【 私は立ち入り禁止 】
◆s.HFjy8reg




68 名前:私は立ち入り禁止(1/3) ◆s.HFjy8reg 投稿日:2006/12/03(日) 17:39:54.86 ID:5wpxnyiNO
「おい、大島! 殺しだ」
私はしがない警察官。大した事件も起きない田舎町の交番勤務
なので毎日のんびり働いていた。
そんな中での殺人事件である。忘れていた警官魂に火がついた。
「ただいま向かいます」
私は部長にそう言うと自転車で現場に向かった。
現場は手書きの立て札しかない空き地だった。
本当にここが殺害現場なのだろうか?
『私有地につき
立ち入り禁止
桐田不動産』
ありふれた立て札だがなぜか立ち入り禁止に赤く丸がつけられていた。
私は少し気になったがそれどころではないのを思い出し、空き地に足を踏み入れた。
警察学校の時に何度か遺体を見たことはあったが、こんな生生しいのは初めてだった。
悲愴感漂う顔を苦しそうに歪めた男が空き地に空いた穴の中で横たわっている。
その左胸はナイフが刺さり、朱に染まっていた。


69 名前:私は立ち入り禁止(2/4) ◆s.HFjy8reg 投稿日:2006/12/03(日) 17:41:27.44 ID:5wpxnyiNO
――ここは警察署内の「不動産会社社長殺人事件」の捜査本部。
「これが現場写真です。被害者は桐田進一(きりたしんいち)、この空き地の持ち主です。
着衣に乱れはなく、なぜか右手に一円玉を一枚握っていました。
今のところ容疑者は二人、被害者の友人の土西優輝(つちにしゆうき)と
被害者の生命保険受取人で暴力団組員の丹島霧房(たんじまきりふさ)です」
と若手刑事が説明する。
「丹島は分かるが土西に動機は?」
後ろの方から質問が飛ぶ
「はい、土西は桐田の妻と不倫していました」
その一言で急に騒がしくなる。しかし、これ以上は情報がないようで
「よぉし、ここらで散会だ。各自励んでくれ」
との捜査本部長の一言で一旦お開きになった。


70 名前:私は立ち入り禁止(3/4) ◆s.HFjy8reg 投稿日:2006/12/03(日) 17:44:54.77 ID:5wpxnyiNO
本部から出て来た藤道は人の波に流されている相棒の吉見を掴まえ話しかける。
「おい、まず被害者の自宅に行くぞ」
「なにか分かったんですか?」
「あぁ、ちょっと面白い推理が浮かんでな、その裏付けだ」
「なんですか? 教えて下さいよ」
「まあそのうち分かるって」
藤道は桐田の家に寄って夫人に二つ質問をするとすぐに現場に向かう。
現場に着くと状況も分からないまま振り回された吉見が藤道に疑問をぶつける。
「なんで桐田夫人に桐田進一が推理小説を読むかを質問したんですか?」
「分からないことだらけだろうから結論から教えてやろう。これは自殺だ」


71 名前:私は立ち入り禁止(4/4) ◆s.HFjy8reg 投稿日:2006/12/03(日) 17:46:03.56 ID:5wpxnyiNO
「……え? 何でですか?」
「アナグラムだよ」
「アナグラム?」
「言葉の綴りの順番を変えて別の語を作るやつだ、推理小説を読んだことのあるやつなら大抵は知ってるぞ」
「それであんな質問を、でもそれがどう事件と?」
「立ち入り禁止の立て札だよ。あれは桐田進一自身がつい最近作ったんだよな」
「はい、藤道さんの質問に桐田夫人はそう答えてました」
「ならもう答えは出たろう
シユウチニツキ
タチイリキンシ
キリタフドウサン
それで立ち入り禁止に丸がついてたわけだ」
「本当だ!
ツチニシユウキ
キリタシンイチ
タンドウキリフサ
でもなんでアナグラムって分かったんですか?」
「穴の中の遺体、握っていた一円玉は重さで一グラム。そんなとこだ」
「なるほど、じゃあ本部に戻りましょうか」
二人の刑事は夕陽を背に立ち入り禁止の空き地をあとにした。





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