【 破壊への戒め 】
◆InwGZIAUcs




54 名前:破壊への戒め1/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:30:05.36 ID:H7jnGWyS0
「ばかあぁぁぁーーーー!」
「ちょっとやめなさい!」
「お姉ちゃんが悪いんだもん!」
「だからって!」
 愛らしい声で罵倒しあう姉妹の様子は、本来なら微笑ましいものなのかもしれない。
しかし、現在進行形で行われている姉妹喧嘩は、お世辞にも微笑ましいとは言うことはできないだろう。
 何故ならば、彼女達は自然の力を操り奇跡を起こす、『魔法』を扱うことのできる双子の姉妹だからである。
 さらに二人には、『破壊の双児』という物騒な二つ名までついていた。
 そもそも二人の喧嘩している場所も常軌を逸している。
 大きめの箒に跨る二人は、空に遊ぶ鳥のように舞いながら喧嘩をしているのだ。 
「プリン返してぇーーーー!」
 黒く長い髪を振り乱しながら、妹であるフェインは力の限り『魔法』を放った。氷柱が、同じ顔をした姉のレイアを襲う。
「だからゴメンって!」
 姉のレイアも、『魔法』で炎を操りフェインの氷柱をやり過ごす。次いで、破壊力を伴う炎球を投げつけた。
 そんなレイアは、肩より短く髪を揃えており、どことなく妹より大人っぽい雰囲気を纏っている。
 そんな二人は、辺りに被害をまき散らし、『魔法』による姉妹喧嘩は勢いをつけていった。

 ある所に、『魔法』という類い希なる能力を持つ者達が暮らす里があった。
 里全体に施された『魔法により、』『魔法』を扱う事のできない人間にはその位置を把握する事も、
見つける事もできない。そのおかげで、里から外に出る事はあっても、外界から干渉があるという事は滅多になく
 その日も、平和な一日が過ぎようとしていた。しかし、そんな平穏は唐突に破られた。
「長老! 大変です!」
 慌ただしく里の長老家の扉が開け放たれる。そこには一人の女性が息を切らしていた。
「ステラか。突然どうしたのだ?」
「す、すみません! うちの子供達が――」
「ふむ、破壊の双児達がどうかしたかね?」
 レイアとフェイン、つまりは『破壊の双児』の母親であるステラは、
とても慌てているのか挨拶もせずに、用件だけを一言で述べた。
「せ、精霊の玉を壊してしまいました!」
「……どれ、いくとしよう」

55 名前:破壊への戒め2/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:30:27.63 ID:H7jnGWyS0
 動くのにも一苦労かける腰を上げ、長老は玄関へと向かった。

「ふむ、これはまた派手に壊したね」
 ちょっとした大きさの泉。そのほとりの一画で、長老はしみじみと呟いた。
 精霊の玉を祭った祠は、巨大な氷柱が突き刺さり、ところどころ焦げ落ちていた。
「それで、二人は?」
「あっちでみっちり叱っています」
 長老が、ステラの指した方を見ると、そこでは彼女の夫であるカテルスが二人を怒鳴っていた。
「レイア! フェイン! 十六歳にもなって……お前達、精霊の玉がなんなのか解ってるのか?」
 精霊の玉は外敵からこの里を隠す『魔法』が施された道具である。
 つまり、その『魔法』が失われた今、この里の力を狙って山賊や、王都の兵団が押し寄せてきても不思議ではなかった。
 当然、幼い頃からそれを教え込まれている二人がそれを知らないはずもない。
「わ、悪気はなかったのよ」
「うぅ……ごめんなさいお父さん」
 冷や汗を垂らし、苦い笑みを浮かべているレイアと、完全に怯えきったレインの様子に村長は嘆息し、
今だ怒鳴り散らしているカテルスをなだめた。
「まあまあ。カテルス君、落ち着きなさい」
「村長! これは生半可に許して良い事では――」
「二人とも反省しているのだろう? ならばやって貰う事は一つだけだ。罰として北の湖に住まう、
精霊セレス様から精霊の玉を貰ってきてもらおうか?」
 ぽかんとする二人をよそに、村長は禿げ上がった頭の上に杖をかざす。すると、杖の先から眩い光が放たれた。
 そして光が収まる。
 村長はにっこり笑って二人に告げた。
「精霊の玉と同じ効果の魔法をこの里にかけた。しばらく外界の人間に見つかる事は無いと思うが、
ずっとこのままというわけにもいかん。早速行ってきて貰おうか、破壊の双児達よ」
 微笑んでいる筈なのだが、どこか凄みの効いた村長の顔に、二人はただただ頷く事しかできなかった。

 慌ただしく発っていた二人を見送った村長に、姉妹の父、カテルスが話しかけた。
「村長……二人を甘やかさないで下さいよ」
「安心しなさい。精霊の玉を壊した罪は軽くない。きっちり懲らしめますよ」

56 名前:破壊への戒め3/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:30:46.47 ID:H7jnGWyS0
 村長は小さく笑いながら家の方へと帰って行った。
(精霊セレス様は確かに人が悪いお方だけど……)
 恐らく、レイアとフェインは精霊の玉を貰うのに苦労するだろうと、カテルスも予想していた。
村長もそれを彼女たちに対する「懲らしめ」といして狙っているに違いない。そう判断して、
カテルスも家へと帰っていった。


「はあ、なんでこんな事に……」
 レイアは溜息を惜しみなく吐き捨て、風を切る箒の上でがっくりと肩を落とした。
「お姉ちゃんだって悪いもん!」
 反省の色が全く見れないレイアの横を、不機嫌に飛ぶのはフェインである。
 二人は今、里の北にあるという精霊の湖を目指して箒を走らせていた。
 空の散歩は穏やかな風と天気に恵まれて、今のところ快適に進む事ができている。
 その時、大きな建物や、行き交う大勢の人々が賑わっている、『街』が二人の目に飛び込んできた。
 外界に触れる事が希有である二人の好奇心をくすぐるには十分な眺めであった。
「ねえフェイン! ちょっとだけ寄っていこう?」
「でもでも、村長やお母さん達に怒られちゃうよ?」
 そう言いつつも、フェインの好奇溢れる眼差しは、『街』に向けられていた。
「大丈夫よ! 誰も見てないし、精霊の湖の情報も聞けるかもよ?」
「でも、このまま真っ直ぐ行けば湖よ? 聞く必要は無いんじゃ――」
「そんな細かい事はどうでもいいの! ほら、ひょっとしたら今その湖には巨大な火吹き竜でも住んでて、
その情報をここで確認しなかった私たちは、湖に行った途端黒こげにされちゃう……かもよ?」
 おおよそありえない情報を捏造するレイアの言に、聞き入るフェインは真面目に頷いた。
「そ、そうね。そうかもしれないわ!」
(我ながら単純な妹だわ)
 レイアは心中で呟くと、気を取り直して出発進行の号をかけた。

「はぁー」
「ほぇー」
 二人の感嘆する声は、人々の慌ただしい喧噪に紛れていく。

57 名前:破壊への戒め4/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:32:04.13 ID:H7jnGWyS0
「世の中にはこんなに人がいたのね」
「うん、フェインも知らなかった」
 姉妹は人の行き来が激しい通りを歩いていた。その通り沿いにある店々を外から見たり、
時には中に入ってみたりなど、滅多に無い機会を堪能している。
 早く過ぎていく時間に気付かない姉妹。
 橙色の太陽が地に呑まれ、白く煌めく月が顔を見せ始めた宵の口。お店から出た二人は、
置かれた状況にようやく気付く。
「はは、いつの間にか夜になってる」
「お姉ちゃん、どちらにしろ宿は取るつもりだったし……ここで一晩過ごそう?」
「そ、そうね。もう少し北にある街で取るつもりだったけど……ここでも変わらないわよ」
「うん」
 まばらに灯る街灯の下。二人は、宿屋の看板を探して夜道を進んでいく。すると、一際明るい店の光の中で、
賑わう人々が目に入ってきた。扉は開かれ、沢山の笑い声や話し声が少し離れた二人にも聞こえてくる。
「何だろう?」
 首を傾げるレイア。
「お祭りかなあ?」
 それを真似したように、同じ角度でフェインも首を傾げた。
「フェイン、ここで宿屋の場所を聞いてみるわ。幸い人が沢山いるし」
「だ、大丈夫? お姉ちゃん」
「まかせななさい」
 軽くウィンクをして、レイアはその祭りの最中へと入っていった。
(だ、大丈夫かなあ?)
 フェインは外からおどおど中の様子を伺った。中では、大人達がコップ片手に賑わっている姿が見られる。
すると、突然中から一際大きな笑い声と、大声が辺りに響き渡った。
「私は今年で十六よ! 子供扱いしないで! こんなお酒くらい軽く飲めるわよ!」
 その大声はレイアのものであった。フェインは慌てて店に入ると、机の上に堂々と立ち、
コップのお酒を勢いよく飲み干している姉の姿があった。
「おお! やるね嬢ちゃん!」
 そう言って「もう一杯!」を勧める男。
「あ、あの、その……お姉ちゃん?」

61 名前:破壊への戒め5/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:32:48.38 ID:H7jnGWyS0
 レイアはその「もう一杯!」を飲み干して、慌てふためくフェインの方へと倒れていった。
 目を回すレイアをなんとか支え、フェインは大きく溜息をついた。
(ここって噂に聞く……酒場っていうとこかしら?)
 見当をつけた彼女は、とにかくひたすら周りに謝りつづけた。


 一夜明けた今日。レイアとフェインは、再び湖を目指して箒を走らせていた。
「外界……いや、、街は危険な場所ね。村長が罰として外界に出したのも頷けるわ」
 昨日に引き続き陽気な天気だ。
「自業自得だもん」
 昨日の夜、親切に宿屋の場所を教えてくれた酒場のおじさんにお礼を言い、
フェインは目を回して寝てしまったレイアを抱え宿へと運んだのだ。
「とっても重かったもん」
「だからごめんって」
 二人がそんな会話を重ねているうちに、目的である精霊の湖は目と鼻の先まで近づいていた。

 湖の中心にはちょっとした小島があり、そこには祠が建っている。レイアとフェインはそこに箒を降ろした。
「中々綺麗な所ね」
「ほんとぉー」
 太陽の光が乱反射してキラキラ輝く水面と、その湖を囲うように生い茂る爽やかな緑は、
彼女たちの住む里にも少し似ていた。
「さあ、ぱっぱとセレス様から精霊の玉を貰うわよ」
「う、うん」
 早速祠に入ろうとした時、二人は大きな影に包まれた。雲にしては、影の形がいびつである。
 恐る恐る二人が振り返ってみると――
 湖に波を打たせるような、大音量の鳴き声が響き渡った。
「きゃああああああ」
 二人は慌てて箒に跨り空中に逃げる。振り返るとそこには、湖に浸かる真っ赤な竜の姿があった。
「お、おねええちゃん! 火吹き竜が本当にいたああああ」
「そんなあああ! 冗談だったのにぃ!」

62 名前:破壊への戒め6/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:33:02.22 ID:H7jnGWyS0
 慌てふためく二人。そんな二人を見つめながら、竜が喋った――
「うふふ、ごめんなさい。ちょっとした冗談ですわ」
 その言葉と共に、竜の姿は小さくなっていく。そして、そこには綺麗な水色の髪をした女性が浮かんでいた。
「へ?」
「せ、セレス様?」
 顔が強ばったレイアと涙目のフェインは、逃げ腰のまま、各々呟いた。

「じゃあ殺し合いをして下さいな?」
 精霊セレスは、まるで午後のお茶でも誘うような表情と、透き通った声を紡いだ。
「い、今なんて?」
 思わず耳を疑うレイア。フェインも同じように、困惑の色を見せている。
「あなた達二人で殺し合いをして下さいまし」
 セレスは強ばる二人の顔を一瞥し、クスッと笑い言葉を続けた。
「精霊の玉が欲しいのでしょう? さあ」
 レイアは、顔を険しくして精霊セレスに尋ねた。
「それしか方法はないのですか?」
 セレスは、絵画のように美しい笑顔で頷いた。

 フェインは、半ば無理矢理姉に引っ張られる形ではあるが、今、レイアとフェインは湖の上で対峙していた。
「いいから戦うわよ!」
 そう叫ぶレイアに、フェインはただひたすら困惑した。
「なんで! フェイン嫌だもん!」
「なら私が殺しちゃうわよ!」
 その言葉と共に、レイアの手のひらから巨大な炎の玉が放たれた。フェインも、氷の壁を張り、その炎をやり過ごす。
「止めてよお姉ちゃん!」
「いいから戦いなさい!」
 レイアの炎の『魔法』が止めどなくフェインに降り注いだ。それに合わせて、
フェインはもう一度氷の壁を張る。相殺しあう炎と氷は、蒸汽を辺りにまき散らした。
 しかし、その余波がフェインの体勢を崩す。すぐに、体勢を整えるため、フェインは距離を取った。
 お姉ちゃんは本気だ、とフェインは胸中で呟いた。

63 名前:破壊への戒め7/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:33:14.26 ID:H7jnGWyS0
 『破壊の双児』と呼ばれるレイアがひとたび本気になれば、フェインに防ぎきる事は出来ない。
またそれは逆の事も言えた。フェインが本気で攻撃をすれば、いかにレイアといえども、防ぎ切れはしない。
つまり『破壊の双児』とは、攻撃の『魔法』に長けた二人にだからこそ名付けられたのだ。
「フェイン! 大丈夫だからいつものように戦いなさい」
「いつもの……?」
 フェインはいつもの喧嘩を思い出す。お互い防御を考えずに打ち合う『魔法』合戦は、攻撃と攻撃が
相殺しあう事で、同時に防御の役目も果たしていた。つまり、本気の攻撃に、は本気の攻撃で返せばよい。
 フェインはその意味を察すると同時に、姉の言葉を信じた。
「……わかった!」
 こうして、「破壊の双児」による本気な戦いの、短い幕が上がった。
 フェインの産み出した、尖った雹の嵐がレイアへと吹き荒れる。しかし、灼熱の壁がその雹を溶かして消滅させた。
お返しと言わんばかりに、レイアの放った渦巻く火柱がフェインを襲った。
が、フェインは、その火柱を雪交じりの圧倒的な強風で屈服させる。
 一瞬の間。
 その間に、レイアは頭上に腕を掲げた。その手の平に巨大な炎球が浮かぶ。
 その間に、フェインは片腕を突き出した。その手のひらに氷山のような氷塊が浮かぶ。
 次の瞬間、二つの固まりは激しくぶつかりあい、辺りに轟音と震動と破壊をもたらした。
 全ての衝撃が止んだ後、二人は肩で息をしてその場に佇んだ。そして、レイアはニコッと笑った。
「これくらいで終わりね」
 そう言って、湖の小島へと降り立った。その後ろにフェインも続く。
 小島には、不思議な顔をしたセレスが、見えない椅子にでも座るように足を組んで浮かんでいた。
「あら、もう終わりかしら?」
「はい。ちゃんと『殺し合い』ましたよ」
「結果は出ていないようだけど?」
「はい。結果を出せとは言われませんでした」
 目を丸くするセレスに、レイアは不敵な笑みを投げかけた。次いで言い放つ。
「もし、その先まで望まれるなら、私は玉を諦めて帰ります」
 今だ目を見開いたままのセレス。フェインも、後ろからぽかんとレイアを見つめていた。
「フ、フフ、フフフ、アハハハハ!」
 突然、セレスは笑い転げた。お腹も押さえている。

64 名前:破壊への戒め8/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:33:27.00 ID:H7jnGWyS0
「あ、あなた良い子ね。妹が大事なんだ! さっきのは、全部お芝居だったの?」
 笑いながらセレスは尋ねた。
「お芝居ではありませんよ? いつもやる姉妹喧嘩を本気でやっただけです」
「アハハ、そうなの。そうね、じゃあ約束通り精霊の玉をあげるわ」
 セレスが両手を添えると、どこからともなく、水晶の様な玉が現れた。
「大事にしてね?」
 セレスはにっこり微笑むと、レイアに精霊の玉を手渡した。


 精霊の玉。里には欠かす事のできない大切な道具。それを壊してしまったレイアとフェインは、
精霊セレスとの交渉に成功し、なんとか同じものを持ち帰る事が出来た。
 しかし、三日ぶりに帰ってきた里は、いつもと様子が全く違っていた。
 レイアは、思わず手に持った精霊の玉を握りしめる。
「なにこれ……」
 やっと紡ぎだしたレイアの声は、そよ風にさらわれる程小さなものだった。フェインは、
小刻みに震え、レイアの腕を掴んでいる。
 二人の眼前に広がったのは、無惨に荒らされた自分たちの里だった。所々に倒れている人々は皆、
剣の凶牙に犯されており、血で地を朱色に染めていた。
 立ちつくす二人の下に、ゆっくりと、足を引きずりながら近づく男がいた。村長である。
「村長!」
 レイアは村長に手を貸した。村長は、感情がまるで消えたように呟く。
「皆死んだ……外界の者が押し寄せたのだ」
「そ、そんな」
 フェインは膝をつき、嗚咽を漏らし始めた。レイアの目にも涙が浮かんでいる。
「お前達のせいだぞ……」
 村長の言葉が二人に深く突き刺さる。
 私たちが壊さなければこんな事にはならなかった。そんな自責の念が、今更になって二人に押し寄せる。
もう取戻す事のできない現実に、レイアも膝をついた。
「反省しろ」
 上から降り注ぐ村長の言葉に、二人は反応する事もできない。

66 名前:破壊への戒め9/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:33:38.84 ID:H7jnGWyS0
「こうなるかもしれんのだぞ」
 力強い村長の言葉が、彼女たちに投げかけられる。
「ほれ、顔を上げなさい」
 レイアとフェインは溢れる涙も止めずに上を向いた。
 そこには笑う村長がいた。そして村長は、パチッと指を鳴らす。
 すると、まるでその音は、光を放ちながら広がっていった。光が収まると、
二人の眼前にはいつもと変わらない見慣れた里の景色が飛び込んできた。
「え?」
 二人は同時に呟く。
「いや、ちょっとやりすぎたかもしれん……今のはワシの魔法が見せた幻影だったのだよ」
 頭の整理がつかない二人の手助けをするように、村長は二人を立ち上がらせた。
「レイア? フェイン?」
 二人の目からまた涙が零れ出す。大音量の叫び声と共に――


 フェインは広場のベンチで座っていた。先程のショックが抜けていない彼女は、
今だ鼻を啜り、目には涙を残していた。
 その時、レイアがそのベンチの横に座った。そして、フェインにコップのような物を差し出す。
「はいこれ。……プリン」
「へ?」
 レイアが差し出してきたのは、いつぞやフェインが食べ損ねたプリンであった。
 旅途中の『街』で、レイアがこっそり買ったのだ。
「ほら、私が前食べちゃったから」
「あ、ありがとうお姉ちゃん……」
「べ、別に! 私が食べようと思って買ったついでよ!」
 なんとなく頬を染め、そっぽを向くレイア。対してフェインの顔には笑顔が戻ってきたようだった。
「お姉ちゃん?」
「何よ?」
 今だ照れてる姉のレイア。フェインは、そんな姉を可愛く思う。

67 名前:破壊への戒め10/10 ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/26(日) 16:33:56.76 ID:H7jnGWyS0
「大好き!」
 レイアはフェインに思いっきり抱きついた。 

「やりすぎですよあなた!」
「面目ない……」
 地面に正座している村長に檄を飛ばしているのは、村長の奥さんである。
「まさかあんなに若い二人の娘にそんなお仕置きをするなんて! それにまた精霊の玉も壊れるし」
 村長が種明かしをした時、感情の高ぶりによって暴発したレイアとフェインの『魔法』は、
せっかく持ち帰った精霊の玉を壊してしまったのだ。『魔法』や物理力の干渉を遮断する、
レイアとフェインの持つ『魔法』の鞄に入っていたお土産のプリンや私物は無事であったが、
いち早く見せようとレイアの手にあった精霊の玉は運の悪いことに剥き出しであったのだ。
 もちろん、精霊の玉に、彼女たちの暴発した『魔法』に耐えうるほどの強度は無かった。
 何にしろ村長は、『破壊の双児』という名の、本当の由来を垣間見たのである。
「とにかく! 今度はあなたが精霊の玉を貰ってきなさい!」
 そして、有無をも言わせない奥さんの剣幕に、村長はただただ頷く事しか出来なかった……。

終わり



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