【 嫌いな話 】
◆Asqbg6vpNs




157 時間外作品No.03 嫌いな話 (1/2) ◇Asqbg6vpNs 06/12/11 00:07:25 ID:w4jzIcnK
 簡単に生き物が死んだりする話は嫌いだ。簡単に死んだりする弟も嫌いだ。
 ミミズはなかなか死なないからいい。千切っても、潰しても、しぶとく生きている。心臓が三つ以上あるって話、本当だろうか。そんなにあるなら一つぐらいくれてもいいのに。
 幼なじみの由美が家にやってきて、線香を添えていった。裏庭でずっと土を掘っているぼくを見て、何か言いかけたけれどぼくは無視する。
 空は曇っていた。鼠色の空が鼠に何の貢献もしないように、青色の気分は青に何の貢献もしない。つまり、風景と気分は常に切り離しておかなくちゃ、いろいろと物騒だってこと。
 弟とよく遊んだこの場所で、ぼくは捜し物をしている。彼が一番好きだったもの。お気に入りだったものを、ぼくは盗ってしまった。そしてその事を黙ったまま、この裏庭に埋めてしまったのだ。
 返さないといけない。今さら返しても弟は喜ばないだろうけど、それでも返さないとぼくの気が済まない。明日の朝、弟はどこか遠い場所に連れて行かれてしまう。その前に見つけだして、返さなきゃ。

158 時間外作品No.03 嫌いな話 (2/2) ◇Asqbg6vpNs 06/12/11 00:07:37 ID:w4jzIcnK
「ヒロちゃん、もうおうち入ろうよ」
 ざりざりと、由美がサンダルを引きずって歩いてくる音がする。ぼくは振り返らない。寒くはないし、お腹も空いてない。お母さんの顔も、お父さんの顔も見たくはない。悲しい顔の中に埋まりたくない。
 またミミズを見つけた。まるで何度でも生き返るみたいに、何匹でも出てくる。それでも同じミミズは一匹もいないのだ。そう気付いて、もうミミズを殺すのはやめた。そんなことに時間は使っていられない。
「ねえ、ヒロちゃん。ねえ」
 由美の声は泣きそうだ。ぼくは泣いていない。怒ってもいないし、笑ってもいない。
「わたしのせいなの。わたしがシロを連れて出かけたせいなのに」
 一瞬、頭が熱くなるのを感じた。だけどすぐ収まる。涙は出してない。みんなが泣くというのなら、ぼくだけは泣くわけにはいかないのだ。
 みんなのような息苦しい泣き顔なんか見せずに、早く、弟の好きだったあのゴルフボールを掘り出して、返してやらなくちゃいけないのだ。
 じゃなきゃ弟はきっと、安心して遠くまで走っていけないんだ。



BACK−ごめんなさい高校謝罪部 ◆0cvnYM3rjE  |  INDEXへ