そうだ、クリスマスイブだ。俺は、人混みは嫌だ、って言ったんだ。
 出かけるなら二十三日とか二十六日でもいいじゃん?
 
 逆ギレしても始まらない。そう思って溜息。
 それとほぼ同時に後ろから声がした。
「ユウスケ?」
 ヒロコの声だった。なぜここに? 物凄い勢いで振り向いた。
「あ、やっぱり」 
「なんで、ここにいるんだ?」
「避難してきたんだよ。迎えに来てくれないから」
 悲しそうなんだか不敵な笑みなんだかわからない表情。
「ご、ごめん。でもなんで俺がここにいるって?」
「なんとなく。人混み嫌い、って言ってたから」
 ヒロコは俺の頭の上あたりを眺めながら言った。

 今年のクリスマスイブは、俺にとって忘れられないクリスマスイブになった。いやらしい意味ではないぞ?


 地震発生装置は大成功だ。しかし強すぎた。最悪だ。
 なぜこの私が棚と床に挟まれて今日という日を過ごさなくてはならないのだ。
 普通に過ごすより悪いんじゃないか?
 一人で過ごさざるを得ない状況ではあるけどもだな。
 まあいいだろう。被災地の連中も避難所で寂しくクリスマスイブを過ごす事になったんだ。
 もし今日幸せなクリスマスイブを過ごせた奴が一人いたなら俺は天才を名乗るのをやめてやるよ。
 フハハハハ。



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