【 冬の始まり。思春期の始まり? 】
◆VXDElOORQI




224 名前:冬の始まり。思春期の始まり?(1/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/12/03(日) 23:32:26.58 ID:kUy9WniI0
 すっかり寒くなり、季節はもう冬と言った感じのある日のこと。
「ただいま」
「おかえ……り」
 妹は帰ってきたかと思うと、すぐに自分の部屋に行ってしまった。
 まただ。ここ最近、妹の様子がおかしい。
 部屋に入れてくれなくなったし、ご丁寧に部屋の扉に『立入禁止』の札までかけてある。
 妹も思春期だ。部屋に入ってほしくないのもわかる気はする。
 だが変化が急すぎる。ほんの数週間前まではそんなこと気にする様子はなかった。
 運動が得意で部活に熱心な妹は、今まで世間で言う女の子女の子したことを一切やらな
いやつだった。それが突然、部屋に入るのを嫌がるようになったのには、なにかわけがあ
るはずだ。  
 気になる。ものすごく気になる。
好奇心はムクムクと大きくなり、妹が部屋に入れてくれなくなった原因を探れと俺に言
ってくる。
 そして俺はその声に従うことにした。

「おい。ちょっといいか」
 妹の部屋の前で妹に声をかけてみる。
「兄貴、なんの用?」
 扉を少しだけ開け、そこから返事をする妹。
扉の隙間から部屋の様子を見ることは出来ない。
「ほら、あれ。この前話してたCD貸して」
「ちょっと待ってて」
 扉から離れ、妹はCDを取りに行く。
 正直、好奇心に任せて行動したのはいいものの、この先どうやって妹の部屋に進入する
かまったく思いつかない。
強引に入るという最終手段もあるが、出来ればそれは避けたい。さてどうしたものか。
 そんなことを考えていると妹がCDを持って扉の前に戻ってきた。
「はい」
 扉の隙間から手を伸ばし俺にCDを渡す。

225 名前:冬の始まり。思春期の始まり?(2/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/12/03(日) 23:33:05.22 ID:kUy9WniI0
「サ、サンキュ」
 妹はすぐに扉を閉めず、俺のことじっと睨んできた。
「な、なんだよ」
「部屋、入っちゃダメだからね」
「わかってるよ」
 俺のことを睨んだまま妹は扉を閉めた。


 次の日の朝になって現れた妹の目の下には大きな隈が出来ていた。
「大丈夫か? ちゃんと寝たのか?」
 無視。妹は俺の声が聞こえているのかいないのか。まったく返事をしない。
「おい、ちゃんと聞いてるのか」
「兄貴うるさい。私もう学校行くから」
「朝飯は――」
 俺の言葉を最後まで聞かず、妹はさっさと学校へと行ってしまった。

 今日も妹は帰ってくるなり自分の部屋に向かい出てくる様子はなかった。
 俺はもうなぜ妹が俺を部屋に入れなくなったか知りたいという好奇心より、妹のことが
心配だった。
 今朝の様子は明らかにおかしかった。今まで元気だけが取り柄みたいな妹があんな風に
なるまでいったいなにをしているのか。それがただ心配なだけだった。
「おい、妹。どうかしたのか?」
 再び妹の部屋の前で声をかける。
「うるさい」
 返事は扉を少しも開けることなく、扉越しに聞こえてきた。
「うるさいとはなんだ。俺はお前を心配して――」
「うるさいうるさいうるさい! 私は今、忙しいの! バカ兄貴は向こう行っててよ!」
「ああ、そうかい! 悪かったな!」
 妹の態度と言葉に怒りを覚え、その怒りをそのままぶつけるように怒鳴り返す。
 二人の間に扉越しの沈黙が流れる。

226 名前:冬の始まり。思春期の始まり?(3/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/12/03(日) 23:33:44.00 ID:kUy9WniI0
 妹も扉の前にいるのか感じるがなにも言ってこなかった。
 俺は反省していた。妹にも事情があるのだ。それを無遠慮に聞いたりして。妹が怒るの
も当然だ。ましてや怒鳴り返すなんて。
「さっきは怒鳴って悪かった。ごめん」
 気まずい雰囲気の中、俺はそれだけ言って妹の部屋の前を後にした。

 次の日、朝俺が目を覚ますと枕元になにかが置いてある。
「なんだこれ? マフラー?」
 マフラー、どうやら手編みのようだ。そのマフラーと一緒に手紙らしきものも一緒に置
いてあった。
 俺は手紙に目を通す。手紙にはこう書かれていた。

『ハッピーバースデー バカ兄貴』

おしまい



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