【 蓑虫、或いはcake 】
◆hemq0QmgO2




437 名前:蓑虫、或いはcake(品評会作品)1/2 ◆hemq0QmgO2 投稿日:2006/12/24(日) 06:03:23.41 ID:o11ldGAFO
孤独が死に至る病?いや、死に至る病は孤独じゃない。
死に至る病とは人生そのものであり、全ての人間が患っている下限の病の一つだ。
下限の病とは?もう止めよう。寂しい。寂しい。仕方がないのは解っている。孤独も下限の病。でも寂しい。
一人は少ない。少ないんだ。一億人。足りない。いや、変わらない。馬鹿か俺は。同じだ。下限の病の絶対性。
するりと、脳内のストーリー、或いは全てが抜け出した。わはは。一人歩く御伽噺。気を失う前に確認しよう。
俺は恐らく二十歳で、布団の中で身も心も男子自由形、な競技の第一人者で、色落ちした色男だ。

路上生活者、通称ボブ・マーレイ。彼の前ではみな鼻を摘み、自らの花を摘む。
みな彼を疎ましく思いながらも、彼に憧れているのだ。徹底的に汚い、乞食の彼に。
彼には肉と幸福と絶望があった。世界の何処にでも存在し、気を抜くと片隅から、本当の人間を思い出させる。
彼はメタな存在だから、正確なことはよくわからない。とにかく今、俺は彼らしい。
聖なる記号の夜。俺ことボブ・マーレイはとあるイルミネーションの森の満開の下。
綺麗な夜に俺という異物を混入する。世界は排他的経済水域。全て覚悟の上だ。
乞食が見ても美しい世界、着飾った人、人。ああ、幸せが目に見える感覚だよ。乞食も世界を愛しているんだ。
嘘じゃあない。本当に、俺程世界を愛している人間は居ない。勿論、世界は俺を愛していないけど。
そして済まないとも思っている。紛れ込んだ蓑虫は見苦しいだろう。ただ、忘れていて欲しいんだ。
一人でも、二人でも、それ以上でも、キスをしても、セックスをしても、愛があっても、
神が祝福する聖なる夜でも、生きていても、死んでいても、人は絶望的に一人、孤独だってことを。
冬は乞食には辛い季節だ。それでも、俺は君達を愛さずにはいられない。
だから俺はここに居る。君達が俺を見て感じる全て。それらは君達の孤独を誤魔化す何かになる筈だ。

438 名前:蓑虫、或いはcake(品評会作品)2/2 ◆hemq0QmgO2 投稿日:2006/12/24(日) 06:05:11.23 ID:o11ldGAFO
一際明るい電飾の前で、俺はゆっくり地べたに腰を下ろす。綺麗だなあ。何もかもが、本当に綺麗だ。
そんなことを考えていた時、三人の若い男が俺を取り囲んだ。
中央の、アクティブかつ強面の男が俺を見下ろしながら、脅すように語りかける。
「おい、てめえ場違いって言葉の意味、知ってるか。失せろ糞乞食が。苛々すんだよ」
ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ。男達の下卑た笑い。そうか、やはり逆効果だったか。
俺は無言で立ち上がる。去ろう。突然、右側の男が俺の腹に強烈なフックを叩き込んだ。
声が出ない。誰のものかもわからない拳が顔面に飛んで来た。鼻血が吹き出す。痛い。乞食にも感覚はある。
「シカト?舐めてんのか?殺すぞ。糞虫野郎」
これが紙芝居なら、印象的なファルスだろう。ところで、俺は音を無くしてしまったんだろうか。
全く声が出ない。弁解も出来ない。俺は死ぬかもしれん。男達は飽きず、パッション的。暴力は続く。
「ここ、こんな時はだ、誰もトラブルに関わりたくねえしな。て、ててめえに救いはねえよ。ひゃはっ」
やけに説得力のある吃りだ。確かに、こんな特に乞食を助けても誰も得しないね。はは。
待てよ。これは夢?或いは現実?全てが一人歩きし始めてから、俺はボブ・マーレイだったが、
ボブ・マーレイはメタフィクショナルな存在じゃないのか?わからない。しかしこれは現実臭い。痛いんだ。
その時、全ての電飾、イルミネーションの灯りが消え、世界は一瞬にして気障な暗黒に包まれた。
違う。目が痛い。目、血、血が。どうやら暴力によって俺だけが光を失ったらしい。
寒い。寂しい。痛い。死ぬる。勿論実感として。君達は俺を―……。(了)



BACK−孤独 ◆YaXMiQltls  |  INDEXへ  |  NEXT−クリスマスイブを見せてやる ◆zl6TwdxAzs