【 プリン裁判 】
◆VXDElOORQI




330 名前:プリン裁判(1/4) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/11/26(日) 23:31:09.88 ID:QUxCj3T80
「友達の子にね。彼氏が出来たんだって」
「ふーん」
 妹は学校から帰ってくるなり冷蔵庫を漁り始めた。そしてそれと同時に始まる俺との世
間話。
「お前も恋愛とかに興味あるわけ?」
「う、うーん。そうだなぁ。まあ少しはある、かな? あれ? おかしいなー。どこ置い
たんだったかなー」
 俺と世間話としながら妹は冷蔵庫を漁り続ける。どうやらお目の当てのものが見つから
ないらしい。
「なにがないの?」
「プリン。昨日買ってきたやつ。今日食べようと思って楽しみにしてたんだけど……」
 その言葉を聞いて俺は固まった。
「お兄ちゃん、しらな……。ってお兄ちゃんが食べてるのって……」
 妹はついに気付いてしまった。今まで俺と顔を合わせずに冷蔵庫を漁っていたから、気
がつかなかった事実。左手にプリン。右手にスプーン。口の端に生クリームがついている
俺の姿に。
「た、食べる? うまいぞ」
 残り四分の一ほどになったプリンをそっと差し出す。
「お、お兄ちゃんのバカー!」


「それでは第一回お兄ちゃんが私のプリンを食べちゃった事件の裁判を始めます」
 妹はコタツでぬくぬくしながらそう言った。俺はフローリングに正座なのにね。
「妹、じゃなかった。裁判長」
「はい、お兄ちゃん。じゃなかった被告人。なんでしょう」
「俺もコタツに入れさせてください」
 フローリングで正座は非常に寒いのだ。
「ダメ」
「そこをなんとか」
「ダメ」

332 名前:プリン裁判(2/4) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/11/26(日) 23:32:01.50 ID:QUxCj3T80
「お願いします。この通り」
 とりあえず土下座。
「ダメ!」
 力一杯、コタツを叩く妹。その衝撃でコタツの上に置いてあったミカンが一瞬宙を舞う。
「はっ、すみません」
 妹の顔が怖い。プリンを勝手に食べたことを相当怒っているようだ。
「被告人はそこで十分なの!」
「で、ですよね」
 こめかみをヒクヒクさせて、もう一度コタツを叩く。
 さすがにプリンを食べたくらいでここまで怒るとは思いもしなかった。たかがプリン、
されどプリンということか。甘いものをなめちゃいけないね。
「と、ところで裁判長、俺に弁護士は?」
「いません」
「検察は?」
「私です」
「でも貴方は裁判長ですよね?」
「そうです」
「裁判長と検察どっちもやるんですか? 弁護士もいないしこれじゃ俺が圧倒的に不利な
んじゃ」
「うるさい!」
 バンバンとまたコタツを強打する妹。ミカンが一つコタツから転げ落ちる。
「すみませんでした」
 余計なことは言わないほうがいいことに今更ながら気付いた。
「それじゃ裁判始めますよ。まずは被害者のプリンさんの証言です。プリンさんどうぞ」
 妹は食べかけのプリンを取り出すと、プリンを持った手だけを残してコタツの中にもぐ
ってしまった。
 なにがしたいのかさっぱりわからん。
 すると妹はプリンを左右に細かく揺らしながら、コタツの中で意味不明なセリフを喋り
だした。

333 名前:プリン裁判(3/4) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/11/26(日) 23:32:34.32 ID:QUxCj3T80
「そこの男が私を無理矢理食べてしまったの。私は妹ちゃんに食べてもらうのを楽しみに
してたのに……」
 どうやらこれはプリンに証言させているつもりらしい。
「それなのにあの男は嫌だと言う私に無理矢理スプーンを突き刺して……」
 謎のプリン証言を終えた妹はモソモソとコタツの中から出てきた。暑かったのだろう。
顔が真っ赤だ。
「ふぅ。プリンさん。辛い出来事を証言してくださってありがとうございます」
 そんなこと言いながら、残ったプリン食ってるし。
「じゃ、判決」
「早! 少しは俺に自己弁護させろよ」
 あからさまに嫌そうな顔する妹。
「被告人。貴方はプリンさんの証言を聞いてなかったんですか。それならもう一回聞きな
さい」
 妹は空になったプリンのケースを片手にまたコタツにもぐろうとする。
「もういいよ。てかお前プリン食っただろうが」
「あ、そうだった。って裁判長に向かってその口に聞き方はダメでしょ!」
「痛っ。ミカン投げないで。ごめんなさい。ごめんなさい。すみませんでした」
 ミカンの汁が目に直撃して目が痛い。
「では判決を言い渡す」
 もうなにも言うまい。どんな酷い罰でも俺は受け入れるよ。すでに色んな罰受けてる気
がするけど。
「被告人は、今から私と一緒にプリンを買いに行くこと。以上」
「……それだけ?」
「それだけ。さ、早くいこ。お兄ちゃん!」
 妹は俺の腕を取ると強引に引っ張っていった。

 まともな店はもう閉まっていたので、コンビニでプリンを買った俺達は家への道を歩い
ていた。妹と腕を組んでいるので非常に歩き辛い。
「なあ」
「なに?」

334 名前:プリン裁判(4/4) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/11/26(日) 23:33:06.06 ID:QUxCj3T80
「プリン勝手に食ってごめんな」
「私こそあんなに怒ってごめんね。ミカン投げつけちゃったし」
 うん、あれは効いた。目に効いた。
「お兄ちゃん、さっきの話覚えてる?」
「さっきの?」
 いきなりそんなこと言われても、いつの話なのかさっぱりわからん。
「恋愛に興味あるのかって話」
 ああ、あれか。なんでまたそんなことを今になって掘り返すんだ。
「さっきはちょっと興味あるって言ったけどさ。私は今のままが一番好き。このま
まずっとお兄ちゃんと一緒にいたいな」
「え、それってどういう――」
 俺の言葉を遮るように妹は腕をひっぱり、少し照れたような笑顔を見せた。
「いいから、早くお家に帰って一緒にプリン食べよ! お兄ちゃん!」
 なんか誤魔化された気がするけどまあいいか。とりあえず今は帰って妹と一緒にプリン
を食べたい。
「じゃあ急いで帰るか。俺もいい加減コタツに入りたいからな」
「うん!」

おしまい



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