【 私は河童である 】
◆e3C3OJA4Lw




57 No.18 私は河童である (1/2) ◇e3C3OJA4Lw 06/12/09 22:08:59 ID:yP2xS2zu
 私は河童である。
 頭に皿を乗せ、緑色のビニールのような皮を持ち、口の先に黄色い口ばしを付けた河童である。
 なら鳴き声は「くぁ」とか「くわ」だと思うだろう。
 残念ながら違う。私の鳴き声は「ボキュ」である。
 それは、水道管がつまったような音に似ているらしい。
 いや、そうなのだ。水道管のつまった音は私の鳴き声。
 つまり私は、水道管の中に潜んでいる。
 川で見かけたことのある河童は、きっと流されてしまったのだろう。
 ん、河童が人間を襲う?
 そんなはずは無い、とは言い切れないが。
 安心したまえ、私は襲ったりしない。
 人間は私たちのご主人様のようなものなのだ。
 いや、そのものである。人間は水と共存している。河童も同じだ。
 人間が水を使うことは、私たちに水を与えてくれると同等のことなのだ。
 水道管。私の住む場所。
 他の河童もほとんど同じ。たまに川にすき好んで住んでいる河童もいるけれど、それはほんの一部。
 そのほんの一部が人間を襲ったりしているのだろう。
 ん、水道管に住めるのかって?
 私の体長は二十五センチ。幅は十七センチ。スタイル抜群。
 地下道じゃ、河童界のカリスマ美少女と呼ばれているくらい。
 というか、体の大小はコントロールできたりする。
 あ、私は雌である。女の子。一歳。目はくりくりで、足がよちよちの子どもである。
 萌えた?
 ……世間の目は厳しい、か。はいそこ。井の中の河童って言わない。
 うーん、ぼきゅ。てへへ。
「おい、か、河童?」
 え、誰、見つかった?
 早く体を小さくしなきゃ!
 その前に捕まった。
「うお、河童だ。大発見だぜ、こりゃぁ」

58 No.18 私は河童である (2/2) ◇e3C3OJA4Lw 06/12/09 22:09:25 ID:yP2xS2zu
 ちなみに、体を捕まえられた瞬間、大小変化をすることが出来なくなるのである。
 人間、この家の住人。私のご主人様。
 そのご主人様の指が……ど、どこさわってんのよばかぁ。
 力が入らない。身動きできない。それが今の状況である。
「ぼきゅ、ぼきゅ(はなして、はなして)」
「どうしよ。というか、何でパイプから河童が出てくるんだよ。何か詰ってるなと思ったら」
 うぅ、どうしよ。あ、はなしてくれた。
「うおぁ、手がすべっちまった! 待て!」
 追いかけてくる。待てといわれて待つか!
 それにしてもどうやって逃げよう。
「あぁ、それはそれはそれは、近づくなー!」
「ぼきゅ?(え?)」
 私より大きい、何かで作られた城の模型だった。
 ぐしゃぁ。城は崩れた!
「なんてことを! て、それにも近づくな!」
「ぼきゅ?(え?)」
 床にはパズルがあった。私の足にくっつく。ちょっと不愉快。
 もっとぐしゃぐしゃにする。パズルは崩れた!
「母さん、父さん、助けてください。僕はたった一匹の河童に泣かされそうです」
 少年は私を追いかけることをやめて、そして泣きそうになっていた。
 悪いことしたのかな。どうしよう。
 ここは河童流の贖罪!
「……ん? M字開脚?」
 やーん、恥ずかしい。ご主人様が初めて。
 私は誰にもこの格好をしたことがないのである。
 これは、私が今までの罪を償う、という構えだ。
「ふざけるな河童!」
 捕まって、頭から床に、垂直に落とされた。
 皿が割れたような気がした。死んで詫びろってこと、か。
 ぼきゅ。



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