【 孤独 】
◆YaXMiQltls




432 名前:孤独1/3 投稿日:2006/12/24(日) 04:28:53.76 ID:zpWGFiYZ0
 「・・・それで、彼女が出ていっちゃったんです・・・」
というコウの涙混じりの声に、俺は笑いを抑えることができない。童貞のくせに何いってやがるんだよこいつ!
「合格!」
と鐘が鳴らされてコウの選んだ七番は、なんとプラズマテレビ。
「やったぜ!」
「お前マジ最高だった」
「案外行けるもんなんだな」
「カンタ冷めすぎ。明石家サンタでコウが嘘八百でプラズマテレビだぜ!」
「いやすげーと思ってるよ」
それが冷めてるんだよ、カンタ。だからいい年して男三人のクリスマスなんて過ごすことになるんだよ。
ってさすがにそこまで言うのは空気嫁って感じだから言わなかったけど、カンタの冷静な分析は続く。
「八木さん、こんなシリアスな話いいの?って顔だったな」
「ああああああああ『八木さんファンです』って言うの忘れたああああああああ」
「プラズマテレビ取ったんだからいいじゃんよ」
そうだよ。プラズマだよ。明石家サンタで。やべ、これすごくね? かなり。
「つーかすげーよ。コウ、マジすげー。時間経ってすごさ実感してきた!」
「鈍すぎだよお前。だから彼女できねーんだよ」
ってお前が言うなよカンタ。
「俺だって、バイト先の子と、あわよくばって感じだったんだよ」
「その先に行けるか行けないかが童貞と非童貞の境目だな」
「一人だけ非童貞だからって調子乗ってんじゃねーぞ、おい!」
「まあまあ落ち着けよ、おまいら」
「コウも童貞のくせにプラズマテレビ取ったからって勝ち組態度かよ」

433 名前:孤独2/3 投稿日:2006/12/24(日) 04:30:04.16 ID:zpWGFiYZ0
 こういう男だけのクリスマスってのも案外楽しい。
女の子と過ごしたことがないからそう思うだけかもしれないけど、
一人でテレビを見てるなんて、さすがに寂しすぎるだろ。
男友達でも一緒にいた方がこんな夜はいい。あとはそうだな、酒があれば完璧だ。
「よし飲むぞ、酒盛りじゃ」
「いいねー、熱燗の似合う夜だよ今夜は」
「俺にもくれよ、熱々のやつをよぉ」
「任せときな」
 俺はキッチンに向かって、日本酒のパックを取り出してコップになみなみと注ぐ。
これを電子レンジに入れて熱々にして飲めば、
彼女がいる奴には味わえない幸福なクリスマスが過ごせるってもんよ。スイッチオン。
 電子レンジの「あたため」ボタンを押した瞬間、ブチン! って音と一緒にブレーカーが落ちて、
ビビった俺は左手に持ってた日本酒のパックを落とした。
真っ暗で見えないけれど、こぼれた日本酒が俺の裸足の指先に触れて、
「冷てえ!!」
と叫んだ声はおそらく誰にも聞こえなかっただろう。
コウもカンタも、パソコンの画面と一緒に姿を消してしまった。
いやブレーカーが落ちたのと一緒にチャットから落ちたのは俺の方か?
って飲む前から親父ギャグ全快で陽気な俺の耳に何か聞こえる。ん、何だこの音? 上の部屋からギシギシって・・・

434 名前:孤独3/3 投稿日:2006/12/24(日) 04:30:37.65 ID:zpWGFiYZ0
 テレビもエアコンも消えた部屋に、音を出すものは何も無くて、暗闇の中で頭上の音だけが響いている。
一定の間隔で何かの軋む音。音の間隔が次第に狭まっていって、文字にできないほどに理性とは程遠い、女の本能の叫び声。
「@%※&!」
畜生! 俺の素敵なイブを邪魔しやがって、このバカップルめ!
てめーらが週三でセックスしてることは知ってんだよ! つーか今日はセックスの曜日じゃねーだろうが!
怒りとは裏腹に、俺の股間は反応し始めていていた。糞! 受けて立ってやるよ、この勝負。
俺のチンコの皮が剥けきらないうちにブレーカーを上げられれば俺の勝ちだ!
俺は電子レンジから千ミリメートルは離れてるブレーカーへ高速でダッシュして、
手探りながらもスムーズにブレーカーを上げる。
俺のチンコの皮はまだ半分以上被っている。俺の勝ちだ!
「ひゃっほおおおおおおおお!!」
俺の歓喜の雄叫びと、テレビの中のさんまの引き笑いがバカップルを制して、鐘の音と蛍光灯の光が俺を祝福する。
俺は急いで部屋に戻った。こぼれた酒なんてどうでもいい。
そんなことより早くパソコンの電源を入れて、コウとカンタにこのことを報告しなきゃいけない。
今夜の自虐ネタほどおいしいものはないだろう。
・・・あ、電話してみようかな、明石家サンタ。



BACK−孤独についての考察 ◆h97CRfGlsw  |  INDEXへ  |  NEXT−蓑虫、或いはcake ◆hemq0QmgO2