【 ごめんなさい高校謝罪部 】
◆0cvnYM3rjE




155 時間外作品No.02 ごめんなさい高校謝罪部 (1/2) ◇0cvnYM3rjE 06/12/10 23:59:29 ID:4McSGALH
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
佐倉香織は、謝罪部の部室で園部悠子に会うなり謝罪した。
「あら、どうしたの? 香織ちゃん」
香織は、息の続く限りに一気にまくし立てたようで、呼吸をゆっくり整えると、悠子に訴えた。
「だって先輩、土日の二日間とも誰にもごめんなさいって言うの禁止だなんて、
 私本当に苦しくって……食事もろくに喉を通らなかったんですよ。
 だから、二日分のごめんなさいを先輩に吐き出しちゃいました。あー、すっきりした」
悠子は、校庭に舞い散る桜を窓から見つめながら、顔だけを香織に向けて、優しく微笑んだ。 
「私が一年生のとき、はじめての謝罪禁止日も、それはもう辛かったのよ。
 誰彼構わず、ごめんなさいって謝罪したい衝動を抑えるのが大変で……」
「え、先輩も? なんだか意外です」
「ふふ、そうかしら。一年に一度だから、三回やってもう慣れちゃったけど、最初の頃は泣きそうになりながらやってたのよ」
「ええーっ、先輩を泣かせるなんて酷い! こんな行事無くなっちゃえばいいのに……
 ごめんなさい高校の、しかも謝罪部って言ったら、謝罪好きの誰もが憧れる場所なんですよ? 
 それなのに、誰にも謝罪しちゃいけない日があるなんて、私おかしいと思います」
香織はいつの間にか、悠子の隣に陣取って一緒に桜の木を眺めている。
「香織ちゃん、うちの高校のモットー、言えるかしら」
「えっと……『健全な謝罪は健全な精神に宿る』、でしたっけ」
「正解! 二年前、謝罪禁止日を経験する前の私は、なりふりかまわずただ高校の校則に従って、謝罪を繰り返す女だったの。
 無理も無いわ。この高校に入学したのだって、昔からごめんなさいって言うことが大好きで、それが高じてだったのよ」
「私も同じです!」
香織は嬉しそうに言う。

156 時間外作品No.02 ごめんなさい高校謝罪部 (2/2) ◇0cvnYM3rjE 06/12/11 00:00:02 ID:w4jzIcnK
「ふふ、そうね。だから、あなたもそうだったように、謝罪禁止日の二日間は私にとって地獄だったわ。
 でも、言えなくなってはじめて思ったの。謝罪の無い、ごめんなさいの無い世界、そんな冷たい世界は絶対見たくないって。
 それ以来、私は毎日心の底からの謝罪ができるようになったわ。謝罪できる今この時に、感謝できるようになった。
 謝罪に感謝するなんて、なんだか矛盾してるかしらね」
ひとときの静寂が訪れる。春風に吹かれてカーテンが揺れ、二人の長い髪もなびく。
先に沈黙を破ったのは香織だった。大きな瞳をウルウルとさせ、か細い声で言った。
「すごい……先輩すごいです! 私、そんなことにまで考えが回らなくて、無くなっちゃえばいいなんて……
 ほんとに、ほんとにごめんなさい。私、なんであんなこと言っちゃったんだろ」
「いいのよ、香織ちゃん。今のあなたの『ごめんなさい』、すごく心がこもってたわ。なんだか、謝罪のなんたるかを掴めたみたい。
 さあ、そろそろ他の部員たちが来る時間よ。ほら、廊下からもう聞こえてくるわ、『ごめんなさい』の声が。
 ふふ、みんな謝罪したくて仕方がないのね。今日は忙しくなりそうよ、香織ちゃん」
「はい! 私、頑張ります!」

朝の木漏れ日が、優しく部室を照らす。
二人はそれが、二日間の苦しみに耐えた学生達への祝福の光のようだと思った。 





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