【 立入禁止の謎 】
◆kCS9SYmUOU




718 名前:立入禁止の謎 1/5  ◆kCS9SYmUOU :2006/12/03(日) 04:23:50.95 ID:QDetBsqI0
 深夜の小学校。そこに今俺はいる。冬の冷たい外気が俺の体をなぶる。寒い。
 傍らには同い年の女の子。名前は筒井夏喜。愛称はなっきーだ。
こちらも寒そうに体を震わせている。ごめんな。つき合わせちゃって。
 本来ならもう一人バカがいる筈なんだけど、あいつは来ていない。なんでも
買い食いが親にばれて思いっきり説教を食らってるらしい。アホか。言いだしっぺのくせに。
「……よし、じゃあそろそろ行きますか」
時間になったのでいよいよ学校に乗り込む。やばいぞ。ちょっとわくわくする。
「うん。行こう。ゆーくん」
 一言言ってなっきーがついてくる。そうして俺たちは、深夜の学校へ足を踏み入れた。


719 名前:立入禁止の謎 2/5  ◆kCS9SYmUOU :2006/12/03(日) 04:24:34.44 ID:QDetBsqI0
 時間は半日ほどさかのぼる。

「――立ち入り禁止の部屋ァ?」
 小学校の教室で、いつもの仲良し三人組で話をしていた。今は昼休みでほとんどの生徒が
外に出ているため、教室内に人は少なかった。おかげで教室内は静かなもので、普通のトーンで話が出来る。
「そうそう。お前らだって知ってるだろ? あの旧校舎一階の」
 机に腰掛けたちょっとノリの軽そうな男子が言った。こいつは波多野喜助。噂大好きのバカである。
この間も「理科室の人体模型が動く〜」とか何とか言って俺たちをあきれさせていた。なんのこっちゃ。
「うん。ボクも知ってるけど――それがどうかしたの? キスケ君」
 と、なっきーが言った。どうにも話が見えてこない様子だ。俺もだけど。
「どうかしたんだよ! あの部屋にはな、色々噂があるんだよ」
「また噂か。で? 今度はどんなんだ?」
 半分あきれながら一応話は訊く。こんなんでも幼馴染なのだ。むげには出来ん。
「それが諸説あってな? 実験用の見たこともない生物がいるとか、学校中の霊の会議所だとか、
昔自殺した先生と生徒の遺書が血で貼り付けてあるとか――」
「なんだかありがちだねぇ」
 なっきーが苦笑しながら相槌を打つ。
「そう言うなって。でな? どの噂にも共通点があって……『入ったら最後、二度と生きて出られない』で締められてるんだよ」
 へぇー。それは知らなかった。二度と生きて……ねぇ。
「で? だからどうするってんだ?」
 それを聞いたキスケが、机から降りて邪悪な笑みを浮かべながら俺に言った。
「決まってんだろォ? 祐樹ィ……」
 嫌な予感がする。そしてコレは大体外れたことが――
「俺たち三人で! 確かめるんだよォ! このとびっきりの謎をよォ!」
 やっぱりか。ちくしょうめ。
 そしていつの間にか勘定に入れられていたなっきーが「ひゃふっ!?」と情けない声を出して驚いていた。
 一蓮托生。許せよなっきー。


720 名前:立入禁止の謎 3/5  ◆kCS9SYmUOU :2006/12/03(日) 04:25:19.62 ID:QDetBsqI0
 そして、今に至る。

 校舎の中は外よりは大分ましだった。吹きすさぶ風がないだけでここまで変わるとはね。
しかし、体感温度はそうでもなかった。なんというか……背中が寒いというか。
「なっきー。なんか寒くないか?」
「…………」
 返事がない。それになんだかそわそわしながら歩いている。どうかしたんだろうか。
「おーいなっきー聞いてるかーい」
 そう言いながら肩にぽんと手を置いた。すると
「ひゃふっ!?」
 間の抜けた声を出して体中をびくっと震わせ、その場に硬直した。ははーん。なるほど。
「なっきー、ひょっとして恐い?」
「こっ恐くなんかないよ? ちょっと警戒してたダケダヨ?」
 あなた声が裏返ってますわよ。もうちょっと上手くごまかしなさい。
「そ。まぁいいや。……あーでも俺ビビリだから恐いなぁ。ちょっとごめんよ」
 そう言いながらなっきーの手を掴む。よっしゃ。これなら恐くなかろう。我ながら名案だ。
 でもそれきりなっきーが喋らなくなったけど、恐がってる様子もないからいいや。

721 名前:立入禁止の謎 4/5  ◆kCS9SYmUOU :2006/12/03(日) 04:26:19.38 ID:QDetBsqI0

 ほどなくして、目的の場所にやってきた。旧校舎一階の、立ち入り禁止部屋に。
「着いたぞ。ここだ」
「うん。そうだね」
 普通の引くタイプの扉に木製の掛札が掛けてあって、表面にでかでかと『立入禁止』と書かれている。
うん。普通に恐い。まずフォントが禍々しい。深夜の学校じゃなくても十分に恐い。こりゃ噂も立つわけだ。
 ドアノブに手をかけ、軽くひねってみる。がちゃがちゃと音がして、鍵がかかってることをアピールした。
「やっぱりねー。鍵かかってるよ」
「どうするの? ゆーくん」
 心配そうになっきーが訊いてきた。大丈夫。案ずるでない。こんなこともあろうかと……っと。
 ごそごそとポケットを漁り、細長い棒状のものを取り出す。そしてそれを鍵穴につっこむと、ぐりぐり動かし始めた。
「な、なにやってるの? ゆーくん」
「んー? 鍵開けだけど」
「どこでそんなことを……」
「見くびるなよ。これでも鍵屋の息子だぜ? 『鍵屋の天野』をよろしく……っと」
 しばらくぐりぐり動かすと、かちんと小気味よい音がして鍵が開いた。さぁて。この先に何があるのかなっと。
「じゃあ……開けるぞ」
「う……うん」
 そして俺は、その扉をゆっくりと開け放った――


722 名前:立入禁止の謎 5/5  ◆kCS9SYmUOU :2006/12/03(日) 04:27:31.65 ID:QDetBsqI0
「で!? どうだったんだ!?」
 翌日。かーちゃんにぶん殴られて顔を腫らしたキスケが俺たちに訊いてきた。どっちかといえばお前の状況を聞きたい。
「んなこたぁーどうでもいいんだよ。で、なにがあった!?」
 腫らした顔を近づけてがなりたてる。これはうっとおしい。
「別に……なにもなかったよ」
 事実を言った。するとなっきーも「ボクも同意見」と援護射撃。
 それを聞いたキスケはがっかりしながら、
「え、じゃあ生物は? 霊は? 遺書は? 空気は?」
「まぁさすがに空気はあったが――他はなぁーんにもなかったぞ?」「うんうん」
 するとキスケはちぇーっと言いながらがっくりとうなだれた。そして
「じゃー『入ったら二度と出られない』ってのも嘘かー。なんだー。つまんねーなー」
「いや。それは正しい」「そうだねぇ」
 俺の言葉にキスケはすかさず訊いてきた。
「なんですと? なんにもなかったんだろ? おまえら入ったんじゃないの?」
「いや。入れなかった」「うん」
 その答えにひたすら首をかしげるキスケ。そしてどういうことか説明を求めてきた。
「うーん。つまりなぁ……何もなかったんだよ。机も、イスも――床も」
「はいぃ?」
「だから、部屋の中全体が大きな穴だったんだよ。つまり、入ったら落ちちゃって出られない」「そーいうこと」
 そのとんでもない答えにキスケはしばらく絶句して、そのあと俺たちに言った。
「なんでそんなもんが校内にあるんだよ」
「さぁ」

「それが、謎なんじゃねーの?」

END



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