【 無題(題:謝罪) 】
◆MOQh6a44V2




147 No.43 無題(題:謝罪) (1/3) ◇MOQh6a44V2 06/12/10 23:55:58 ID:4McSGALH
人は常に特別な何かに飢えている。
理想と現実の狭間に生きながら、特別な何かを渇望している。


男は中流家庭に生まれた。見た目も中の上といったところで、今までの人生これといった苦労という苦労をした覚えはない。
内気ながらも多趣味でそこそこ運動神経も良い。
「普通」とか「並」とかいう言葉が似合う男だ。

ある日、男は考えた。
「今までそこそこの人生を送ってきた。人並みに失敗や挫折もしてきた。俺はこの先どうなるのだろうか。そこそこの嫁さんを見つけそこそこの家庭を築き、そこそこ長生きして死んでいくのだろうか……これが正解なのか」

震えが止まらなかった。自分の未来が半透明ながら見えてしまった気がした。
男は失う事を恐れた。
溶け出す蝋燭に心が揺さ振られた。ほつれていく洋服の袖を見ては喪失感を覚えた。

148 No.43 無題(題:謝罪) (2/3) ◇MOQh6a44V2 06/12/10 23:56:17 ID:4McSGALH
苦しかった。今まで「並」でいることは男にとっては難しいことではなかったが、簡単なことでもなかった。それなりに努力をしてきた結果、こんな悲壮感を覚えるとは……。
空っぽになった男は流れ行く運命に逆らうことにした。並でいるためのコンパスは捨てたのだ。

ただ一瞬一瞬を感動したいと、男は強く思った。
それから男の人生は感動に華やいだ。感動に身を任せた男の先行きは少なくとも不透明にはなった。

ある日、男は考えた。
「俺は、これからどうなるんだ。俺の将来はどうなるんだ……答えが全くわからない」

149 No.43 無題(題:謝罪) (3/3) ◇MOQh6a44V2 06/12/10 23:56:29 ID:4McSGALH
一瞬、男は青冷めた。喉が切り裂かれ唾液が溢れ出してくるような、そんな不安に襲われた。
しかしながら男は微笑をうかべた。

「俺は大きなものを手にいれた。自分のために過ちを侵し、認めることを。」
男は頷いた。



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