【 権利 】
◆Author/71A




905 名前:品評会提出作品「権利」1/6 ◆Author/71A :2006/11/26(日) 10:31:17.41 ID:R1p4MCHm0
 二〇〇六年十一月二十五日金曜日。彼は失った。全て。何もかもだ。いや、そう言うにはあまりに早計かも知れない。しかし確実に欠けている。ずっと守りたい、日常を続けたい。そう思っていた。が、破壊願望もあった。

「え、マジで?」
 事態が飲み込めなかった。何のことか分からない。なぜなら、突如彼が「権利」を手に入れたためだ。
「いや、あの悪いけど、そーゆーことは、家とか学校で友達とかとやってくれよ。後はどっかの掲示板で小説として書いてみたり?」
 彼は否定した。そんなことはマンガや小説の中でしかありえないと経験上知っているからだ。
「そんなこと言われても、うちはもう伝えたし、ちゃんと『権利』も与えたし知らんで?ほなねー。」

906 名前:「権利」2/6 ◆Author/71A :2006/11/26(日) 10:32:24.98 ID:R1p4MCHm0
 何なんだこの状況は。あまりに説明不足過ぎる。だってそうだろう。いきなり友人だったヤツから

「うちこのカラダに乗り移った神仏のお使い?やねんけどー。神仏の命であんたに『人を懲戒する権利』を差し上げまーす!パンパカパーン♪」

 などと言われた。しかもその友人が凡そ発したことが無いだろう別人の声で。そこで先ほどのセリフである。

「いや、あの悪いけど、そーゆーことは、家とか学校で友達とかとやってくれよ。後はどっかの掲示板で小説として書いてみたり?」

「そんなこと言われても、うちはもう伝えたし、ちゃんと『権利』も与えたし知らんで?」

「ま、待ってくれよ!オレはどうすれば!?」

「知りまへーん♪バイバーイ☆」

 そもそも「人を懲戒する権利」とは如何なるものなのか。権利を行使する方法は?全てが謎だった。

907 名前:「権利」3/6 ◆Author/71A :2006/11/26(日) 10:32:57.84 ID:R1p4MCHm0
 とりあえず、さっきのは夢だと割り切って、今は日常を普通に過ごすことにした。普通に仕事をこなし、休憩し、時には上司に愚痴を言われた。
 くだらない小さなミスのことで長引く上司の愚痴。彼は貴様のようなくだらない人間にオレの時間を無駄にされたくない。と常々思っていた。仕舞いには彼の家系にまで言及する始末。全く不愉快だ。
 愚痴が終了すると、同僚としばし休憩がてら談笑した。相手は彼の良き理解者で先輩の知尋と同期の祐樹である。
「全く上田の説教には参りましたよ……。」
「分かるよその気持ちー。部下を出世のコマにしようとしてるのがありありと分かるねー。」
「確かにアイツだけは全く勘弁だな……。」
「本当だよ。あんなヤツが上司だなんて……。はぁ、上田なんて消えて無くなれば良いのになぁ。」
「けど、今は諦めるしかないよ。ね、元気出して二人ともまた頑張んなきゃ!ね!」
「そうですねw」
「オレやっぱ知尋さん萌えw」
 適当に気持ちもさっぱりしたところでデスクに戻り、適当に仕事を消化し、一日が終わった。

908 名前:「権利」4/6 ◆Author/71A :2006/11/26(日) 10:34:18.44 ID:R1p4MCHm0
 彼が仕事をいつもどおりこなしながら数日経ったある日、周りが騒ぎ始めた。「上田が解雇された」と。そう言われて掲示板を見て気付いた。しかしその時は特に気に止めなかった。むしろ気分が良かった。後任はまだ決まっていないらしい。

 さらに一週間後、彼が同じく知尋に同僚の親の七光りによるあからさまな出世を愚痴っていると、その同僚も懲戒解雇された。その時分かった。「権利」に。「権利」を上手く使えば彼にに居心地の良い環境ができる。

 彼は自分が教育した後輩、彼のことを気に入っている上司で身を固め自分より能力の劣る同僚のみを残した。

自分の評価は一層高まり、富と名声と権力が手に入る――ハズだった。

909 名前:VIP女神 :2006/11/26(日) 10:36:00.67 ID:R1p4MCHm0
 しかし彼は「権利」を行使するにあたって一つだけミスを犯した。勢い余って祐樹を懲戒処分にしたことだ。

 目の前が真っ暗になった。この会社での彼の出勤意義はただいつしか祐樹と知尋との談笑のみだったのだ。その空気は何があっても守りたかったのに、自分の欲望のせいでついに破壊してしまった。

 いつもの休憩所で頭を抱えていると人影が一つ見えた。

910 名前:「権利」6/6 ◆Author/71A :2006/11/26(日) 10:36:56.48 ID:R1p4MCHm0
「そろそろ分かりはった〜?」

「え、知尋さん……?」

 以前の使いの声だ。

「知尋さんに乗り移るんじゃないよお前!」

「へぁ?元からうちやってんけどぉ?」

「なっ」

 二の句が出なかった。

「気付いてはった?実はあの『権利』を得た瞬間あんたが既にヒトとして懲戒されていることを……」

 分からない。何を言ってるんだ知尋さん。冗談は……止めてくれ。

「欲しかったんやろ?破壊が。『権利』が。」

「オレは、そんなの望んでなど……!」

「いずれは知尋の肉体をも蹂躙するつもりやってんろ?甘いねんなぁ。ま、これを機会に人生がんばりなはれ〜♪」

 そう言うと彼女は極上の笑顔を残し目の前から消えた。その場に残された彼は最高の環境を残して、翌日、二〇〇六年十一月二十五日限りで辞表を提出した。



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