【 壁を越えて虹を見つける 】
◆SiTtO.9fhI
508 名前:壁を越えて虹を見つける1/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:29:58.66 ID:iliyToDI0
学校でボクがひとりぼっちになってしまった原因はユキちゃんとの喧嘩にある。
どっちのネックレスが可愛らしいか……そんなことからだった。
以来ユキちゃんとは口もきかなくなったし、ボクとユキちゃんがいつもいた仲良しグループからもボクは無視されるようになった。
ボク達の間に大きな壁が現れ、それを乗り越えることは出来そうにもなかった。
最初のうちはがまんしてたけど、むかついたから学校に行くのをやめた。気まずくて行けないというのもあったけど。
学校を休んで四日目になる。
ズル休みの昼下がりは退屈であった。カーテンを閉めきった暗いリビングでテレビを見ながら、菓子パンをかじる。
そのまま時の流れに身を任せて、ぼぅっとしている一日である。
ボクは、あまりのカワイさに嫉妬した魔女の呪いによって、ナメクジに変えられてしまったかわいそうなお姫様だと思う。
ナメクジみたいな生活が出来る生息条件は整っていた。ボクは一人っ子でパパという人がいない。
だからママは朝早くから遠くへお勤めに行っているのだ。
ママがお勤めをしていなかったら、ボクはいやいや学校に行っていただろう。いけないことだとは思うけど、そういう点ではママに感謝している。
もちろん、ママのことは大好きだ。でもママはボクが学校に行っていないことを知らない。
ママが学校での様子をきいてきても、ボクは学校で楽しく過ごしている風をよそおっていた。
とても胸が苦しかった。突然、泣きたくなる時もあった。けどボクは泣いたりなんかしなかった。泣いたら負けだと思っている。
それに悪いのはユキちゃんだ……。ユキちゃんが謝ってくるまで、ボクは学校なんか行かないと決めている。
「おーい! ずいぶんと寂しそうじゃねーか」
その声はテレビからだと思ったけど、そうではなかった。ボクの背後から聞こえてきたのだ。
恐る恐る振り返って、ボクは驚いた。そこには羽をぱたぱたとはばたかせるコウモリっぽいのがいたのだ。
「おっす。おいらは悪魔のフティー。つーってもまだ見習いで、魔力がないから魔法は使えないけど、アンタはおいらが救ってやるよ!」
あっれー? ボク、白昼夢をみてるみたい。コウモリって普通しゃべらないよね? ……うん。これ幻。
コウモリっぽいのをそっと両手で包んで、一気に潰した。手のひらが重なるか重ならないかのところでコウモリっぽいのが抜け出し、
「うを、うをっ! いきなりなにするんだよ。アブねーじゃねーか! おいらが死んだら、魔界で大問題だぞ!」と言う。
二本の角が生えた頭から煙を出して怒っていた。なんか、可愛いかった。
「だってこれ白昼夢なんだもん。何したっていいでしょ?」
「んん? おいらはハクチュームじゃねーよ。まぁ、信じられないだろうけど。この現実、果たしてお嬢ちゃんにわかるかな?」
言い方がむかついたから、再度潰しにかかったけど自称悪魔(見習い)フティーはひょいと避けてみせた。
その日からフティーはボクの周りをしつこく飛び回るようになった。
509 名前:壁を越えて虹を見つける2/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:30:41.29 ID:iliyToDI0
「ちょっと、ついて来ないでよ。エッチ!」
「仕方ないだろ。おいらはアンタのそばにいなきゃいけないんだから。まぁ、ハクチュームだと思っとけ」
お風呂場に入ってくるのは非常識だと思った。そんなこともお構いなしに、フティーは湯船につかるボクの頭の上をクルクルと飛んでいる。
「ねぇ、フティー。なんでボクのところに来たの? ってか、本当に悪魔なんだよね? ねぇ?」
フティーは風呂場のイスの上に降りて言う。
「なんでかって? 一人前の悪魔になるために決まってんだろ! 悪魔ってのはな、ヒトの悲しみをもらって行くことで魔力を溜めて、一人前になっていくわけよ。それにおいらの――」
あら、やだ。ノボセてきちゃった。でも大丈夫。ちゃんとお話は聞いてたから。どうやら、フティーはボクの悲しい波長に呼び寄せられたらしい。
ついでに、フティーのパパは魔界の大魔王。これは嘘くさい。要するに悪魔って結構いいやつなんだ。
「フティー目をつぶってなさい。ボク、お風呂出るよ。見たら潰すからね!」
夜遅くにママが帰ってきた。
大きな袋をぶら下げて、明日のおかずやおやつをたくさん買ってきてくれた。となり町の商店街で安売りをしていたらしい。
ボクはあわててフティーに隠れるように言った。
しかし、ママにはボクの肩に乗っかっているフティーが見えていないようだった。
ママはよく学校でのことをきいてくる。その前にボクは自分の部屋に光の如く逃げ込んだ。足が速いことだけは自慢である。
電気もつけずに、そのままベッドに横たわる。最近、暗いところの方が落ちつく自分に気づいた。
でも寝る前になると、いやなことばかりウジウジ考えて、考えすぎて泣きそうな気持ちになる。
やっぱりボクはナメクジだった。しかし、今夜は違った。枕元にはフティーがいるのだ。
「なぁ、お嬢ちゃん。そろそろ名前教えてくれないか? このままじゃ、アンタ。ボクッ娘に認定しちゃうよ」
そういえば、名前を教えてなかった。ボクッ娘で本望だ。でも、お嬢ちゃんとかアンタとか言われるのは少しいやだった。
「ミサキ。ミサって呼んでいいよ」
「おぉう。じゃあミサ。何で悲しいか聞いていいか? おいらそれ聞かないと、何かしようにもできない」
「何かしてくれるの? まだ魔力がないから魔法も使えないんでしょ?」
「ぐっ、まだ魔法は使えないけどさ……。そのなんだ……。んー。なんもしてやれないな……。そうだ! 相談に乗ってやってもいいぜ!」とフティー。
今話したら少し楽になれる気がした。
「同じクラスにね。ユキちゃんっていう親友がいたの。ユキちゃんとは小四の時からの付き合いで、中学のクラスも同じなの。
でもね、二週間くらい前にネックレスが原因で喧嘩しちゃったの……。ボクのハートのネックレスね、ママが入学祝いで買ってくれたの。だから、悔しかった」
フティーが「くだらねー」と笑った。フティーを枕で潰してやった。
510 名前:壁を越えて虹を見つける3/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:31:17.67 ID:iliyToDI0
その次の日も、また次の週も、学校には行かなかった。
お昼頃になると、家に電話がかかってくるようになった。担任の先生だといやだったから出ないようにした。
ボクとフティーは何をするわけでもなく、ただぼぅっと過ごしていた。何気ない会話も楽しかった。
今週も学校を休んだ。これで四週間になる。今日は土曜日だったから本当に学校はお休み。今日と明日、二日間は学校に行かなくていい。
とは言っても次の週も学校へ行く予定はないんだけど。
リビングがいつにも増して暗かった。外は雨が降っているらしい。頭が痛くて気分もサイアクゥ〜である。
目覚めた頃には、普段なら学校が終わっている時間を過ぎていた。
いつものようにテレビをつけて、菓子パンをかじる。
「ミサ。おいらも食いたいなぁ」と、テーブルの上でフティーが言った。
「だめぇ。君には罰が必要だよ」
「なんでだよぉ〜」
「なんでだよぉ〜じゃないでしょ? ボクの悲しみ消してくれるんじゃなかったの?」
「おいらが消してくれる? そんなこと言ってないぞ? おいらはアンタを見守ることしかできないよ。
ユキちゃんってヤツに素直に謝ればいいんじゃないか。ごめんねってさぁー」
「いやだよ! 別にボク悪くないもん……。なんで謝らないといけないの? 早くなんとかしてよ、このヤクタタズッ!」
言いすぎたと思った。
「役立たず? じゃあ、なんだ。このままずーーっとスネてるつもりか? ホントにお子ちゃまだな。
それになんだよ自分のことボク、ボクって。それが可愛いとか思ってるのか?」
チョ〜むかついた。だからフティーめがけてティッシュ箱とか周りの物を投げつけてやった。が、フティーは器用にかわしていった。
「ほら、図星だ。自分ひとりじゃ何も出来ないからって、すぐに誰かのせいにする。結局、タリキホンガンなんだよな。ミサは」
「ち、違うもん! 初めっから君なんか頼りにしてなかったもん! バカ……。バカ! バカ! バカァ!」
フティーの言葉にどきっとした。たまらずボクはフティーをおいて玄関に走り、勢いのまま外へ飛びだしてしまった。
わかってた。謝っちゃえばいいってことくらい。でもそんな勇気、ボクにはないんだ。
511 名前:壁を越えて虹を見つける4/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:31:48.51 ID:iliyToDI0
雨の中、傘をさして歩く人の姿はなく、アスファルトの上、水たまりをしぶきあげて走る車の往来があるだけだった。
勢いで飛び出しちゃったもんだから傘を持ってこなかった。おかげで服も髪もびしゃびしゃになった。
行くあてなんてない。けど、いまさら家には戻れなかった。どれくらいの時間さまよっていたのだろう。気がつくと雨はすっかり止んでいた。
ボクはとなり町商店街前の横断歩道で一度足を止めた。ここの赤信号は車の通りが少ないくせに長いことで有名である。
赤信号を待っていたのはボクだけではなかった。
ボクのとなりには、シッポがクルリと丸まった白い仔犬がいる。赤い首輪をしてるところからするとどこかの飼い犬だろう。
コイツはご主人による制限つき自由から逃れるべく、犬の楽園『ワン☆ダーランド』へ何か答えを求め、放浪の旅に出たんだ。きっと。
なんとなくコイツと人間として出逢っていたら、うまくやっていけそうな気がした。とろんと垂れた目で、憎めない顔をしている。
ボクはコイツにサムシングと命名してやった。
「おーい。サム。ご飯はたべたのかー?」
サムシングは一度顔をボクに向けて、フンと鼻を鳴らしてまた正面に戻した。愛想のないやつである。
そして信号を待たずに前進した。
「あ、ちょっと! 行っちゃダメ! あぶなーい!」
あまりにもタイミングが悪かった。大きなヘッドライトがサムシングのすぐ側まで近づいていたのだ。
サムシングは、近づいてくるトラックをボーっと見つめ、道の真ん中に座り始めた。
巨大なトラックは止まる気配もなかった。いや、おそらくは小さなサムシングが見えていないのだ。
このままだと、ひかれちゃう!
放っておけなかった。ボクは道路へ飛び出して、閃光の如くサムシングの方へ駆け出していた。
その時、「いくな、ミサァー!」
叫び声が聞こえた。声の主は、チョ〜むかつく見習い悪魔だ。ボクの後を追って来たのだろう。
でも呼び止めるの、遅いよ。
ボクは道路の中央でサムシングを両手で抱え上げた。耳を壊しそうな悲鳴が聞こえてきた。いや、おそらくはクラクションの音だろうけど。
ボクの自慢の両足は、がくがくと震えだして動かせなくなっていた。
鉄のかたまりが近づいてくる。死神だ。まるでコマ送りのようにゆっくりに見えた。
ママ、ごめんなさい。嘘つきで、親不孝者でごめんなさい。
ユキちゃん、ごめんなさい。ユキちゃんのネックレス、可愛かったよ。本当はちょっとうらやましかったよ。
フティー、ごめんなさい。君がいてくれて助かった。本当に助かったんだ。
死の直前になると、人は素直になれるようだ。どうせだったら、最初から素直に生きておけばよかった。
焦げた匂いがした。目の前がぱーっと真っ白になって何も見えなくなった。
ボクは、死んでしまったようだ。
512 名前:壁を越えて虹を見つける5/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:32:23.84 ID:iliyToDI0
まるで真っ白なトンネルの中をくぐっているようだった。
くぐり終えると灰色の世界が見えてきた。
スッとボクの肩に何かがかすれた。
ふと見ると、鉄の死神がボクのすぐ横を走り去っていった。
「ミサッ!!」
心配そうな声が近づいてきた。
足元がふわふわと浮いているような感覚がして、ボクは路面にへたれこんだ。
雨に濡れた路面が冷たく感じる。
ボクの腕の中でクゥンと弱々しい声が聞こえた。
ボクは、生きているようだ。
「フティー……ボクたち、助かった……」
「バカやろー! 何してるんだよ! 死んじまうとこだったじゃねーか!」
「ごめんなさい」としか言えなかった。
「ミサ……。ここにいるのは危ない。立てるか?」
足に力を入れるがなかなか立ち上がれない。菓子パンの食べすぎと、運動不足によって太ってしまったのかと少し不安になった。
しかし片ひざをついて何とか立ち上がれた。足の感覚はまだくすぐっていた。
「ミサ。ひどいこと言ってごめん。おいらのせいでこんな……」
フティーに謝られた。悪いのはボクだ。ボクが謝りたいくらいなのだ。
「ううん。いいの。アタシこそごめんね」
「え?」
フティー、とても驚いている。
「だって、アタシが素直じゃなかったんだもん。アタシが――」と、途中フティーが笑った。
「やっぱりミサは『ボク』がいい」
やっぱり、ボクもボクがいい。
「ミサ、お家帰ろ?」
「うん!」
513 名前:壁を越えて虹を見つける6/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:32:56.71 ID:iliyToDI0
雨が止んでから道には人通りが出てきた。
やわらかい陽が射しこんで灰色だった世界に鮮明な色が付きはじめた。水たまりが陽光に当たってきらきらと輝いている。
水たまりを踏みつけると、写り込んでいた青空がゆらゆらと水面に揺れて小さな海のようだった。
見慣れた住宅街を歩くボクの後ろからは、フティーとサムシングが続いていた。
「なぁ、ミサ? 犬、ついてきてるよ?」
フティーがサムシングを指差した。
「いいんだよ。サムはご主人が恋しくなったんだ。それが『ワン☆ダーランド』の答えだったんだ」
「んん? 『ワン☆ダーランド』? なんだそりゃ?」
「ううん。なんでもない。ねぇ、空見て!」
遠くの空に淡い七色の橋が架かっていた。虹を実際に見たのはこれが初めてかもしれない。
テレビで何度か見たことはあったけど、それなんかよりもずっと感動した。
「虹は、天使が悲しみを天に持って行くための橋なんだぜ?」とフティーが言った。
「悪魔も悲しみを持っていくんだよね? もしかして悪魔も天使なんじゃないの?」
「なに言ってんだ。天使はおいら達のライバルだ! 今、誰かの悲しみがあの橋を渡って消えていくんだ」
「素敵だね。カンドウした! それに免じてボク、ユキちゃんに謝る」
「おぉ、よくわかんないけどずいぶんと素直じゃないか?」
「うん。やっぱり人間素直が一番だってことに気付いたのさ」
住宅街の一画、大きな西洋風の屋敷の前で、サムシングと別れた。
サムシングは結構なところのお坊ちゃんだったようだ。
また会おうと手を振ると、サムシングは一度鼻を鳴らし、そっぽを向いて屋敷へと消えていった。ボク達も家に帰った。
「何してるんだ。がんばれよ」
電話の前に立つ私をフティーがせかしてくる。
「ちょっと静かにして。今心を落ち着かせてるんだから」
何度も押すべき番号を間違えてしまう。指が震えてうまく押せないのである。
時効間近の指名手配犯が、110番するのと同じくらいかどうかはわらないけど緊張した。
電話の奥で呼び出し音が鳴った。もう、後戻りは出来ない。大きく息をはいた。
「もしもし……」
電話の向こうはユキちゃんだった。今ボクは大きな壁を乗り越えようとしている。
そしてボクの声は距離を越えて素直な思いを発信させた。
514 名前:壁を越えて虹を見つける7/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:33:34.26 ID:iliyToDI0
「ふぅー。終わったぁ」
ボクの額にはじっとりと汗が浮き出ていた。
「許してもらったのか?」
「うん。ユキちゃんもごめんって。ずっと謝りたかったんだって」
「そうか。よかった。ミサはよくがんばった」
長い間、ボクをナメクジにしていた呪いはやっと晴れた。ボクはメチャクチャカワイイお姫様に戻ったのだ。
その夜。どっと疲れが押し寄せてきてボクは白雪姫以上の深い眠りにふけた。
「ミサ。おいら、もう行かなきゃいけない」
日曜の昼、突然の別れが訪れた。いつものようにリビングでテレビを見ていると、フティーが真面目ぶってそう言ったのである。
「何言ってるの?」
「だから、アンタとお別れだ」
血の流れが逆流したかと思った。
「え、本気で言ってる?」
「本気だ。おいらは次の悲しみの元へ行かなきゃ行けないんだ。もうアンタにしてやれることは――といっても、何もしてやれなかったけど……。
アンタの悲しみはおいらの魔力にさせてもらった。だから、アンタはもう悲しくないはずだ。別れって突然なんだ。おいらは寂しいよ。
ずっと側にいたかったよ。わかってくれ」
なにやら勝手なことを言っている。そんなこと言って、ボクが納得するとでも思っているのだろうか。
ボクがどれだけフティーに寂しさを紛らわさせてもらった知っているのだろうか。
ボクがどれだけフティーに助けられたか知っているのだろうか。
ボクがどれだけフティーに……。
ボクがどれだけ――
出会いがあれば別れがあること、心のどこかで分かっていた。これは当然のことなんだ。だからボクは、気持ちよくフティーに手を振ってやらなければいけないと思った。
「うん。わかったよ。長い間ありがとうフティー」
おかしいな。情けなく声が裏返ってしまう。ボクは少し素直になりすぎたのかもしれない。
雨が降っている。しっとりとした物悲しい雨ではなく、次に晴れた時には、清々しいくらい太陽が覗き込みそうな激しい雨だ。
「お、おい。ミサ、泣いてるのか?」
「泣いてないよ? これは心の雨だもん」
「そうか……。一人前の悪魔になるための試練、初めての相手としては中々よかったぜアンタ」
「へへへ。君は一人前の天使様になった方が似合ってるんじゃないの?」
「ぐぅ……アンタってやつは。でもわかってくれてありがとう。お別れに洒落たことはちっとも出来ないけど、一つだけ約束をしていこう」
515 名前:壁を越えて虹を見つける8/8 ◆SiTtO.9fhI 投稿日:2006/12/02(土) 17:34:24.21 ID:iliyToDI0
「約束?」
「そう、約束だ。おいらが大魔王様になったとき、ミサ、アンタをおいらの嫁にしてやる。いやだとか言うなよ」
ボクは飛びきりの笑顔で答えてやった。
「いやだね〜だ」
「なぬぅ……。やっぱりアンタは笑顔の方が似合ってるな。これでおいらは安心して次へ行ける。ありがとうミサ。
迎えに来てやるからその時まで待ってろよ! じゃあな」
そう言ってフティーは空気ににじむように薄くなって、瞬きと同時に消えてしまった。
大量の涙が溢れてきた。リビングが洪水になってしまわないか心配になった。こんな経験初めてだった。
しかし、どんなに泣いてもフティーは戻ってこなかった。ボクの涙に悲しみの成分はないようだった。
フティー。
どれだけ時間がかかるのかわからないけど、もし大魔王として君が戻ってきたとき、ボクに好きな人がいたらごめんね。
でも、なるべく待っててあげる。君がボクをさらってくれるまで待ってあげるね。
心の中を太陽が照らした。
さて、カーテンを開けてリビングに光を入れよう。ボクはもうナメクジなんかじゃないんだ。
窓を開けると空には太陽がまぶしいくらいに輝いていた。温かい風がリビングに吹き込んで、ボクの髪をさっとなでた。
明日から学校に行こう。少し不安もあるけれど、これから待ち受けているであろう素敵な冒険に胸がおどる。
今日は朝からよく晴れていた。
ボクははるか遠くの空に奇跡を見つける。
それがフティーの憎い演出だとわかった時、ボクは心からの感謝をした。
ボクにしか見えない友達。
悲しみさらう優しい悪魔。
ありがとう。
フティー。
君が初めて使った魔法はボクの涙を虹に変えた。
終