【 サマーバケーションズララバイ 】
◆kCS9SYmUOU




42 :No.13 サマーバケーションズララバイ(1/4) ◇kCS9SYmUOU:06/12/17 17:23:12 ID:VfSMB89y
 夏です。夏なんです。夏休みももう半分以上過ぎ去ってしまいましたが、まだ夏真っ盛りなんです。
その証拠にホラ、今日もボクはラジオ体操をしに来ています。
『うでをのばしてー、せのびのー、うんどー――』
ラジオから聞こえてくる声にあわせて、体を動かす。まだ眠くて動かなかった身体が、だんだんとほぐれてきます。
『……さんー、しっ、ごー、ろく、しち……はち』
ちゃーん♪
おじさんの声と同時に、伴奏のピアノも終わりました。すると周りの子供たちが、いっせいにハンコをもらいに
引率のお兄さんに群がっていきます。さてと、ボクもハンコをもらいに行きましょうかね。
 列に並んでしばし。ようやくハンコを押してもらうと、ボクは足早に列から出ました。すると、
「おぅーいなっきー! おはよーっす!」「ぐー」
 聞きなれた声×二。ボクはくるりと振り返ると、その声に向かって言いました。
「おはよー。ゆー君、キスケ君」
 そこには、ボクの幼馴染の二人の男の子がいました。いつも笑顔の波多野喜助くんと、いつも何を考えているのか分からない
天野祐喜くんです。――ああ、ボクの紹介が遅れましたね。ボクの名前は筒井夏喜。ボクなんて言ってるけど、一応女の子です。
「うっす。……しっかし朝からせいが出るねぇ」
 キスケ君が寝ぼけ眼で言いました。となりのゆー君は、立ったまま寝ていました。
「えー? 普通でしょ?」
「そうかねぇ。まぁ来てるには来てる俺が言うことじゃないか」
 キスケ君とゆー君は、毎朝ラジオ体操しに来ているのに、まったく体操をしない変な人です。やればいいのに。
「あー、そうそう」
 キスケ君が思い出したように、ぽんと手を叩きながら言いました。
「今日は三人で市営の野外プール行くんだよな? 準備は出来てるか?」
「うん。もちろんだよ」
「そっか。いらぬ心配だったか。祐喜のヤロウは俺が言うまですっかり忘れてたからな」
 とか言いながら、隣のゆー君を小突きました。それでも寝ているゆー君は、きっと将来大物になります。
「あははっ。ゆー君らしいや」
なんて笑いながらも、ボクの心はもうプール一色でした。
 ああプールよ……このうだるような暑さからボクを解き放っておくれ……

43 :No.13 サマーバケーションズララバイ(2/4) ◇kCS9SYmUOU:06/12/17 17:26:37 ID:VfSMB89y

 そして、時間はあっという間に過ぎまして――
 ボクたちは、市営プールにやってきたのでした。照りつける太陽、陽炎立ち上るプールサイド。
ただ立っているだけでも、じりじりと肌が焼かれていくのがわかる。そんな熱気の中、ひときわ明るい声。
「おっしゃぁ! いくぜ祐喜ィ! なっきー! 後れを取るなよ! GOGO!」
「うるせぇ! てめぇが仕切ってんじゃねぇよ!」
 キスケ君とゆー君は一瞬で海パン一丁になって、プールに飛び込んでいきました。ちょっと二人とも、準備運動して、
水を体に慣らしてから入らないと、心臓発作で死んじゃうよ?
 そんな心配もどこ吹く風と、二人ははしゃぎながらボクを呼ぶのでした。
「おーい! 早く来いよー!」「そーだぞー! 気持ちいいぞー!」
 はいはい。わかってますよ。でもボクは君たちより時間がかかるんだ。その辺のことも考えて欲しいな。
 そんなことを考えながら、ふっと二人を見る。二人は楽しそうに片方の首根っこを捕まえて水の中に押し込んだり、
お返しにチョークスリーパーを極めたりしてはしゃいでいる。そんな光景を目にして、思わず笑みがこぼれる。
さんさんと輝く太陽に目を細めながら、ボクは思いました。
「こんな暑い時間が、ずっとずっと続きますように――」

44 :No.13 サマーバケーションズララバイ(3/4) ◇kCS9SYmUOU:06/12/17 17:27:17 ID:VfSMB89y
「おい! おいなっきー! 寝るな! 寝るんじゃねー!」
 ごうごうと吹雪が吹きすさぶ真冬の雪山。その山にある山小屋の中に、三人の人影がありました。
三人ともスキーウェアを着ていましたが、それでも寒そうです。
 事の始まりは一週間前、キスケが「年末にスキーにでも行こうぜ」と言ったのが発端でした。
その案は一発で可決され、めでたく日帰りスキーツアー決行と相成りました。それからつつがなく準備も終わり、
さあ出発だ! と言う時に、一行は肝心なものを忘れていたのです。それは――当日の、天気予報でした。
 当初一行は、雪山のゲレンデでスキーを楽しんでいました。しかし午後から急速に天気が悪くなり――
一瞬で、前が見えないほどの大吹雪となりました。山の天気は変わりやすい。これ教訓ね。
 その時一行は、上級コースよりもさらに強烈なデンジャラスコースを滑っていたのですが、突然の吹雪に視界を遮られ、
コースをどんどん外れていき、ついには道に迷ってしまったのです。そして一行は、偶然見つけた山小屋に、吹雪が収まるまで
待機することにしたのでした。そして、今に至る。

「なっきー! 寝るなー! 寝たら死ぬぞー!!」
 キスケがとろんとした目つきの夏喜に、平手をかましました。
ぺちんぺちん
「んあー? なーにー? プールに入る時はー、準備運動をー……」
「だぁーー!! ダメだ! かんっぜんにトリップしてる!」
 キスケの必死の呼びかけにも、夏喜は反応しませんでした。そこで祐喜がキスケと代わります。
「おらァー! 起きれェー!」
ばちんばちん!
 キスケがやったのよりも強烈に夏喜の頬を叩きます。しかしほっぺたを真っ赤にしながらも、夏喜は起きませんでした。
「……ッ! ダメだ! 起きやしねぇ!」
 万事休す。このまま夏喜は、永遠の眠りへと就いてしまうのでしょうか。そんな中、キスケが苦渋の決断をしました。
「……おい祐喜。服を脱げ」
 突然の物言いに、祐喜は困惑しながら返します。
「なんだって? 服を脱げだと? ハッ! お前まさか……!」
「いいから! 早く脱げ! これしかなっきーを救う術はないんだ!」
 しばらく祐喜は俯いて考えていましたが、やがて決心したように頷いて言いました。
「ああ……わかったよ。脱げばいいんだろ」
 そうして二人は、服を脱いで上半身裸になりました。そして、じりじりととろんとした目つきの夏喜に近づいていき――

45 :No.13 サマーバケーションズララバイ(4/4) ◇kCS9SYmUOU:06/12/17 17:27:50 ID:VfSMB89y
ふぁさっ
 脱いだ服を、夏喜の上にかぶせました。これで保温効果は倍率ドン! さらに倍です。そして上半身裸の男たちは、お互いに向き合いました。
体から立ち上るオーラは、周りの大気をゆらゆらと揺らしている――ような気がしました。
「よし……祐喜ィ……いくぜ」
「ああ……いつでも来な」
ただならぬ気配。これから一体何が起こるのでしょうか。緊張が高まります。そして、
「はあああああああぁぁぁぁあああ!!」
「ほおおおおぉぉぉおおおぉぉおお!!」
 お互いが気合をこめるように咆哮すると、キスケが叫びました。
「古今東西! 熱いものォ!」
 そう叫ぶと、びしっと祐喜を指差します。
「なぁべやきぃ! うどぉん!」「熱い!」
 そして今度は、祐喜がキスケにびしっと指差します。
「例年以上のォ! 熱波ァ!」「暑い!」びしっ
「一万二千枚のォ! 特殊装甲ォ!」「厚い!」びしっ
「マッチョォ!」「暑苦しい!」びしっ
「うほっ! いい男ォ!」「アッーい!」びしっ
「――!!」びしっ「――!!」びしっ「――!!」びしっ「――!!」びしっ……
 二人の熱く、激しい古今東西ゲームは、山小屋の温度を少しずつ上げつつ、吹雪がやむまで続けられました。
 そしてそんな熱気の中、夏喜は一人幸せそうに、すやすやと眠っていたのでした。

「あー、そんなに焼きそば食べらんないよぉー……」

END



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