【 魔王城の危機 】
◆kCS9SYmUOU




124 No.37 魔王城の危機 (1/4) ◇kCS9SYmUOU 06/12/10 23:07:08 ID:4McSGALH
 窓の外はピーカン晴れで、なにもかもがまったりと過ぎ去っていくような。
 そんなうららかな昼下がりに、なにやら怪しげな空気を発している建物がありました。
 暗い色で統一された壁に、まがりくねった背の高い塔。それはまごうことなき魔王城でありました。
そんな魔王城の一室で、今まさに緊急会議が行われています。

「緊急事態だ!」
 きらびやかな装飾を揺らしながら、魔王様が言いました。勢いで机をぶん殴ってしまったので、手が痛そうです。
 それを楽しそうに見ていた参謀の吸血鬼のバンちゃんが、魔王様に微笑みながら訊きました。
「どうなさいましたか魔王様。気になるお菓子でも見つけましたか?」
「ぬぅ……そうだな……メージ製菓の――ってちゃうわーーい!」
 机をひっくり返さんばかりの勢いで叫びます。さすがは魔王様。ノリつっこみもなんなくこなしますね。
「勇者が! 城に! 近づいているのだ!」
 ぜいぜいと息を切らせながら、それなりに重要な用件を言います。それを聞いた亜人種のアダマンくんが、魔王様に言いました。
「そんなことより魔王様。いい天気なのでピクニックに行きましょう」
「ダメだ。ピクニックよりも勇者対策だ」
 アダマンくんの陳情はあえなく却下されてしまいました。しゅんとなるアダマンくんを尻目に、魔王様は
他に集まった魔物たちからよいアイデアはないかと意見を求めました。
 するとゴブリン族のゴブ男が、すっと手を挙げました。魔王様は発言を許可します。
「なんだゴブ男。言ってみろ」
「はい。勇者くらい魔王様がやっつければいいじゃないですか」
「バーロー!!」
 ばちこーん。軽く言ってのけたゴブ男に、魔王ズメテオナッコォ(基礎攻撃力一二〇・ガード不可)がヒットしました。
ゴブ男はくるくるときりもみしながら低空を飛んでいき、頭から壁にぶつかってずるりと崩れ落ちました。
魔王様は息を荒げながら、ピクリとも動かないゴブ男に向かって叫びます。
「簡単に言うな! 勇者は聖剣とやらを持っているんだぞ! そんなので斬られたらもう痛いどころの騒ぎじゃないんだ!
現に一個前の砦にいた合成獣のキメ彦だって、今じゃ魔界病院に入院しているんだ! うわごとで『聖剣こわい聖剣こわい』
って言ってんだぞ! ああ恐ろしい! ……他に意見はないか!?」

125 No.37 魔王城の危機 (1/4) ◇kCS9SYmUOU 06/12/10 23:07:38 ID:4McSGALH
 興奮冷めやらぬ魔王様は、バンちゃんに氷嚢で頭を冷やされながら次のアイデアを求めました。すると次々にアイデアが出されていきます。
「魔王様! 城の前に落とし穴をつくるってのはどうでしょう!」
「うぅむ……しかし勇者一行には魔法使いがいるからなぁ。すぐ脱出されるだろう。却下」
「じゃあ魔王様! 道端に毒入りの料理を置いとくってのはどうでしょう!? 食った瞬間ノックアウトだ!」
「お前じゃないんだから拾い食いはしないだろ。却下」
 様々な意見が出されましたが、一向にいい案は出ません。そんな現状に魔王様はどんどんナーバスになっていきます。
そして魔王様は、後ろで本を読んでいたバンちゃんに言いました。
「なぁバンちゃん。私はもう疲れたよ。人間界を変えてやろうって魔界から出てきたのに、出てくる間にすっかり
平和になってて、いまじゃ私が悪者扱いだ。勇者なんてもんも出てくるし。もう魔界に帰りたいよ」
 するとバンちゃんはゆっくりと、読んでいた本から目を離し、微笑みながら言いました。
「そうですか。なら勇者とやらに頭を下げて、見逃してもらいましょう」
 その言葉に魔王様はしばし考え、やがて顔を上げて、バンちゃんに言いました。
「……そうだな。しかし私なんぞが頭を下げたところで、勇者は私を見逃すだろうか……」
 神妙な面持ちで語る魔王様に向かって、魔王ズメテオナッコォによってHPを半分以上削り取られ意識不明だったゴブ男が、
むくりと起き上がり言いました。
「大丈夫ですよ魔王様。魔王様はかわいいですし、背は低いし、おまけに貧乳です。それで上目遣いに頼みごとされたら
断ることなんてできませんって」
「そ、そうか? こ、こんな感じか?」
 と、魔王様が上目遣いにゴブ男を見ました。すると
「うはーー! たまんねぇっス! おいらのジュニアがラストサムライっすよ!」
 そう言ったゴブ男に、真・魔王撲殺拳(基礎攻撃力六〇〇・強制ダウン)が炸裂しました。
 そして、もう二度とゴブ男が起き上がることはありませんでした。

126 No.37 魔王城の危機 (3/3) ◇kCS9SYmUOU 06/12/10 23:09:56 ID:4McSGALH
 数日後、ついに勇者一行が魔王城に現れました。青年一、青年と同年代の少女一、マッチョ一、幼女一のパーティーでした。
 城の入り口のところで待機していた魔王様が、さっそく勇者のところへ行き用件を伝えます。
「私が、この城を統べる魔王だ。実は貴様を見込んで頼みがある」
 すると勇者と思しき青年は少し驚きましたが、剣を抜かずにやわらかな微笑で返しました。
「なんですか? かわいい魔王様」
「私達を、見逃してください!!」
 必死になって頭を下げる魔王様。魔王様は今にも斬られるんじゃないかと内心ビクビクしていました。
「大丈夫ですよ魔王様。僕は、あなた達を斬ったりしません」
「ほ、本当か? しかし……キメ彦は斬ったんだろう?」
「キメ彦……? あぁ、あの合成獣ですか。違いますよ。あれは不幸な事故です。彼が影から急に襲いかかってくるものだからつい反射的に」
「そう……だったのか……」
 ほっと肩をなでおろす魔王様。そんな魔王様に、勇者が『勇者の用件』を切り出しました。
「それで、魔王様。私達がここまで来た理由なんですが……っと。これを我が王から預かってまいりました」
 勇者が懐から取り出したのは、一通の手紙でした。魔王様はそれを受け取ると、まじまじと読み始めました。

『拝啓、魔王様。新緑のさわやかな季節と―略―さて、今回お手紙を出させていただいたのには訳があります。
それは、魔王城のことです。実はそこの土地には我が国の都市を結ぶ列車の線路がありまして、丁度魔王城がその線路を
塞いでいる状態にあるのです。そのため列車が運行できず、大変困っているのです。つきましては、魔王城の移動を
お願いしたい所存でございます。それで、移動するにあたっていくつか候補地をピックアップしておきましたので、よろしければ
ご活用ください。それでは、長い文章ではありましたが、今後とも我が国とよろしく――』

 その手紙を読んでいた魔王様の顔が、恥ずかしさのあまりどんどん真っ赤になっていきました。
そして、ついに耐え切れなくなったのか、その場で涙目になりながら叫びました。
「ご……! ご……! ……ごめ――」
 そのかわいらしい姿を見ながら、勇者一行とバンちゃんはいつまでもやさしく微笑んでいました。

END



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