【 わたしとあたしと僕 】
◆MiMlaJ9gNI




118 No.35 わたしとあたしと僕 (1/3) ◇MiMlaJ9gNI 06/12/10 22:48:06 ID:4McSGALH
 シュウ君が死んだ。
シュウ君とケンカしたままだった。
仲直りしたかったのに、もう彼と仲直りすることは出来ない。
わたし達は仲のいい恋人としてじゃなく、ケンカした恋人として終わってしまった。
今更彼に謝ったところで、仲直りのキスさえ出来ないのだ。
怨み、悲しみ、後悔、絶望。色んな感情が入り混じって、今の自分の気持ちがさっぱり分からない。

 彼の葬儀中、ずっと私は泣いていた。
友達はずっと慰めていてくれたけど、その全てが上辺だけの言葉に聞こえて耳障りだった。
シュウ君の棺の前で、何度も泣きながら呟いて謝ったけど、何の解決にもならなかった。
どうしたら、わたしは許されるのだろうか。
いや、もしかしたらわたしは許されちゃいけないのだろうか。
それとも、そもそも何も悪いことをしてないのだろうか。
いけない。こんな事考える自分に嫌悪する。
何が悪い? そうわたし達はケンカした。
ケンカ? 何でケンカしたんだっけ。よく覚えていない。
確か、シュウ君が悪かった気がする。
ああ、まただ。なんでわたしはこんなことを考えちゃうんだろう。
シュウ君は悪くない。じゃあわたしが悪い?
なんだかよく分からなくなってきた。考えがごっちゃになってくる。

119 No.35 わたしとあたしと僕 (2/3) ◇MiMlaJ9gNI 06/12/10 22:48:17 ID:4McSGALH
──まだあんたは逃げてるのかい?
 え、何?
──まったく、嫌になるよ。そろそろ現実を見るがいい。
 なぜか頭の中に響くわたしじゃないその声を合図にして、意識が現実から遠のいていく……。
ぼやけた学校の教室が見え始めた……。何だろうこれは。
画面が下へと移った……。携帯を見ている?
文字が見える……。シュウ君からだ。
「放課後、屋上で待ってる」
怒りと期待感を感じる……。これは……記憶?
 場面が変わった……。薄暗い暗い階段がある……。これは、確か屋上へ続く階段だ。
なんだかもやっとした感情が渦巻いているのが分かる……。これは不安感?
扉が開く……。ここの扉は鍵が常に掛けられているんだけど、なぜか三年生に代々伝わる合鍵があるのだ。
シュウ君がいつものように、すっかり錆び付いたフェンスに座っている……。
そして視界がシュウ君の横顔になった。隣に座った?
断片的なシュウ君の言葉が聞こえ始めた。
「縛られる……うんざりだ……携帯……覗き……質問ばっかり……合わない……」
そして、この言葉がはっきりと聞こえた。

「別れよう」

 その瞬間、強い怒りが爆発したのが分かった。
あれ、いつの間にかシュウ君の向かい側に立って何か叫んでいる。
「あなたの為……わたしの気も知らないで……文句ばっかり……好きだから……どうして……」
そして
「何か言ったらどうなの!」
という叫び声と共に、フェンスに蹴りが入った。
え、シュウ君が座っていた区画が外へと倒れていく。
嘘? ダメ、ダメ!
ひゅーん。がしゃん。ぐちゃ。

120 No.35 わたしとあたしと僕 (3/3) ◇MiMlaJ9gNI 06/12/10 22:48:27 ID:4McSGALH
 ここで途切れた。
今のは何だったの?
あれは何?
──あれはあんたから押し付けられた記憶さ
 え? わたしの記憶?
 嘘! あんなの知らない!
──嘘じゃないさ。じゃあ、試しに十一月二十日の放課後に何してたかいってごらん?
 シュウ君が死んだ日……? ……あれ? わたしは何をしていた?
──よく考えてごらん、彼が死んだ後の行動を。
 わたしは……、あれ、泣いていた記憶しかない。
気がついたら泣いていた。部屋に閉じこもっていたら親に無理やり葬儀に連れられた。
そしてまた泣いていた……。
──そうだろ。あの時の前後の記憶はあたしに押し付けられたのさ。あんたに見せたから、そろそろ思い出してるはずだよ。
 嘘! こんなの嘘よ!
──何いってるんだい! あんたは目を逸らしてるだけだ!
 違う……。わたしはシュウ君を殺してなんかいない……。
──いや、あんたが殺したんだ。
 違う……違う……。あれは、そう事故よ。
わざとじゃない。殺そうと思ってない。
──たわ言いってるんじゃないよ! あの時怒っただろう? 殺したいほど憎くなっただろう?
 違う……違う……違う……違う……。死んでなんかいない。
そうよ。元々シュウ君は死んでなんかないのよ。
全て夢だったの。シュウ君は生きてる!
生きてる……いきてる……イキテル……。
……。
──ふん、やっと壊れたか。これで体を自由に出来る。……あれ? 誰かいるのかい?
えっと、何ですか?
──うん? お前は誰だい?
僕は……、僕は大塚愁です。
                   end.



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