【 本当にすいま―― 】
◆ThH5IIjnMM




422 名前:本当にすいま――(1/1) ◆ThH5IIjnMM 投稿日:2006/12/09(土) 00:08:01.24 ID:myiTcMi10
「まったく、どう責任取ってくれるんだ」
 上司はカンカンに怒っている。正直、なんでそこまで怒っているのか。責任どうこう言
われるようなことはしていない。ただちょっと上司に言ってあげただけだ。「ずれてますよ」
って。それで自分の威厳がなくなったとか、みんなの笑い者になったとか言われても知っ
たことじゃない。でもまあこのまま怒らせといても面倒なだけなので、適当に謝っておく
ことにする。
「本当にすいま――」
「君は本当に事の重大性がわかってるのかね」
「はい。わかっています。もうしわ――」
「本当に本当にわかっているのかね? そんな態度で人にわかってもらえるとでも?」
 なに。なんなの。この親父。私が謝ろうとしてるのにわざと邪魔してるわけ?
「はい、はい。わかっています。本当に本当にもうし――」
「大体だね。君には誠意と言うものが足りないんだよ。分かる? 誠意だよ。誠意」
 さっきより私の言葉を遮るタイミングが早くなったのはなんなの。「わ」くらい言わせな
さいよ。「わ」くらい。
「わかっています。ちゃんと誠意は持っているつもりです。本当にすい――」
「もういい。君に謝る気がないのはよーくわかった。さっさと席に戻って仕事してなさい」
 このハゲ親父が、人の話聞いてないのはどっちだよ。もう無理。もう限界。もう我慢で
きない。もうどうなってもいい。
 私は席には戻らず上司の席の後ろにある窓を開けた。
「君、なにしてるんだね。早く仕事に戻りなさい」
 上司の言葉を無視して、私は上司の頭の上にあるブツを掴む。それを私は思いっきり窓
の外に放り投げた。
 放り投げたそれは高く高く空に舞い上がった。

 その日、私は職を失った。空にかつら舞う冬の始まりのことであった。





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