【 WINTER TUBE 】
◆O8W1moEW.I




57 :No.18 WINTER TUBE (1/2) ◇O8W1moEW.I:06/12/17 21:02:12 ID:wGsW+Rmx
       『求めあう夏』


日差しに溶けるイエスタデイ もう涙は見せないで
純情ムードにしびれちゃう 小麦色の素肌
ルール無用のシーズン もう幻にしたくない
眩しい太陽焦がしちゃう シビれる唇

冬を知らない湘南で 見つめ合う二人
愛を知って 燃え尽きた 花火のような初恋 

※(くりかえし)
キラめくロマンス 無邪気に笑う君に I LOVE YOU
火傷しちゃうね cuteな胸に熱いkissを
瞳にメロディ 胸の奥の痛み say good bye
裸のままで 乾いた砂に思い出埋めた
僕と君だけが 求めあう夏

58 :No.18 WINTER TUBE (2/2) ◇O8W1moEW.I:06/12/17 21:02:23 ID:wGsW+Rmx
ノートに書き殴られた歌詞は、まだ一番までしか書きあがっていなかった。
むせ返るような熱気に溢れた部屋の中で、男は椅子に座り、テーブルの上に開かれたノートと睨み合っている。
男の風貌はいかにも海の男といった感じで、こんがり焼けた肌に若いサーファーのような茶髪が、
逆に彼の四十代前半という歳を皮肉にも引き立てている。
部屋の中は、アロハシャツに短パンという格好をしていてもなお暑く、サウナと呼んでも良いくらいに温度が上がっている。
季節は冬。街には雪がしんしんと降り積もっている頃、男はヒーターを六台ほど使って、自らの部屋を異常なまでに暖めていた。
それだけではない。部屋にはサーフボードが立てかけられ、小麦色に焼けた水着姿のグラビアアイドルのポスターが貼られている。
観葉植物は熱帯のものをそこら中に敷き詰め、他にも部屋の隅々まで、ありとあらゆるものが夏を演出している。
「夏だなあ」
冷蔵庫に入れてあったかき氷をかき込みボリボリと咀嚼しながら、男は自分に言い聞かせるように言う。
扇風機に揺られて、風鈴がチリンと虚しく響く。
このヒーターの数では、扇風機の作り出す微風など全くもって無力だ。
だが、それでいい。この場所において扇風機は、雰囲気を作り出すパーツのひとつにすぎない。
外ではジングルベルが鳴り響くこの季節、男の部屋だけは、プレイヤーから鳴り響く波の音に彩られていた。
部屋の中に降り注ぐのは、真っ白に透き通った雪ではなく男の濁った汗。
突然、テーブルの上に置いてあった携帯電話のバイブレーションが鳴る。男はそれを取った。
『どうです、そろそろ一、二曲出来た頃かと思ってお電話したんですが』
電話の相手は、彼のバンドが所属するレコード会社の担当者だった。
「いや……実はまだ一曲も。どうも調子が出なくて」
『ええーっ、困るんですよ! 冬のうちに曲は全部作って、春先からレコーディング始めないと、夏のアルバムリリースに間に合わないんですからね!
 まあ、毎年のことだから重々承知でしょうけど。夏を代表するバンドが夏に活動できないなんてことにならないようにして下さいよ』
担当者は早口で捲くし立てると一方的に電話を切った。
そう、男は、日本の夏を象徴する人気バンドのボーカルであった。
曲作りを一手に引き受けている彼は、毎年活動のない冬場に楽曲を書き上げる。
真冬に真夏の曲を作るということの困難さを、男は誰よりも知っている。
この部屋は、彼が自らの頭の中を、一年中サマードリームで満たすための唯一の術なのである。
部屋をふと見渡す。六台のヒーターに扇風機、足元の床暖房に波音を奏でる音楽プレイヤーを見て、男はつぶやいた。
「今年も、電気代かかりそうだなあ」





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