【 winter is being 】
◆vHEmKrF2Yo




27 No.8 winter is being (1/3) ◇vHEmKrF2Yo 06/12/09 02:35:12 ID:HJJwReDJ
 日本は四季に恵まれた、とても美しい国です。
春、夏、秋、冬には、それぞれをつかさどる神がやどっています。
神達は順番に日本を訪れ、四季を起こしていたのです。
春が命を生み、夏は命を育て、秋は命に実りをもたらせることで
人間を助けることを自らの喜びにしていました。
四季の神はそれぞれ人間に感謝されていました。

 ある時、夏の神は言いました。
「冬の神よ、お前は人間に何を与える?
私達は協力して人間に恵みを与えるが、お前は厳しい寒さを与えるだけだろう。
お前がいなくなれば、人間はもっと豊かになれる」
冬の神は答えました。
「父は人間のために意味の無い者を創るか?
私はきっと人間のためになっているはずなのだ」
春の神はすぐに返します。
「しかしお前は自分の役割すら知らない。
お前がわからないのなら私達がお前の役割を知るはずがない」
秋の神も言いました。
「お前がいなくなってみろ。そして知るがいい。
人間は今よりも豊かになり、私達に感謝するだろう」
「私は人間のために何ができただろう。存在する者全てに意味があるのではないか?
もしも私が意味のない者なら、私は存在をなくそう。それが人間の望むことなのか。
ああ、なぜ私は生まれてきたのか……」
冬の神は嘆きながらはるか北の国へ旅立っていきました。

28 No.8 winter is being (2/3) ◇vHEmKrF2Yo 06/12/09 02:35:25 ID:HJJwReDJ
 一年を三つの季節がめぐるようになりました。
春に芽吹き、夏に育ち、秋に実る自然の恵みに人間は喜びました。
しかしなぜでしょう。年を追うごとに作物はあまり採れなくなってきたのです。
一度は豊かになった人間の暮らしは苦しくなり、
神の怒りだと思い、毎日のように神に許しを請う儀式を行いました。
それを見た三つの神は人間たちに申し訳なく思いました。
しかし神達にも、何が起こったのかわからなかったのです。
春の神はいいました。
「私が土に呼びかけ、命を宿そうとするのに、土は答えない」
夏の神はいいました。
「私が土に呼びかけ、命を育てようとするのに、土は答えない」
秋の神はいいました。
「私が土に呼びかけ、実りをもたらそうとするのに、土は答えない」
三つの神は土に原因があると思い、大地の神のもとを訪れました。
「私達は人間のためを想って恵みを与えるためにお前に呼びかけている。
なぜお前は私達に答えない」
秋の神の問いかけに大地の神は力なく答えました。
「私の力がなくなっている……お前達はある年から突然私に休息を与えなくなった……」
三つの神は知りました。土は疲れていたのです。
春の神は申し訳なさそうに言いました。
「お前の力は無尽蔵ではなかったのか。人間から母と慕われるお前の力にも限界があったのか。
私達はお前に頼りすぎた。しかし、何がお前に休息をもたらす?」
「冬の神の訪れが私に休息をもたらしていた……」
大地の神は冬に眠りにつき、力を蓄えていたのです。
神々はそのことに初めて気付きました。
そして、冬の神に投げかけた言葉の残酷さにも気付きました。

29 No.8 winter is being (3/3) ◇vHEmKrF2Yo 06/12/09 02:35:40 ID:HJJwReDJ
 三つの神は冬の神のもとを訪れました。
夏の神は言いました。
「私達は自分の力に自惚れていた。私達の力だけでは恵みをもたらすことができない。
お前の存在に気付いた。人間のためを想うなら、また私達と共にきてほしい」
冬の神は答えました。
「私を必要としてくれるのか? 人間のためなら、私はまた働こう」
そこに太陽の神が舞い降りました。そして言うのです。
「冬の神の清らかな心はお前達を許してくれる。
しかしお前達が感謝の心を忘れたままなら、私はお前達を許さない」
三つの神は口々に懺悔を始めました。
「父よ、私達は謝らなければならないのですね。
冬の神よ、人間達よ、大地の神よ、許しておくれ」
太陽はそれを聞くと、大地に力を与え、また天に昇っていきました。

 人間が土地という空間を分け合うように、四季も一年という時を分け合って協力しているのです。

おわり



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